『ぼくの冬休み』 | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

逢海司の「明日に向かって撃て!」

ご注意下さい!!私のブログは『愛』と『毒舌』と『突っ込み』と『妄想』で出来上がってます!!記事を読む前に覚悟を決めてくださいね(^^;。よろしくお願いします☆

以下の文面はフィクションです。

実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。

似てる人が居ても、それは偶然の産物です。

妄想と現実を混同しないように気をつけましょう。



゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


昔懐かしい竹箒を持った手を止めて、空が広くなったなぁと直樹は頭上を見上げた。

申し訳程度の庭に植えてある木々の枝から、葉と呼べるものは殆ど落ち切っている。

視界を遮るものが無くなったためか、見慣れた景色でも空が広くなったように感じたのだ。


足元に集めた落ち葉の山も秋の終わりのころに比べて小さくなった。

頻繁に庭掃除に勤しむのもこれで最後になりそうだ。


「一昔前なら、これで焼き芋すんのが楽しみだったのになぁ」


色も抜けた落ち葉の山を見ながら、まだ十にも満たないだろう子供がませた口を利いている。

その正体はご存じ、座敷童の雄輔だ。

齢数百年の時を経て生きている妖怪の言葉と思えば重みもあるが、なにせ長寿でも中身は見た目と正比例している雄輔なので、いろんな意味でややこしい。


「仕方ないよ、今は条例とかうるさくなってきてるからね。

勝手にご家庭の庭程度ではたき火もしちゃいけない世の中なのさ。

サッキー、集めた落ち葉を庭の端に運んでくれるかな」


この寒空の下、一人薄着の童子が素直に頷く。

雪男の末裔である大海にはこのくらいの寒くなってからの方が元気が出るのだ。

塵取りに盛った落ち葉をよろよろと庭の端に運ぶ。

そこには一部土を掘り返したような場所があり、深層の褐色じみた土は柔らかそうだ。


「なに?とうとうつーのさんをあそこに埋めて冬眠させてあげる気になった」

「そうそう、ふかふかの落ち葉の布団を敷いてあげて春までぐっすり♪、って、ンなわけないでしょ!」


直樹はノリツッコミを覚えた。

攻撃力が5ポイントアップした。(←なんのこっちゃ)


「このまま落ち葉をゴミにするのもなんだからね。来年は庭の隅で何か野菜でも作ろうかと思ってさ。

今のうちに土に埋めておけば、来年の春には良い感じの腐葉土になるでしょ」

「ああ、なるほどね。そいつは良いや!俺、トウモロコシとか作りたいな」

「そうだね、あと、キュウリとか」

「トマトも比較的簡単だって聞いたことがあるよ」

「簡単と言えば、キュウリも簡単なんだよ」

「夏に向けてっていうなら、スイカも作ってみてーなー」

「スイカもキュウリも同じウリ科だね~」

「って、お前、キュウリしか作る気ねーだろ?むかっ

「え~~、だって結局世話するの僕だし」


笑顔でそれを言われると何も言い返せない雄輔だった。

どうも最近の直樹は口で勝てない気がする。

時折大人の格好をして外貨を稼ぎに出ているのだが、そこらへんで悪影響をうけているのだろうか?

(↑成長と言ってあげてください)


