『お台場戦隊ヘキサレンジャー~最終章~』35 | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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ほら、ちゃんと待ちあわせ時間に着いたじゃんかっ!むかっ


なんと濱田よりも先に店に着いた雄輔は、剛士と大海の無体な扱いに腹を立てていた。

帰ったら二人に文句を言ってやる!と意気込んでいたが、彼は大事なことを忘れている。

雄輔がどこかに引っかかるのを予想して、随分と早めに基地から追い出されたことを。


つまり待ち合わせ時間に雄輔が店に着いたということは、剛士たちの予想通り、雄輔がまっすぐに店に行かずに何処かで寄り道をしていた、ということに他ならない。

付き合いの長い剛士と、計算に長ける大海のほうが一枚上手だったというわけなのだが、当の雄輔は事実には気が付いてもいない。

それどころか二人に『遅れずに着いたぞ!』と自慢するつもり満々であった・・・。


「上地さん、先に来てたんですね」


一際柔らかく聞こえる声で、濱田が己の到着を知らせた。

くすんだグレーのTシャツに、カーキのパンツ。

生成りのシャツを上着代わりに羽織っているが、なんとなく・・・。


「地味・・・」

「はっ?」


突飛ない雄輔の一言に迎えられ、濱田は困惑を隠しもしない声をあげた。

まだ親しくもなってない相手の服装にケチをつけるのも失礼な話であるが、もうちょっとどうかしても良いだろう。

雄輔だって多少は意識して、光沢の乗ったブルゾンに普段は敬遠したくなる細見のGパンを着てきたのだから。


「若いんだから、もうちょっと派手な色の服とか着なよ」

「あ、なに、服装のこと言ってたの?」

「そう!顔が濃いほうなんだから、いっそ爽やかな色合いの服のほうが似合うって!!」


何もそれは、直樹の好みを思い浮かべてアドバイスしたわけじゃない。

雄輔としては世間の一般論としての進言のつもりであった。

少なくとも、表層の意識下では。


「あ~~、まだ役が抜けきってないからかなぁ。

自分が生き返りたいのか全て投げ出して死にたいのかも分かんないような、ちょっと冴えない男の役だっただろ。

だから選ぶ服も、なんとな~くぼんやりした色味になっちゃうのかな」


これでも結構シャレオツなのよ、と顔を緩ませながら向かいの席に着く。

砕けた表情のときと、真剣な顔つきの時はまるで別人のように顔が違う。

それは直樹も同じだったけど、目の前の男はそことも何かが違っていた。


「とりあえず乾杯しようか?最初は生でいいよね。グラス?ジョッキ?」

「ジョッキ」

「じゃ、俺も♪」


濱田は嬉しそうに同意すると、近くで構えていた従業員にオーダーを通してくれた。

ほどなく出されたビールで乾杯して、適当につまむものうを注文して。

アルコールが入って口が軽くなった二人の話題は、やはり先日見た舞台のことが中心となって広がっていく。

雄輔の人と違った着眼点も濱田には刺激的だったし、普段は知ることのない舞台の裏事情なんて話も畑違いのも雄輔には興味深い内容だった。


「ねえ、写真とか持ってないの?例の探してる彼の・・・」


互いに打ち解け軽口も叩けるようになった頃合で、濱田が見計らったようにその話題を切り出してきた。

知り合うきっかけになった出来事ではあるが、踏み込んでほしくないデリケートな問題という可能性もある。

一片の緊張を隠し持ちながら雄輔の顔色を伺っていたが、その雄輔は僅かな動揺も不快感も表さずに、ちょっと待って、と携帯を取り出した。


「ちっさい画像しかないけど、これで分かるかな?」


手渡しされた携帯の中には、満開の笑顔の雄輔と、その隣にほっこりと微笑む男性の姿があった。

片手でしっかりと肩を組み、残った片手を精一杯伸ばして自分撮りをしている構図は、ともすれば高校生のカップルにようだ。

無邪気で明るくて、罪も苦悩もない。健やかすぎる互いの笑顔。

その写真の持っている意味のほうが強く伝わってきて、危うく濱田は自分とその男が似ているのかどうか確認するのを失念しそうになってしまった。


「似てるって言えば似てるけど・・・、静止画で見るとイメージが違うなぁ」


それは雄輔も同じ想いだった。

顔形は直樹と濱田はよく似ている。だけど、表情を作る時の筋肉の動かし方とか、そんなものが異なって、それだけで別人のように見えてしまうことさえあるのだ。


いや、別人だから別人に見えるのは不思議でもなんでもないのだが・・。


「どんな人なの?俺の方もダチに声かけて聞いておくよ。これでも結構顔は広いんだぜ」


濱田の申し出に、雄輔は一瞬だけ目をくるんとさせて考えた。

ああそっか、確かに直樹の人となりを伝えた方が見つけやすいかも・・・。

そしてひどく久しぶりに、直樹のことを鮮明に頭の中に描きなおした。

直樹を探していながら、しっかりと彼のことを思い出そうすることを避けていたのだと、こんなことで気が付いてしまった。


「んん~~、一言で言うと、面倒くさい奴。

潔癖症なのかなんかのか知らないけど、自分ルールがはっきりしてて、キチンとしてて頼れそうだけど、どっか抜けてて。

弟キャラ全開のくせに、こっちが甘えると「しょうがないなぁ」とか言いながらめっちゃ嬉しそうに面倒見てくれる。

壊れやすそうだけど頑固で一途で意地っ張りで、負けず嫌い。あ、負けず嫌いはノックだけじゃないけど。

テンパると顔の中心にパーツが集まって怖い顔になっちゃって。

でも笑ってるとすんげえ俺も嬉しくなる。ニコニコして「雄ちゃん」って呼ばれると、俺もすっげ癒される。

・・・・・、そんな奴」

「全然一言でまとまってなかったけどな」


濱田はいきなり饒舌になった雄輔の態度に苦笑いを浮かべた。

確かに自分のキャラクターとは全然違うようだ。

でもそれ以上に、直樹の個性を知る以上に分かったことがある。


「やっぱり、逢いたいんだよな」


ぽろっと零れた言葉に、雄輔は過敏に反応した。


「そりゃ、逢えるなら逢いたいよ。何も望まない、逢えるだけで良いんだ」


噛み付くほどの反射速度の言葉には、切ないほどの彼の想いが籠っていた。

いや、こんな言葉を聞かずとも、あんなふうに愛おしげに直樹を語る雄輔を見ていたら、彼がどれほどの気持ちを抱えているのかなんて察しえるくらい容易いことだった。

だから濱田も、言うべきか言わずに秘めておくべきか迷ったいた言葉を唇に乗せた。


「・・・、たとえ一晩で消える幻だとしても、逢いたいですか?」

「え?」


濱田の瞳に、今まで見たことのない真摯な光が宿っていた。

じっと決断を託すように雄輔を見つめる瞳。

その静かに強く凛としたものが、直樹に似ていると頭のどこかで感じていた・・・。




続く