『お台場戦隊ヘキサレンジャー~最終章~』36 | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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繁華街から僅かに外れただけで、辺りは急に静かな住宅街になる。
寂れた感じもあるその道並みを通り越し、よく見かけるタイプのアパートが濱田の案内した場所だった。


「狭いところで悪いけど、適当に寛いでて」


リビング兼寝室に雄輔を置いて、濱田は洗面台に向かった。
見知ったばかりの男を自分の住処に連れ込む、というのは、このご時世では不用心だっただろうか?
そんな疑問が頭を掠めたが、あまり本気で考える前に不信感は吹き飛ぶ。
一人置いてきた雄輔が、情けないくらいに心細そうな顔を見せたからだ。
元気で明るいように見えるが、極度の寂しがり屋らしい。
だからこそ、居なくなった友人を求めて、人違いも気にせずあんな必死な顔で迫ってきたのだろう。


鏡の中に映る自分の姿を上から下まで、映し出されてる最大限で確かめる。
整っているほうだとは思うけど、可愛いと言われるような顔つきじゃあない。


「どこまでやれるかってのも、俺の実力次第ってことか・・・」


まずは用の無くなった髭を落とす。
それから髪形も軽く前髪をあげて自然に流して、少し濡らしたほうがそれらしいだろうか?
地味と言われてしまったシャツを脱ぎ、まっしろに格子のブルーラインが入った爽やかな襟付きのシャツに着替える。


後は・・・。


じっと自分の瞳を見詰めて、そこに暗示を掛けるように想いを移す。
ちょっと頼りなくて、だけどしっかりしてて、人懐こい弟くん。
雄輔をとても大事にしてるけど、どこか自由な彼を自分なりに再構築させる。


ふう、と一息。
それは濱田の、役が入ったときの癖だった。





何をするつもりなのだろう。


一人取り残された雄輔は腰が落ち着かない気分で、濱田が戻ってくるのを待っていた。
何か気になることはないかと部屋を見回してみたが、目に入るのは当たり前のものばかりで、彼の正体を何かと証明するようなモノは見当たらなかった。


男の一人暮らしのわりには片付いているほうだろうか。
それでも直樹ほどの徹底した整然さは感じられず、生活しやすい程度の整頓がされているに過ぎないレベルだ。


どこかに、彼のアルバムでもないだろうか?
ふとそんな考えが頭を擡げて(もたげて)、本棚らしき家具の前に立つ。
ハードカバーや文庫本が背の高さに揃えて並べてある端に、本と言うよりは紙の束をまとめたような物が立ち並ぶ一角があった。
それはどれも草臥れて退れて(すされて)、何度も繰り返し捲った様子が伺える。
手に馴染むほどに読み込まれたそれらが、彼の舞台の台本なのだと察するのは容易かった。


好奇心だけで手に取ってみようかと腕を伸ばす。
少しでも彼の過去について、知ることが出来るかと思って。



「雄ちゃん」


穏やかなスローテンポで呼ばれたのに、心臓を鷲掴みにされたような衝動が胸に走った。

一気に加速する鼓動が、頭の中で響いてガンガン痛い。

動顛する気持ちを抑えながら、一つ一つを確認するように振り返る。


ふんわり・・・、と佇んでいたのは、灯のような笑みを浮かべた直樹、だった。


目尻にキュっと寄った笑い皺、八重歯を覗かせた口元が緩やかに笑っている。

とても人懐こそうに見えるのに、自分からは積極的に距離を縮めない直樹が、そこで雄輔を待っていた。


「ノック・・・」


いくら困惑していたとしても、前後の状況を読めないほど雄輔だって盲目じゃない。

眼の前の直樹は、雄輔を不憫に思った濱田が演じてくれてるだけのものだ。

本人が戻って来てくれたわけではない。


だけど。


『・・・、たとえ一晩で消える幻だとしても、逢いたいですか?』


逢いたいよ、そりゃ逢いたいに決まっている。

幻で消えてしまうなら、せめて許される最大限で甘えていたい。

本当の直樹に出会うまで、挫けない力をもう一度手に入れるために・・・。


一歩一歩を踏みしめるように彼に近づく。

眼の前で揺れてる笑みは、懐かしい直樹に間違いなかった。


震えの止まらない腕を伸ばす。

最初は確かめるように控えめに、消えないことが分かると縋るように必死になって彼の身体を抱き寄せた。

抗いもせずに素直に腕の中に収まる体温。

暖かくて優しくて、それだけで救われるような気さえした。

人の熱を直に感じることに、これほど飢えていたのかと思い知らされる。


「ノック、ノックだぁ・・・。俺の、ノック、だ」


肩に顔を埋めて呟くと、彼は少し擽ったそうな笑みを漏らした。

そして雄輔の丸めた背中に手を回して、子供を慰めるようにトントンとあやしてくれた。


どうして、教えてないことまで知っているのだろう?


掠めた疑問は、膨らむ間もなく雄輔の脳裏から溶けて流れて行った。

ただただ、今はこの温もりに溺れていたかったから。


何も考えず我武者羅に、彼に騙されていたかった・・・。





続く