『お台場戦隊ヘキサレンジャー~最終章~』⑫ | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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ご注意下さい!!私のブログは『愛』と『毒舌』と『突っ込み』と『妄想』で出来上がってます!!記事を読む前に覚悟を決めてくださいね(^^;。よろしくお願いします☆


一歩出遅れた、と里田は交差点手前でため息をついた。

ここの信号は一度止められると長居と評判なのだ。

卒業したとはいえ、正義の味方が信号無視というもの格好がつかないし、諦めて青に変わるまで待つことにする。


遮られた流れの向こう、反対側の歩道に取り残された通行人も、顰め面で赤に変わった信号を見上げている。

中にはここで渡るのを諦めて、方向転換する者までいるようだ。


「・・・え?」


変わったばかりの信号を見上げ、安っぽく肩をすくめてから回れ右をして人混みに戻っていく男。

まさかまさかと目を凝らしているうちに、折り重なった人垣の合間にどんどん隠れていってしまう。

だけど、あれは、あの面差しは・・・。


「のっくん・・・?」


鼻先をかすめるように、暴走気味の乗用車が目も前を横切って行く。

その乱暴な風圧に一瞬瞼を閉じた隙に、彼の人影は完全に消えてしまっていた。






「マジかよ!それ、どこだっ?!」


久しぶりに立ち寄った基地で、その男の話をすると案の定切羽詰まった顔の雄輔に詰め寄られた。

直樹が姿を消してからひと月近くが経っているのに何の手がかりも見つけられてない。

こんな状況では雄輔が焦るのも当然な話なのだが・・・。


「池袋のあたりで見かけたんだけど、でも今思うと、似てたけど絶対にのっくんじゃないと思うの」


数時間前の時空を探すような、果て無い瞳で里田は呟いた。

似ていた、一瞬、声を上げてしまうかと思うくらいに。

そして彼が消えた後を必死に追いかけてしまうくらい、その横顔は直樹を彷彿させた。

だけど。


「なんでそう思った?」

「だって、日サロに行ったみたいに妙な日焼けしてるし、後ろ髪も無造作に伸ばして編み込みとかしてんの。

なんか、全体的に丘サーファーみたいだったんだもん。あんなナンパなの、のっくんじゃないよ」


はっきりと思い出そうとすればするほど、あの男と直樹は違う空気感の中に居たことが際立ってくる。

自分の良く知る直樹とは、まるで違う世界にいるような、そんな違和感。


「無意識に似てる人を探しちゃってるのかもね」


里田はあえて茶化すような軽い口調でそう告げた。

不確かな情報で雄輔に、この件については憔悴しきっているだろう彼に余計な期待を持たせたくもなかった。

それに、もし直樹があんな近くで普通に出歩くことが可能な状態であるならば、彼が自らの意思でここを去ったことになる。

ならば本人が自分で帰ってくる気にならなければ、抜本的な解決には至らないだろう。


里田はそれ以上を考えることをやめた。

己のオツムで難しいことを考えるのには限界がある。


「ところで雄輔、分室の居心地はどう?」


難しい話はいったん置いといて、自分の興味のあるほうに話題を振った。

雄輔が新たに配置された分室というのは、基地内に設置されているが独立した機能を持っている。

全ての作業は分室内の設備と人員で完結できるようになっているのだ。


「悪くないよ、っていうか、けっこう楽しくやってる。

オペレーターの麻里ちゃんは中村さんばりにしっかりしてるし、調整のビビるくんは面白いし、整備担当のNOBUくんも腕は確かだもん。ウチはなかなか良いチームになってんよ」


集まられたメンバーは雄輔の性格をよく理解したうえで、上手にこなしてくれた。

中村が自信を持って、いや、安心して雄輔を預けられる面々を揃えていっただけのことはある。


「オレよりも『あっち』のほうが問題じゃねーかと思うけど」

「たけパパとサキモンのほう?今度から一緒に出動するみたいだけど、仲良くやってるの?」

「最初はつーのさんが鬼のように反対してたけどさ、状況が状況だから今はなんとか納得してサッキーの特訓をしてる」


そのタイミングで、雄輔は耐え切れないようにニヤっと笑った。


「それがさー、二人のやりとりがまるでアニメのスポ根みたいで、見てるとそれだけで笑うよ?」


アニメのスポ根風?

想像中・・・。




『ヒロミ!こんなことで挫けているようじゃ、立派なヒーローにはなれないぞ!』

『はい、遠慮なしにドンドンお願いします!!』

『・・・、憎みたければ俺を憎めっ。その代り、俺がお前を誰にも負けないヒーローに育ててやる!!』

『オレ、つるのさんを信じて一生喰らい付いて行きます!!何があっても挫けません!』

『よく言った!!それでこそ俺と共に戦う戦士だっ!!』

『つ、つるのさーーーんっ!!!』

『ヒロミーーーっ!!!』




・・・・。


「そりゃ、笑うわ」

「だろ?

ま、オレらがこうしてのんびりと準備出来るのも、あいつらのお陰だけどね」


室内にあるモニターと兼用のテレビを点けると、ちょうどニュースでニューヒーロー『新撰組リアン』の活躍を報道しているところだった。

彼らの善戦なしに、こんな平穏な準備期間は存在しない。

雄輔は素直な感謝の気持ちを込めて、その画面を見入っていた。




『本日午後三時過ぎ、渋谷に悪の一派とみられる『イッパツヤ』が出現しましたが、現場に急行した『新撰組リアン』の活躍で見事に撃退されました。

イッパツヤは若いリアンに甘い言葉で歌手デビューを持ちかけましたが、これに対しリアンは『桃栗三年柿八年、努力なくして花も実も成らず!』と耳を貸しませんでした。なお、彼らは今後・・・』




奇想天外な出来事を淡々と伝えるテレビアナウンサーの冷めた表情。

全く別の場所で、同じ番組を鑑賞していた者の一人が、その報道に苛立たしげな呟きを漏らした。


「まったく、いつまで待ってもこんなガキしか出てきやしねぇ。

このままあいつらが復帰しなかったら、今までのことが無駄骨になっちまうってことか?」


どうやら一番血気盛んな男のぼやきも、他の二人には杞憂としか受け止めてないらしい。

微塵ほどの慌てる様子もなく、リーダー然と構える男が静かに諌める。


「出て来ないなら、出て来ざるを得ないようにするだけさ。

それに俺はあのお子様たちにも用があるからな」


画面にはインタビューに嬉々として答えるリアンたちが映し出されていた。

その健全さは活力に溢れ、まだ何も知らないからこその自信が漲っていた。


そうやって天狗でいられるのも今のうちさ。


勝ち試合しか知らないリアンたちには、影の男にこうして蔑まれていることなど、全く知る由もなかった。




続く