『お台場戦隊ヘキサレンジャー番外編 ~夢から醒めた夢~』 | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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ご注意下さい!!私のブログは『愛』と『毒舌』と『突っ込み』と『妄想』で出来上がってます!!記事を読む前に覚悟を決めてくださいね(^^;。よろしくお願いします☆

以下の話はフィクションです。
実在する個人・団体・某番組、及びヒーローとは一切関係ありません。
加えて、よくある安価な話となっております。
ご了承の上、広い心でお読みください。



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黄色の衣装で一番先頭をバタバタと走って行くのが雄輔で、それを追い掛けるみたいに青の裾を翻して直樹が駆けていく。
見慣れているようで珍しい光景。
だって大概は自分が先頭を走っているから。

「雄ちゃん、そんなに急がなくても収録までまだ時間があるからっ」
「だってペーパーテスト始まっちゃうじゃん!焦ると答えが思い出せないんだもん!」

も~と漏らす直樹の声が俺だけに届く。
そうだった、俺ら三人だけ本番前に別のインタビューが入ってスタジオ入りが遅れたのだ。

「みんな待っててくれるってば」
「みんなを待たせてるんなら尚更急がねーと!」

弾んだ声。
結局小学生みたいに集団で廊下を駆け抜け、テスト用に用意された楽屋のドアに飛び込んだ。
試験官代わりの中村さんは、相変わらずお忙しいそうですねって笑いながら出迎えてくれる。
他のみんなも俺たちのことを待っていてくれていた。

…あれ?

前列の端っこに座っている男の子、知らない顔だなぁ。
いや待てよ。知らなくはない、ような気がする。

俺の視線に気が付いたのか、その子は慌てて席から立ち上がった。

「ご挨拶が遅れました。今日の収録にご一緒させていただく.....です。よろしくお願いします」

礼儀正しく綺麗なお辞儀で頭を下げる。
それはいいんだけど肝心のところが聞き取れなかった。
早く顔を上げてくれないかな?もう一度名乗ってくれないかな?
絶対にどこかで会っているはずなんだけど………。





ヤベッと思いながら剛士は目を覚ました。
いつの間にか基地のソファーでうたた寝をしていたようだ。
混沌する意識を正そうと頭を必死に起動させていると、ガチャガチャと派手な音が耳に飛び込んでくる。

「あ、すみません、起こしちゃいました?」

どうやら大海が出動から戻ってきたところだったらしい。
煩く鳴っていたのは彼がまだ身に付けたままのバトルスーツだった。

「いや、こっちこそわりぃ。一人で出てくれたのか?」
「高速を逆送した車がいるって通報があったんです。事故になる前に取っ捕まえて警察に引き渡しましたけど」

大したことないですよ、と大海はこともなげに言うけれど、いくらバトルスーツを着用してるとはいえ高速で走る自動車に立ち向かうのはただごとじゃない。
しかも相手が一般人である以上、究極傷付けたりしないよう確保しなくてはいけないのだ。
余計な配慮をしなくていい分、悪の組織と戦っていたほうが遥かに気は楽だった。

「なんか、悪かったな」

しおらしく呟く剛士の姿を、大海は幾度となく目にしていた。
リーダーであること、その責任感が強い彼は誰かが頑張りすぎると引け目を感じてしまうらしい。

「これくらい何でもないですよ?あまり気にされると逆にやりづらくなっちゃう」
「そうじゃなくて」

即座の否定に大海は浮かべていた苦笑を引っ込めた。

「サッキーを、正義の味方なんて割りの合わない事に巻き込んで悪かったなぁって思って」
「……いまさら?」

「今さらじゃないって。ずっと思ってたの!」

ぶっきらぼうに言い放ち、ひとつ息を吐き出す。
溜め息よりも力のあるその仕草は、かえって剛士が心に重たいものを抱えていたと教えてくれるようだった。

「最初は俺一人で立ち上がった企画だったのに、それじゃ心許ないからってバックに補助のサッキーが付いて、一緒に戦うために雄輔や直樹が選ばれて。
俺がさ、一人でもちゃんとしたヒーローで居れたら、みんな巻き込まれることはなかったんじゃないか。もっと、別の生き方が出来たんじゃないかって思ったりするのよ」

こんなことに関わらなかったら、もっと別の人生があったのではないか。
特に若くて頭も良かった大海には、自分と出会わなければ沢山の別の道が開けたのではないかと、そんな風に考えてしまうのだ。

剛士の気持ちが解らぬ大海ではない。
自身で決めて飛び込んだ世界だが、剛士というきっかけに出会わなければ知りもしない世界であった。
だけどあのとき、示されたように彼の道に添うことを本能が奨めた。
それはきっと自分だけでなく、雄輔や直樹も同じであったと思う。

