『お台場戦隊ヘキサレンジャー~最終章~』32 | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

逢海司の「明日に向かって撃て!」

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劇場と言えばテレビなんかで宣伝されるような大御所しか知らない雄輔は、案外こじんまりしてるもんだなぁと会場内を見渡した。

大海に言わせると、場所によってはもっと狭いところもあって、最前列の席に座っている人の膝が舞台に着くくらいのところもあるのだそうだ。

だとしたら、ここはまだマシなほうなのだろうか。


チケットに記された席は客席の中ほどにあった。

わりと急角度に席が設置されていたので、背の高い雄輔も後ろの人を気にせずにいられる。


「基本のことなんですけど、会場内は飲食禁止ですよ。それと今のうちにトイレは済ませておいてください。上演中に席を立つのは周りの人の迷惑になりますから。それから携帯電話は電源から切っておいてくださいね。マナーモードにしてもけっこう響きますし、緊急地震速報が入ってくる可能性もあります。一昔前だと携帯の電磁波で音響の機器類に影響が出たりもしたんです。

って、聞いてます?!」

「聞いてるよ!今、電源落としてるとこ!!」


小姑並みにうるさい大海の諸注意には辟易される。

気を付けるつもりはあったが、こんなに細かく言われるとは思ってもみなかった。


「あらあら、若いのにしっかりしてるわね」


突然に声をかけられて、雄輔も大海も正直ぎょっとした。

年は剛士よりも上だろうか?少しきつい感じの綺麗な女性が、二人に含みのある笑いを向けていた。


「あなたたち、濱田の知り合いなんでしょ?

彼が後で話がしたいって言ってたから、終演後もこのまま席に残っていてくれるかしら?」


ね?と首を傾げた笑顔でお願いされたが、そこには断らせないごり押しの強さが滲んでいた。

恐らく劇団か劇場のスタッフなのだろう。訳知りな雰囲気はそれで納得できる。


「俺もお礼がちゃんと言いたいし、この後は急いでないですから構わないよ」


雄輔がそう答えると、彼女は満足そうに笑って


「ありがとう、濱田も喜ぶわ」


と目を細めた。

至極当たり前のやりとりなのに、奇妙な違和感が大海の胸を掠める。

なんだろう、自分の中に不一致感が生まれる、この感じは・・・。


大海が答えを掴み切れないうちに、その人は楽しんで行ってね、と二人の基から立ち去ってしまった。

素直な雄輔は気持ちの良いお返事をしたのに、大海はぎこちない愛想笑いのような顔で頭を下げる。

今のどこに自分が納得していないのか、その発端を探るのに気が散っていたからだ。


何が、と再度自分に問い直そうとしたときに、会場の照明がゆっくりと絞り始められた。

それに比例するように、会場内の期待と興奮が一気に高まる。

実際は静かになっていくのに、妙に騒がしいと感じたのは昂る想いが会場内を埋め尽くしていくからなのか。


そんな中、真っ暗な舞台の上で人が動く気配を感じた。

客席とは違う緊張感が漲るその場に目を凝らす。

次第に暗闇に慣れてきた目が、複数の男たちが揺らいでいる姿を捕えた。


動きを止め息を殺し、場の気の流れを掴むために神経を張り巡らしている。


まるで戦いの前のようだと、大海は思った。







続く