「あ、やっぱりこっちに居た」


ううむ、と雄輔が腕を組んで唸っているところに、ひょこっと少年が顔を出した。

大きいけどどこか鋭さのある眼、細身のしなやかそうな身体、笑みを作るとちょこん、と付き出す口元。

誰だっけ?と雄輔が頭を回す前に直樹の顔が明るくなる。


「剛、久しぶりだな」

「お久しぶりです、ノク兄さん♪

玄関で呼んだんですけど、誰も出てきてくれないからこっちに回っちゃいました」


ああそうだ、と雄輔も思い出した。

直樹と同じ河童の一族で、直樹のことを兄みたいに慕っている剛だ。

たまに遊びに来たりするけど、手土産を持っているところを見ると・・・。


「冬至も過ぎたんでそろそろ山に戻ろうかと思って、その前にご挨拶に来ました」


やっぱり。

西日本や九州のほうでは、河童は寒くなると山の入り『山童』となって冬を越すのだそうだ。

直樹は人の生活に合わせているのでそんな移動はしないが、剛は正当な河童としての生活を守り、夏は河で冬は山で妖怪らしく生活している。

そして、こうやって山に帰る前に必ず直樹のところに挨拶に来るのだ。


と、経緯を思い出しながらも、雄輔の眼は剛の持ってきた浅草『亀十』の包み紙に釘づけになっていた。





「今年は移動が遅くない?」

「ええ、本当は秋分の頃には山に戻るんですけどね、今年はなんだかドタバタしてて」


剛が持ってきてくれた和菓子を御茶うけに、畳み間の居間でお三時となった。

直樹は気分で見た目の年齢を変えているが、剛が居るときは必ず彼よりも年上に見える姿をとる。

普段ならそのことで悶々と考えてたりする雄輔だが、今日はそれどころではない。

お取り寄せしたくても出来ないと有名な、亀十のどら焼きが目の前になるのだ。


「忙しいなら無理して山に帰らなくても良いんじゃないの?

寒くなって河に居つきにくいっていうなら、冬の間だけでもこの家に来てても良いし」

「そう言って貰えるのは有り難いんですけど、僕にとっては山も故郷のひとつですからね」


ぱくり、とその話題のどら焼きにかぶりつく。

その触感!

ふかふかの生地は猫型ロボットの好物たるどら焼きの概念を超越していた。

中の餡とのコンビネーションも申し分ない。

ああ、至福のひと時!


「正直、妖怪が妖怪らしく生きていくには文明が発達しすぎたって思います。

でもまだ無理ってわけじゃない。

一時は汚染がひどかった河川も、最近は徐々に昔の清流を取り戻しつつあります」


普段はそれほど食に執着してない大海も、この味は嵌ったようだ。

小さな口にいっぱいどら焼きを頬張って、その伝統の味を満喫している。

やはり妖怪には和菓子だよと思いながら、雄輔も負けじと大きく頬張る。


「妖怪があるべき姿を守っていれば、人間も古来から続く自然の大切さに気が付いてくれるかなって。

だから僕は、面倒でも時勢に合ってなくても、河と山の暮らしを続けたいんです」

「剛・・・」


美味しいものはあっという間に食べ終わってしまう。

が、食欲というのは一度湧いてくると止まらなくなるものなのだ。

自分用に分けて貰ったどら焼きを食べ終えた雄輔は、別に金つばが盛られていた皿に手を伸ばした。

大海ももう一つ、と思って手を伸ばすが、まだ幼児体型の彼には手が届かない。

ムーーーッと必死に手を伸ばすが、もうちょっとで指先が空しく空回りするだけだ。


「まあな、俺なんかは人間と入り混じっちゃって、妖怪としては落第モノかもしんないな」

「違います!ノク兄さんは都会でも妖怪が生きれるように頑張っているじゃないですか。

人の生活に適応できず、行き場に困った妖怪がここを宛てにして逃げ込んでくることもあるでしょう?

そうゆう場所も、今の妖怪には必要なんですよ」


バタバタと足掻いてみるが、どうにも手が届かない。

その様子を面白そうに眺めながら一人お菓子を食べ続ける雄輔を恨めしそうな目で睨み付ける。

手が届くなら、僕にもお菓子を取ってよ!と訴えかけているのだ。

雄輔はさらに調子に乗ってちょっとだけ皿を大海の近くに持ってきてやる。

イジワルにもギリギリで手が届かない場所に置くのだ。


取れそうで取れない状態で喘ぐ大海を、雄輔はニヤニヤしながら眺めている。

さすがに、大海が切れた。


「ダーモンダーーーッ!」


大海が拳を振り上げ、雄輔に向けて振り下ろすと、絶対零度のブリザードが雄輔に襲い掛かった。

もろに攻撃を受けてしまった雄輔は凄まじい勢いで吹っ飛んで行く。

二人の戯れを無視しながら真面目な話をしていた直樹だったが、さすがに米神に血管が浮き立ちはじめた。


「おまっ!殺す気かよ!!」

「だぁって、ゆうさんがわるい!!」

「手が届かなきゃ、大人の姿になればいいだろがっ!!」


あ、そうか。と大海が大きな目をもっと大きくして納得している隣で、直樹のゲージがマックスになっていた。


「二人ともいい加減にしなさい!

