『派遣社員あすみの家計簿』 | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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今年もあと一か月となりましたが、2023年に読んだ本の中でぶっちぎりで予想を裏切った本をご紹介したいと思います。

 

『派遣社員あすみの家計簿』(著/青木祐子)

この本のタイトルを読んだとき、たぶん派遣で働く女の子の節約術とか倹約生活とかを描いたお話かな、と思ったのですがそんな甘い話ではなかった。

始まってすぐ、主人公のあすみの通帳残高428円、来週には92000円の家賃の引き落としが迫ってることが告げられる。(すでに計算が合ってない)

しかも恋人の口車(?)に乗ってあすみは優良企業を退職したばかり。問題の恋人は姿をくらまし、退職金も引っ越し代やその際に買い換えた家電に消えている。

 

読み始めて12ページ、主人公すでに絶体絶命である。

 

親を頼るわけにもいかず、しっかり者の親友にアドバイスを貰ってなんとか生きていくあすみ。

というか、小説の半ば過ぎまで派遣社員にもなれないんだ、あすみちゃん。

それまで日雇いとか怪しげなバイトでなんとか食い繋いでる。

でもそこで出会った人たちがそっと支えてくれた。

 

前半の日雇いで出会った人は後半の派遣社員になった辺りからあまり出てこなくなったのだけど、日雇いでティッシュ配りをしていたときに出会った少女が再び泥沼に堕ちそうになったあすみを間接的に救ってくれる。

その様子が、あすみもその子にことを大切に想っていたことが痛いくらいに伝わってくるエピソードで、ああ、この二人はずっと心の奥では繋がっていたんだと嬉しくなった。

 

あすみをどん底に突き落とした元彼に対して報復が殆どないまま終わったのが心残りであったが、後から考えると現代人にはとんでもない報復をしていることに気が付いた。

以下、決定的なネタバレです。

 

あすみは自分を捨てた元カレのスマホの料金をずっと払っていた。(あすみのカードで契約した為)

作中の様子だと別れた後も元カレはそのスマホを使っていたらしい。

元カレときっぱり決別するために、最後にあすみは彼のスマホを契約解除するのだ。

それはあすみが新しい道へ向かう象徴のような出来事だったけど、元カレからしたら、今まで使っていたスマホが急に使えなくなることを意味してる。

知人の連絡先も様々なデータも、みんなパア。

どのくらい依存してるか知らないけど、けっこうなダメージを受けるはずだ。

そのことは全く描かれてないが、これは作者が密かに仕掛けた天罰なのだと思ってる。

 

ここに記したのはあすみの過酷な生活のほんの一端で、ある意味現代日本でのサバイバルゲームのような小説である。

人間、生きようと思えばしぶとく生きれるのだ。

皆様もあすみのハードモードな節約生活を覗き見してみてください。

きっと明日を生きる勇気を貰えるはずです。