いくらメールをしても返事が来ない。
直接電話しようとしても、相手の電源が入ってないという冷たいアナウンスが聞こえるだけだ。
しびれを切らした雄輔は直接舞台を運営している会社に連絡を取ってみたが、個人的な質問には答えられない、と冷たくあしらわれただけだった。
つい数日前は普通に連絡を取れていた濱田が捕まらなくなった。
その境目は雄輔がユエの黒子を確認した時節と一致してる。
濱田のアパートまで行ってみたが、人の気配は感じられなかった。
近所の住人からはたまに長期で留守にしていることがあると教えて貰ったが、いくらここで待っても無駄な気がした。
何かが動き出したのだと、雄輔は敏感に感じていた。
直樹とそっくりは濱田、二人と同じ場所に黒子を持つユエ。
この状況を『偶然』で片付けるのは難しいだろう。
「濱田のほうはともかく、ユエの黒子は見間違いじゃないのか?」
戦いの場で一瞬しか見てないのだがら剛士の指摘も尤もだが、では何故、このタイミングで濱田が姿を消したのだろう。
分からないことが多すぎる。
濱田と直樹は本当に同一人物なのか?だとしたら、濱田の『人格』と『経歴』はどこから来た?
そして『直樹』はどこへ消えてしまったのか・・・。
『お元気~~。なんか、沢山連絡貰ってたみたいで悪かったね』
いっそ濱田のアパートのドアをぶち破って中を探ろうかと考え始めていた三日目、雄輔の苦悩など知りもしないお気楽なテンションで電話が入った。
『公演が終わったからリフレッシュしに海外に行ってたのよ。俺の数少ない贅沢なんだ♪』
なるほど、とちゃんと声に出して返事をしたか怪しいのだが、これで濱田に連絡が取れなかった理由が一挙に片付いてしまった。
それに海外ならばパスを確認させて貰えば、その場凌ぎの虚言かどうか証明するのは容易い。
・・・そこまで見せろという気持ちも、とっくに萎えてしまっていた雄輔だったが。
「こっちこそ悪い、特にコレって言った用事があるわけじゃないんだ。ただちょっと、どうしてるか気になったから・・・」
『そっか、それなら良いんだけどさ。実は俺ら、これからしばらく集団合宿に狩り出されんのよ。
ちょっと人気出て来たからって浮かれ過ぎだーっ!てマネージャーに怒られてさ。
だからまたしばらくは連絡がつかないかも知んないんだ。』
「いや、そうゆう事情ならしょーがなかんべ?気合入れて頑張ってこいよ」
『うん、この合宿が終わったら次の公演も決まると思うから、そしたらまた連絡するよ』
「チケット買ってくれって?」
『それだけじゃねぇって』
小気味良く笑い合って、それじゃと電話を切った。
彼に関してはいろいろと惑う案件が多すぎるのだが、こうして会話をしているとただの友人のように気安く接していられる。
何もかもが雄輔の思い違いなんじゃないかと、そんな思いさえ頭を擡げてくる。
「いっそその方が楽かもな・・・」
携帯を見詰めたまま、ずっと遠くを想う眼差しで言葉を落とした。
少しずつだが、事態は核心に近付いているはずだ。
今は点在する謎が一つの線で結ばれたとき、自分はその事実を素直に受け入れることが出来るだろうか?
思い浮かべたのは二つの笑顔。
よく似ているけれど受け取る印象は全く違って、だけど、根底に流れている要素は同じところに起因している暖かい笑顔。
最後まであの笑顔を信じていられる自分であるようにと、組んだ掌に祈りを込める雄輔だった。
続く
(ゆっくり再開していきます~~(^^;))