『お台場戦隊ヘキサレンジャー~最終章~』⑪ | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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ご注意下さい!!私のブログは『愛』と『毒舌』と『突っ込み』と『妄想』で出来上がってます!!記事を読む前に覚悟を決めてくださいね(^^;。よろしくお願いします☆


決して狭くない指令室ではあったが、込み入った話をするには落ち着きがなさすぎる。

一同は会議室への民族大移動を余儀なくされた。

基本、指令室に籠りっぱなしの大海も、指令室の全てを遠隔そうだ出来る端末機器を携えて彼らに同行していた。


なんとなく全員が会議室に落ち着いたのを見計らって、場のリーダーであるべき剛士が口火を切った。


「さて、君たちにはどこから聞いたら良いん・・・」

「お前ら、紳助さんに集められたって言ったよな?とうちゃんが何処にいるのか知っているんじゃないか?

もしかして、ノクがどこかに消えたことも何か分かっているのか?それと、あと、えーっと・・」


やっぱりそうなったか、と剛士は頭を押さえた。

順序立てて話を進めようとする剛士の意向なと解せず、雄輔は思いつくままの疑問をリアンたちにぶつけていった。

いや、ここまで我慢したのだから、褒める余地もある、と言えるだろう。


雄輔だけでなく、解明されない数々の不明点の答えを求めるように、重たい視線がリアンたちに向けられる。

あまりの緊迫感に、まだ若い彼らが言葉を失った、どの時だった。


「彼らの存在については、私たちから説明いたしましょう」


凛と通る声。

その声の主である中村に付き添うように、いつの間にか見知らぬ男が一人、部屋に現れていた。


「ひとみちゃん、その人はいったい・・・」


面食らう剛士に向かって、男は深く頭を下げた。


「初めてお目にかかります、わたくし、汐留研究所で代理所長をしております、羽鳥慎一といいます。

こちらの5人、新撰組リアンは私どもの汐留研究所に属するものなのです」


朴訥とした、しかしどこか抜け目のない眼差しを持つ男は自らの肩書をそう名乗った。

しかし、どう思い起こしてみても聞いた覚えのない名前だ。

彼の名も、彼らが属する機関も・・・。


「お台場の方々が我々をご存じないのは当然だと思います。

紳助さんより内密に準備を進めるように命を受けておりましたから」

「!やっぱり紳助さんが関わっているのか?!」

「そうです、関わっているというより、あの方の意向で我々が作られました。

こちらのお台場戦隊に万一の事態が起こった場合、救援に向かうことを目的に秘密裏に設立されたのが汐留研究所であり、その第一戦力が新撰組リアンなのです」


ふう、とそこまで話した羽鳥が一息ついた。

ここから話が長くなるのだと、暗に示しているようなそぶりだった。


「本来なら私の一存で動かせるものではないのですが、紳助さんはおろかお台場戦隊の要である羞恥心のブルーまでもが失踪したとなっては、彼らを向かわせる他にありませんでした。

