「待っていたぜ、1号!覚悟は出来ているんだろうな!」
お約束に挑発的な態度のテラは目障りだが、それよりも剛士が真っ先に見据えたのは、離れた崖の上に捕らわれている大海の姿だった。
無事、なのだろうか?
ここから見た限りでは何も変化はないように見えるのだが。
剛士の目線が何を求めているのか察したテラは、その視線に滲む焦燥感に満足して嗤笑を浮かべた。
大海を盾にするつもりは毛頭ないが、剛士が追い詰められていると感じていればそれだけで価値がある。
いつでも自信に溢れていた彼の、足元を揺さぶるだけでも。
「さて、そろそろおっぱじめようか?大海ちゃんも待たせちゃ悪いしな!」
テラが威勢よく剣を引き抜いたのに合わせるように、剛士も携えている剣をテラに向けて構えた。
間合いを計って慎重に動いていたのは僅かな間だけ。
剛士が踵を踏み込んだのとほぼ同時に、テラも剣を翳して駆け出していた。
遠方に陣していたサンやユエは二人の剣が、いや、二人がぶつかり合う戦況をただ静観していた。
相手を狙う刃がかち合う瞬間に鳴る、独特の金属音。
そんなものが岩場に響く度に大海は目を背けたくなるのだが、彼らは淡々とした横顔のままで成り行きを見守っている。
「以前に忠告したことがあっただろう。弱点を持ったままで戦うことは力になるが、足元を掬われることにもなる、と。
見てみろ、気が逸っているのか1号の動きに無駄が多い。加えてお前のことが気になって集中力が欠けている。
あれではテラの刃の露になるのも時間の問題だ。だが」
テラの剣を弾き身を翻したほんの刹那、剛士は視野に飛び込んだ大海の姿を意図して捉えていた。
身をかわす動作の一連を止めず、瞬間視野に入っただけの彼を逃さなかったのだ。
その刺すような視線は大海も感じることが出来た。
射抜いて通り過ぎるだけのくせに、強烈な痛みを心に残すその視線を。
「守る相手がいる者はしぶとく、そして想定できぬ底力を発揮することがある。
その脅威をテラが正当評価しているかと言えば、まだ疑問が残るな」
いつでも強気のテラが大きく振りかぶった剣を、真正面から受け止める剛士。
互いに力抜きで押し切ろうとするサマは、彼らの息んだ歯軋りまで聞こえてきそうだった。
「俺にここまで喰らい付いてくるなんて、なかなかやるな、おっさん」
「そっちこそ、もう限界なんだろう?!素直に大海を返せば、今日のところは大人しく撤退してやるぜ」
合わせた刀をにじらせながら、ゴーグルに阻まれた相手の眼を覗き込む。
決して引くことを知らない、前のめりに燃え盛る瞳。
「どんだけ執着してるんだが知らないが、あの子はあんたのことなんか何とも思ってないぜ!
昨日だってベッドの中じゃ俺の名前ばかり呼んでくれたもんなぁ?恥じらいだ可愛い顔してさ!」
「!きさまっ!!」
「・・・・、あの、馬鹿」
やたら『馬鹿』に強いアクセントを置いてサンが呟いた。
同じくテラの暴言が聞こえたユエは、頭痛を堪えるように額に手をやって俯いている。
どちらにしても、テラの呷りに心底呆れている様子だった。
「何かあったんですか?」
唯一変身してない大海は、テラの爆弾発言が耳に入っておらず、二人が何のきっかけでこんな反応を示しているのか理由が分からない。
罪のない顔できょとん。と尋ねるのも仕方ない事である。
(実は逆サイドの傍観席では雄輔が驚きに毛を逆立てていた。バトルスーツを着込んでいるので、誰も気が付かなかったのだが)
「いえ、大丈夫です、なんでもありません。
そんな甲斐性のある兄だと思ってませんから・・」
「というか、お前たち昨晩はどうしていたんだ?」
無いとは思いたいが、愚弟が理性をすっ飛ばした暴挙に出た可能性も捨てきれない。
サンが抱える一抹の不安など知りもしない大海は、なんでこんな話を今更聞くのだろう?と少しだけ不思議そうにしながら答えた。
「普通に呑んでましたよ?四方山話をしながら。
ただ酔って調子を出されても困るので、先に彼を酔い潰しましたけど」
「・・・・・、酔い潰した?」
「はい。笑顔で『もう一杯飲みますよね(^∇^)?』って勧めたらいくらでも飲んでくれましたから。
まさか今日、つるのさんと決闘するなんて知らなかったので、容赦なく飲ませちゃったんですよ。
彼、二日酔いとかじゃないと良いんですが・・・」
やっぱり馬鹿だ、あいつは!!
怒り心頭の剛士にガンガン攻撃されてるテラに向かって、少しは痛い目を見て反省しろ!と敵味方を忘れたことを念じてしまうサンだった・・・。
続く