やれば出来るんだってのは、こうゆうことなんだ。
初戦から危なげなく悪の一派を撃破してきた新世代ヒーローリアンたちは、自分たちの実力と戦果に満足していた。
不要な自信と自負は足元を掬われる要因になりかねないのだが、事前にレクチャーを施した先輩が先輩なので(剛士さんとか雄輔さんとか剛士さんとか雄輔さんとか・・・)、結果に満足して浮かれるのは致し方あるまい。
お互いに「油断は禁物だぞ」と声に出し合っていたが、経験の浅い彼らには、何が油断でとこからが実力なのか判断できるはずもなかった。
だから出動要請があって出向いた先で経験したことのない事態に巻き込まれても、警戒心が薄れたままであったのだろう。
その日、暴れていたのは『スベラーズ』だと連絡をうけていた。
雄輔らからは、脱力系の敵なので相手のペースに嵌るな、というアドバイスを受けている。
ならば自分たちのペースで早めにケリを付ければ問題ない。
そんな意気込みで現場に向かった。
確かにスベラーズは定番な悪役と違う(奇妙な?)行動を見せ、こちらから正統派な戦いを仕掛けようとすると空振りばかりしてしまう。
これは、彼らを相手に長引くのは宜しくなさそうだ。
多少の決定力不足を覚悟して、リアンたちは普段よりも大きく広がった位置で五芒星の形を取り、スベラーズの三人をまとめて囲んで『成敗』をしかけた。
黒こげになりながらも驚異の生命力で敵が逃げ去るのを見送って、それでいつもの一件落着のパターン完結だ。
分室に設置されている大型モニターにも、そんなリアンたちの雄姿が映し出されていた。
慣れてきたのか、危なげなく立ち振る舞えるようになった彼らに、鑑賞していた雄輔も素直な拍手を送る。
飲み込みも早いし、動きも機敏で無駄がない。
これからは随分楽をさせてもらえそうだ、と呑気に構えていた時だった。
「上地くん、異常な反応がレーダーに引っかかってる!!」
まるで脅かすような麻里の声に、雄輔はスウィブルチェアからひっくり返りそうになった。
彼女が分室の機器を設定して捉えているのは、モニターに映し出されている現場付近のようだ。
サブ画面で示した広域分布図には、確かに何かが急接近しているのが映し出されている。
加速するように近づく、3つのエネルギー体・・・。
「麻里ちゃん、あいつらと通信できる?!」
「やってみます!」
「待って、汐留の基地から連絡が入ったみたいだよっ!」
大画面の中のリアン達は急に緊迫感を表に出しながら、伺うように辺りに目を凝らしている。
大木の言うように、彼らの本拠地からも警告の連絡が入ったのだろう。
これで不意を突かれることはなくなったが、何故だか湯輔の心から嫌な物が湧き出て止められない。
なんだ、このモヤモヤ感。こんな落ち着かない気分、初めてだ。
「到着しました!メイン画面を引きます!!」
麻里の声と共に、雄輔は画面の端々にまで目を走らせる。
徐々に映り込む範囲を広げる画面は、まだソレを捉えてない。
同じく正体不明の相手を探していた大木が、地面に落ちる不思議は影に気が付いた。
なんでこんなところに影が出来てる・・・?
「!カミチくん、画面に入りきってない!上だよ!!」
その声と殆ど同時に、三人の男がリアン達の前に現れた。
地面の影がそのまま形を持ったような、暗い黒の戦闘服に身を包んだ男たち。
圧倒的な存在感が、雄輔の胸に巣食う嫌な予感を膨張させる。
「な、何者だっ!」
なんとか口火を切ったリアンの森に、男たちは冷酷なほどの静かな笑みを浮かべた。
「そうだな、俺達のことは『カオス』とでも呼んでもらおうか」
「その『カオス』とかが、俺たちに何の用だ?!」
「君たちに用はないよ。君らが持っている物が欲しいだけだ」
何を・・・、と戸惑う僅かな間に、後方に控えていた二人が飛び去りリアンの後ろに意図もたやすく回り込む。
体制を立て直す隙も与えず、まるで流線を描くようなスムーズな動きで奴らはリアンに攻撃を開始した。
その動きの機敏性、正確性に雄輔は目を疑った。
彼らは、プロだ。
人数の上では上回っているリアンがなんとか対処しているが、戦闘レベルが違いすぎる。
「NOBUくん、システムを起動して俺をあそこに転送して!」
分室が開発したヒーローシステムを使用しての訓練は何度もしている。
実戦は未体験だが、充分に使いこなせるだけの手応えも感じていた。
「そんな、急に出て行って正体不明の敵と戦う気なの?
麻里ちゃん、これはいくらなんでも無理・・・!」
大木の反対も分かる、だが躊躇してる場合ではない。
設備全般を請け負うNOBUは黙って麻里の判断を待った。
麻里ちゃん、上地さんの手綱をしっかり握っていてね。
って、お願いしても、きっと彼は手綱を振り切って行ってしまう人だから。
だから、上手に彼を走らせて。彼の望むほうへ走らせながら、その道を間違わないようにコントロールしてあげて。
あなたなら、大丈夫だから
彼を託されたときの中村の言葉が、麻里の脳裏に蘇る。
あなたはきっと、こんな場面に出くわすことを覚悟して、それでもこの暴れ馬くんを私に託したんですね。
「・・・、OK。同じ地球を守るヒーローが危機なのに、のんびり見てるわけにはいかなわ。
NOBUくんはすぐにシステム起動を。上地さんはコンディションを整えて転送装置へ向かって下さい。
大木くん、そんなわけだから・・・」
「ったくぅ、どうなったって知らないからね!」
わざと強めにそう呟いた大木も、素直に自分の指定席に着いて作業を開始した。。
それを横目に眺めていたNOBUも、口元に不敵にも見える笑みを浮かべて素早く全ての設備を起動させる。
壁中に設置された機械やメーター類にエネルギーが充填(じゅうてん)され、一斉に命を吹き込まれたように起動していく。
その様子を眺めている雄輔の目は、まるで夢の国へ訪れた子供のようにキラキラと輝いていた。
「すっげーーーっ!」
「感動している場合じゃありませんよ。
こちらのシステムはまだ試行錯誤の状態、そして相手は未知の敵。
リアン達の無事確保を最優先に、決してそれ以上の無理はしないで下さいね」
「了解!先生の言うことは絶対に守ります!!」
先生じゃないんだけどなぁ。
この緊急事態でも思わず笑ってしまったのは、やはり雄輔の持って生まれた気質に感化されてるせいだろうか。
「上地くん、こちらの準備は整った、いつでも送り出せるよ」
今までは予めバトルスーツを着用してから現地に向かっていたが、分室独自システムでは雄輔を転送ポットで現地に輸送する間にバトルスーツを蒸着するという画期的なメカニズムを採用していた。
これにより、現地到着までの時間が大幅に短縮されるばかりでなく、不十分な装備で出動するなどの人的ミスも回避できるようになったのだ。
「おし、行ってくるぜ!」
威勢の良い掛け声とともに、雄輔は転送ポットに装着するための扉を開け放ち、意気揚々と乗り込んだ。
待ってろリアン、すぐに行ってやるからな!!
「・・・、カミチくーーん!転送ポットの扉、そこじゃないよ、隣だからーーー!」
前途多難なようである。
続く