お客さんがきてるんですよ!!」


直樹が敬語で怒るときはマジ切れしてるときです。


「まあまあ兄さん、僕もたまにはこれくらい賑やかなほうが楽しいから(^^;

(それ以上怒ると本物の妖怪変化しそうだよ~~)

っていうか、サッキー、新しい技を覚えたんだね」

「ああ、あれはダイヤモンドダストって技みたいだよ。

居候が好きなマンガのキャラクターの必殺技なんだけど、面白がってサッキーに教え込んじゃって」


にが~い顔でため息をつく直樹だったが、剛は止めなかったってことは楽しんでいるんだな、と独自の解釈をした。

そんな居候が増えたのなら、ぜひ一目拝んで行かなくては山に帰れない。


「それじゃ僕も新しい居候さんにご挨拶させて下さい」


にっこり、と目を細めて微笑めば、たいていのことなら直樹はOKしてくれる。

基本的に甘えられるのに弱い、というか、甘えられると嬉しくなっちゃう人なのだ、彼は。


「二階の客間に居るけど、ちょっと異質だから驚かないでね」


妖怪吹き溜まりのこの家で、どこから異質でどこまでが常識範囲内なのか誰が判別するのだろう。

案内されるままに二階に上がり、奥の部屋を目指す。

大海を預かっている手前、室温を上げないように気を付けて入るこの家には珍しく、その部屋は襖を開ける前から温められていることが分かった。


「たけにぃ、入るよ~~」


直樹が掛け声と共に襖を開ける。

古風な和室の真ん中に置かれた炬燵、そこからひょこっと顔が出てきた。


「こ、これは・・・。

新種の妖怪・炬燵被り!」

「ちゃうわい!!」


剛のマジボケに炬燵の中から間髪入れずに突込みが入る。

ちなみに炬燵被りなんて妖怪は存在しません、たぶん。


「あ~~。(やっぱりややこしくなりそうだな~←心の声)

たけにぃ、こいつは剛っていって、俺と同じ河童の仲間。

たまにこうして遊びに来てくれるんだ。

で、この情けなくも炬燵と一体化してるのが、セミの幽霊のつるの剛士さん。

この夏からうちに居候してる」


は?と剛は怪訝そうに眉を顰め、それでも炬燵から出ようとしない剛士を凝視した。

セミの幽霊が人の形をしていて炬燵に埋まっていたら、誰しも不可解に思うだろう。


「なんで幽霊が炬燵に。。。」

「う~~ん、夏生まれだから冬の寒さは辛いんだって」

「そうゆうことだ、よろしくな」


なにゆえ寒いのが苦手な人が雪ん子にダイヤモンドダストを教えるのだろうか?

