『お台場戦隊ヘキサレンジャー~最終章~』43 | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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ゆっくりと風が吹いていた。

辺りは野次馬や警察らしき者が集まり始めて騒々しさを増している。

拡声器で呼びかけられているようだが、声が割れて何を叫んでいるのか聞こえやしない。


「彼ら、来るでしょうか?」

「来てくれなきゃ、ここまではでにやった意味がない。

このビルの持ち主だって、巻き添いを喰って何億もの損失を出しているんだ」


すでに瓦礫と化したこのビルに、特別何か関わりがあったわけじゃない。

こちらの存在を示すためと、力を見せつけるために行った行動なだけだ。

工事が休みの日を選び、内部に人が残ってないか完全に調べてから破壊工作に至ったのだから、最低限の気遣いをしていると理解して欲しいものだが・・・。


そんなことを考えながら空を仰ぎ見る。

頭上いっぱいに隈なく厳しい光を放っている太陽に、沸き立つ厚い雲が迫っていた。

何かを暗示しているのなら、それはどちらに対しての吉凶の兆しを示しているのだろう。


「来ますね」


同じく空を仰いでいたユエが呟いたときには、まだ何物も視界に捉えることはできなかった。

鏡を手に入れてからのユエの感度の鋭さは、今までの比ではない。

僅かな起動音や気流の乱れも、まるで野生動物のように察知できるようになっていた。


彼の呟きから遅れて、天空の彼方に太陽の光を反射する物体が認められた。

その軌道を目視で辿るうちに、地上からは轟くようなドライブ音が響いてくる。

それらが意味することを察し、お決まりの登場か、と思わず苦笑を浮かべた。


その間にも転送ポットから放出された雄輔が、挑むようなスピードで地上に向かって降りてくる。

落下のスピードを緩めるように、空中でくるりと回転を決めた彼が地表に降り立つのと殆ど同時に、羞マッハ号が現地に乗り付けた。


出来過ぎの絵だよ。


意気込む彼らを車番としか感じられなかったのか、サンは口元にはっきりした嘲笑を浮き立たせた。

ここからが本番だと言いたげに・・・。





廃墟と化したビルの上部に居並ぶカオスを確認して、剛士は渋い顔をさらに渋くした。

サンが首飾りのようにかけているのは、リアン達から奪った勾玉に相違ない。

先の戦いで破かれたユエのバトルスーツの胸元には、雄輔から奪ったパネルが組み込まれていた。


想定と使用している人間が違っていたが(太陽光を最大限利用できるパネルは、サンが保有すると読んでいたのだ)、強力なエネルギー源を向こうに持っていかれた事実は変わらない。


「どーする、つーのさん。こっちから仕掛けるか?」

「逸るな、ここであいつらと本気でやりあうと周りに甚大な被害が出る。

大海、あっちでがなっている警察に、野次馬を避難させるように頼んできてくれ」


いかんせん、相手がどれほどの力を手に入れているのか見当がつかない。

そして自分たちが100%の力を出し切ったときの状況も、実はよく分からないのだ。

このまま勢いだけでぶつかり合うのは危険すぎる。


指示を受けた大海は素直に頷き、外巻きに大挙している警察の元へ向かう。

ひらり、と彼の白銀のマントが緩やかに翻る姿は優雅にすら見えた。


「テラ、あいつも連れて行くぞ」

「・・・、今更そんな確認してくれるなよ」


仲間外れにされちゃ寂しいよな、大海ちゃん。

例えそれが過酷な運命の始まりだとしても。


サンの胸元で揺らいでいた勾玉が、淡く妖しく光を発し始める。

その異変に気が付いた雄輔が剛士に指摘しようとしたときには、それは発動し始めてしまっていた・・・。





続く