「あの、下らない話なんですけど、最近よく似たような夢を見るんですよ」

急に話の方向性を変えられ、大袈裟なくらいに剛士が目をパチクリさせる。
真面目にしてるようでふざけているようで、その境界線はいつもあやふやな彼の本音は判断しづらい。
だから大海は無理に追及しようとせず、まずはこちらの手の内を見せるようにしていた。
…手の内のさらけ出し方が辿々しくて『心を開いてくれない』とよく言われてしまっていたが。

「悪の組織とかアウトサイダーとか全く存在してない世界で、つるのさんたちは『羞恥心』って正義の味方じゃなくてアイドルグループなんですよ。本人たちの意図外で組んだユニットだったんですけど、すっごく息もぴったりで、夢の中のつるのさんも、生まれる前は三人は兄弟だったとしか思えないって言ってました」

夢は一定の時系列に伴って変化し続けた。
それがまた現実とリンクするようで、端々に残る記憶は生々しくく別の世界を生きているかのような錯覚を残した。
言葉の合間に漏れた吐息、逆上せるような空気、耳に鋭く刻まれる声。誰かに捕まれた腕の痛み。
目覚めてもなお鮮明に記録されてる感触は、ただの夢と片付けるにはリアル過ぎてどちらが現実か見失いそうになる。

無論そんなことはあまりに狡猾無形過ぎて口には出来ない。
代わりに茶化すような笑顔を添えてこう結んだ。

「夢の中でさえそうなんですから、きっとつるのさんたちはどんな状況下でもどんな世界でも、手繰り寄せるように出会って行動を共にしてますよ、きっと」

ふっと微笑む彼の眼差しに触発されるように、剛士の脳裏にひとつの光景が蘇った。
精悍な顔付きに緊張を滲ませて、深々と頭(こうべ)を下げた夢の中の青年。
青年と呼ぶにはまだ稚けさが残る彼は、切れの良い滑舌で確かにそう名乗っていた。

『崎本大海です』と。

「…お前」
「話が唐突過ぎましたか?」

夢の中よりも逞しく成長した彼は、照れ臭そうに顔を崩して目の前に立っている。
どちらが現実か一瞬取り違えそうになる既視感を振り切って、剛士はいつもの人の悪い笑みを浮かべた。
全ての困難を根拠なき『大丈夫』で捩じ伏せてきたときと同じ笑顔を。

「そんな夢をずっと見てるってことは、サッキーが俺らの監視役になったのも運命ってことでよろしいですか?」
「………」

咄嗟に返す言葉が出てこずに固まる大海に、剛士は促すような甘い視線を投げ掛ける。
成長したつもりでも、ギリギリのところで一枚上手に居られるのには伊達に先に生まれてないということなのか。

「それは、」
「うん?」
「それは運命というより、呪いに近いですねぇ」
「てめっ!人がきれいに纏めてるのに!」「だってこんな扱いが難しい上に自由な人の集団、監視も何もないじゃないですか」

百戦錬磨の剛士にはまだ追い付けないが、多少言い返すくらいの度量は得てきたようだ。
悔しがる剛士がさらに口を開こうとしているところへ、遅番の直樹が呑気そうな顔を出す。

「あ~賑やかにやってるね。」
「おう、お疲れさん。雄輔は?」
「外で何かに引っ掛ってる。すぐに飽きて来ると思うけど」

過保護が過ぎると直樹が言われていたのも今や昔、最近では面倒になると放置するという事態のほうが多くなっていた。
そんな直樹の言葉が終わる前に、遠くからドタドタと忙しげな足音が近付いてくる。
謂わずもがな、雄輔の登場だ。

「ちょっ、ノク!なんで置いてっちゃうのぉ!」
「楽しそうにしてたから邪魔したら悪いな、と思って。日焼けしたくなかったし(←最大の本音)」

相変わらずな二人の子供じみたやりとりも、笑い流せるくらいに大海も慣れてきた。
それくらいの時間を共にしてる。
変化することも当たり前に受け止めされるくらいに。



自分もいつか、あの夢の続きを見るだろうか。
全く別の世界で全く別の人生を生きている自分たちのその後を。
そんな世界でも懲りずに出会い集い、そしておそらくバカやっているであろう自分たちの姿を。

知りたいとは思うし、興味もある。
でも知らなくても良いかと、夢は夢のままで良いのかとも思う。
どこで生きていても、結局道を選ぶのは自分自身なのだから。



どこか緩やかな空気が流れていた中、けたたましく非常のベルが鳴り響いた。
出動要請の合図だ。
機敏に大海が通報を受け取り、状況を把握すべくデータパネルを開放する。

「東京○○区で輸送中の強盗犯が逃亡、確保協力の要請が来ています」
「直樹、出勤早々悪いけど俺と現場に向かって。雄輔は万一に備えて基地で待機。それからサッキー?」
「任せてください。現場に着くまでには必要なデータを揃えておきます」

頼もしいね、と冷やかした視線を大海は冷静な面差しで受け止める。
急かすような直樹の横顔とまた置いてかれると雄輔の不貞腐れた顔。
全てを抱えて走り出す。
自分の使命と生き方を全うするために。





end