いろいろと妖化しの世界の理を無視してくれる幽霊に、剛な切れ長の目を冷ややかに輝かせて言い放った。


「・・・気のせいです」

「はい?」

「だから、幽霊が寒いと感じるのは気のせいだと言ってるんです」


ビシッ!と人差し指を突き立てて指摘する剛に、剛士さんも一瞬圧倒されかけてしまった。

が、これくらいで怯んでいたらこの家でやってらんない。


「普通はそうかもしれないけどね、俺は特別感受性の高いセミだから寒さも感じ・・・」

「気のせいだと言ってるんです!」


畳みかけるように言い放つ剛の眼が座っている。

直樹の弟分だけあって(←どーゆー意味?)、こりゃ一筋縄ではいかないぞ、と剛士も言葉を失ってしまった。

このままではさらにややこしくなると察した直樹が、とりなすように間に割って入る。


「いや、あの、剛の言いたいことも分かるけど、たけにぃは寒がりだから・・・」

「大丈夫です、つるのさんは強い方です。

感受性が高すぎて『寒い』と思い込んでいるにすぎません。その寒さは思い過ごしです」


急転回する話の矛先に乗り遅れた剛士の手を握ると、剛はまっすぐな熱い眼差しで怯えかけてる剛士の瞳を覗き込んだ。


「さあ、つるのさん、自分を信じて外へ出てみましょう。

貴方はこの程度の寒さに屈するような人ではないはずです。

外へ飛び出して、この広い世界を存分に味わいましょう!!!」

「ご、ごうくん・・・」


先ほどまでの冷たく鋭い目つきとは打って変わって、キラッキラの純粋な瞳で剛が剛士に語りかける。

基本、若い子の誘惑に弱い剛士に、この熱視線ビームの効果は絶大だ。


「そうだな、せっかく幽霊になってこっちの世界に留まったんだ。

炬燵に籠ってばかりじゃ勿体無いぜ!」

「分かってくれましたか、つるのさん!!」

「礼をいうのはこっちだ。君のおかげで俺は外の世界に飛び出る勇気と元気が湧いてきたんだ。

このくらいの寒さでヘへこたれてたら、セミの名が廃るぜ」


言うなり、剛士は炬燵から飛び出すと、重ね着していたドテラを脱ぎ捨てた。


「行くぜ、ピリオドの向こう側へ!!」


そう叫んで、勢い込んで階段を駆け下りていく。

その足音が階下の廊下を伝い、居間の硝子戸を開く音に繋がった。

さっきまで掃除をしていた庭から一声、剛士の咆哮が聞こえた。


そして、


開けるときの3倍くらいの勢いで閉まる硝子戸の音が響き、逆回転でもしているかのように凄まじい足音が戻ってくる。

まさかと思う間もなく、顔面蒼白になった剛士が鉄砲玉のような勢いで炬燵の中に駆け込んで行った。


「やっぱ無理ーーーっ!!あせる


妖怪・炬燵被り再びである。

さすがに剛の口先三寸だけでは、寒さを克服するのは難しいようだ。


「乗らなかったか」


顔を顰めて小さく呟くと、これ以上の干渉は諦めたのか、剛は階下へ戻って行った。

炬燵の中で震える剛士と共に取り残されてしまった直樹が、剛の去って行った廊下へ目を向けたまま茫然と呟く。


「剛、今、舌打ちしかなったか・・・・?」







「それじゃ、どうもお邪魔しましたぁニコニコ


いつものようにはきはき可愛い笑顔で、剛が頭を下げる。

お土産を貰った雄輔と大海は笑顔で手を振っているが、先ほどの舌打ちが耳から離れない直樹だけが、引き攣った笑顔で玄関先に立っていた。


「今度来るときはつるのさんも炬燵から出てきてくれると良いですね」

「・・・、うん、剛がこっちに戻ってくる頃には暖かくなってるから、ちゃんと炬燵から出て相手してくれるよ」


心ここに非ずなままでなんとか直樹が答える。

弟の意外な一面を知るということがどれほどショックか、その身をもって体験してしまったようだ。

これからは雄ちゃんやたけにぃの前では大人しくしていよう。

と、変な誓いをするほどだった。


そんな兄の気苦労を知りもせず、軽い足取りで歩いて行った剛が、ふと何かを思い出したように振り返った。

まだ見送っていた雄輔や大海が不思議そうな顔をする。

剛はにっこりと笑って、大きな声で付け加えた。



「みなさ~~ん、良いお年をチョキ



直樹の口から笑いが漏れる。

イタズラ好きは自分に似ちゃったかな?なんて思いながら。


「良いお年を~~!」

「来年もよろしくおねがいしま~~すっ」

「・・・ま~~~っしゅ!」


直樹や雄輔を真似て、大海も大きな声で返事する。

その言葉にキュっと笑顔を深めて、剛は一度深くお辞儀すると小走りで帰って行った。




あっという間の一年。

振り返るとあれもこれもあった一年。

長く思うか短く思うかは自分次第。


だけどこれだけは変わらない。


今年も君の笑顔と一緒で楽しかったよ。

また来年も沢山、一緒に笑おうね。




どうぞ、よいお年を・・・。



゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


なんか途中、グデグデしちゃいましたが。


とにかく今年中に書きあがって良かったです(^^;


ブログはもうちょい書きますが、お話書き納めってことで☆


今年もたくさんの妄想にお付き合い頂き、ありがとうございました。


来年も懲りずにあたたか~~い目で妄想にお付き合い頂けると幸いです。


こんな私ですが、これからもよろしくお願いしますm(_ _)m