むろん、創始者が同一人物であったとしても別機関であることには変わりありません。

独自の判断で個々の活動を進めるのが筋だと思います。

ですが、お台場の体制が整うまで、しばらく彼らに任せていただけないでしょうか?」

「体制が整うまでって、直樹が見つかるまでってことか?」

「それについては、私から説明させていただきます」


すっと、一歩前に出た中村が、剛士と雄輔、そして大海の顔をゆっくりと見渡す。

そんな中、大海だけが彼女の視線に深く頷いて答えたことに、自分らの困惑を消す余裕もまだない剛士や雄輔が気が付くはずなどなかった。


「まずは、私事で恐縮なのですが、

本日を持ちましてお台場戦隊ヘキサレンジャーから脱退させていただきます」


場に似つかわしくない満面の笑みでの中村の告白に、雄輔は目が飛び出るくらいの勢いで驚き前のめりになった。


「どどど、どゆこと????」

「雄輔、落ち着けって。ひとみちゃんもカテイノジジョウってのがあるんだから。

いつまでもオレラのお守りをしてもらうわけにはいかないでしょ?」


ホンネを言えば、もう少し付き合っていて欲しかったが、それも仕方ない。

雄輔以外の人間は、いつそんな話が中村から出るかと前から覚悟もしていたのだから。


「まあ、気が向いたらお子さんつれて遊びに来てよ」

「ありがとうございます。つるのさんにはご相談することが増えるかもしれないですね」


そう、分かっている。

中村もここがイヤになって出て行くんじゃないってことくらい。

だけど、紳助も直樹も居なくなって、さらに中村まで、と思うと、どうしようもないくらいのやるせなさが胸にこみ上げて止められないのだ。

だけど剛士はそんな雄輔の葛藤なんて気が付きもしないで、笑顔でその次を促した。

そうなることに一切の異論なんてないみたいに。


「話はそれだけじゃないよね?本題の方をお願いできるかな?」

「はい、では公事のほうをご報告させていただきます。

羞恥心のバトルシステムは、三人揃って初めて最強の状態になります。

しかし野久保さんが欠けた今では、十分に本来の力を発揮できておりません。

そこで私たちは野久保さんが見つかるまでの間羞恥心プロジェクトを一旦停止し、別のプロジェクトで対処する方向転換を選択することにしました」

「ちょっ、待ってよ!それじゃあいつらに全部任せるってこと?」


我慢できずに雄輔が声を荒げると、中村はあのほんのりした笑顔を向けてくれた。

宥めるような諭すような、とても口答えなんて出来なくなってしまう笑顔だった。

ああ、ずるい。

そうやっておかんみたいな顔で、笑顔のままでオレを叱るんだ・・・。


「そうは言ってませんよ。別のプロジェクトを立ち上げるんです。

上地さん、あなたには分室が別開発したバトルスーツで戦って頂く予定です。

まだまだ発展途上の分室ですが、彼らは必ず貴方を的確にバックアップしてくれます。

どうか、彼らと、新しい仲間と共に戦って頂けませんか・・・?」


新しい仲間・・・。

咄嗟に、そんなものは要らない、と思った。

今の仲間が全てだ、ここで直樹が帰ってくるまで待つ、待たせてくれと、言いたかった。


でも。


「そいつら、良い奴らなの?」

「もちろんです。上地さんと気が合う方ばかりですよ」


待ってるだけじゃダメだ。

自分が進んで行かなければ、直樹が帰ってくるまでこの地球を守れない。

前を向いてもっともっと強くならなければ、一番大事な人を取り戻せやしない。


「分かった、中村さんの言うことに間違いはないもんな。

俺、そいつらとイッチョ派手にやってみるよ」


ノク、オレは強くなるよ。

お前が戻ってきたときに、頑張ったねって褒めて貰えるように。

お前が嫉妬するくらい、ずっとずっと強い男になってやるよ。


だから、早く帰って来い・・・・!




その短時間に、雄輔は『新しい仲間』と自分が進むべき道を見定めたのだろう。

目的や目標をはっきり示されたほうが力を獲れる男だ。

そして何より、こんなに爽快に笑う雄輔を見たのは久しぶりな気がして、剛士もまた心持が軽くなるようだった。


「で、ひとみちゃん、俺はどーなるの?

まさかサッキーと指令室に籠れ、なんて言わないでしょうね?」


苦笑いすら清々しい剛士に、中村は目を細めて微笑んだ。

これから告げることを彼がどんな顔で受け止めるか、容易に想像が出来たからだ。

でももはや、この決定に従っておらうしか道は残ってない。


「つるのさんにも新しいバトルスーツでの出動をお願いします。

これは博士たちが新たに開発したシステムを運用したもので、羞恥心システムのように外的要因にエネルギーを依存しないタイプのバトルスーツになるのです」

「へ~~、ちゃんと俺用にも用意してあったのか、嬉しいじゃん」


今まで馴染んだバトルスーツが使えなくなることは厳しいが、だからと言って現場にも出ず結果を待っているなんて、まっぴらごめんだ。

使い勝手が多少違っていたとしても、基地から大海がナビゲーションしてくれるなら問題はあるまい。

ここまで来たら、与えられる最大限でやるしかないのだから。


「つるのさん」


またこいつに迷惑をかけるかも知れないな、と傍に立つ大海に柔らかく視線を送った。

それが大海にとってのきっかけになるとは、思いもしないで。


「これからは、僕も一緒に戦います」


力強く発せられた言葉に込められた真意が見えず、咄嗟に剛士はおどけた表情で困惑を誤魔化してしまった。

今までも気持ちの上ではいつも共に戦っていた。

彼の冷静な指示は、戦いの場で不可欠なものだったから。


だが、大海の緊張と覚悟に漲った瞳にはそれ以上の意志が、今よりも確実に踏み込もうとしてる決意がはっきりと宿っていて、それは確実に大海も現場に出るという結論を表していた。


「お前・・・」

「上地さんや野久保さんのように戦えるか分かりませんが、絶対に足手まといにはなりません。

よろしくご指導ください」


柔和に微笑む大海の顔を見ながら、かっ、と頭に血が上るのが分かった。

何への怒りだが判断できぬまま、それでも湧いてくる熱すぎる感情が止められない。


「駄目だ!まだ崎本には早すぎる!こいつが出るくらいなら、俺一人で充分だ!」

「ですが、この状況では・・・!」

「なんでお前が戦わなくちゃいけない?そんなつもりでお前を巻き込んだわけじゃないんだ!

お前は基地から指示を出すことが本分だろう?なんでお前が現場に出向く必要がある?!」

「っ、つるのさん!!」


何度もそうやって彼に名前を呼ばれてきた。

だけどこんなふうに、挑むように縋るように呼ばれたことがあっただろうか?


「お願いします、行かせて下さい。僕が行かなくちゃ、駄目なんだ」


きつく結んだ唇が、あどけなさの残る桜色の唇が決意にわなないでいた。

彼が一度決めたことに対し堅固であることは、剛士が一番よく知っている。

その決意に対し、愚かなほど従順になるということも。


「なんだって、こんな・・・」


投げやりに呟き、引き寄せた椅子に蹲るように腰を落とす。

傍らに大海が跪く気配を感じたが、顔をあげてやることが出来なかった。

大海自身が一番不安であるだろうに、勇気付ける言葉の一つもかけてやれなかった。


だが。


抗う余地など、もうどこにも残っていない。

あるのは、示されているのは、彼と共に戦うという道だけだった。




続く