ザッと基地の自動ドアが開くと、出動していた羞恥心が白のマントを翻しながら入って来た。
悪の一味を撃退すべく一暴れしてきた後だというのに、三人とも肩を竦めたり手を擦り合わせてたりとどこか寒々しそうだ。
暦の上ではとっくに春だが、気候はそう簡単には緩んでくれない。
そう考えれば彼らの所作も当然と言えば当然なのだが…。
「なんだよ、あのスベラーズって。半分『イッパツヤ』じゃん。
今年の冬がことさら寒いのは、あいつらのせいなんじゃないの?」
憮然と剛士が呟くと、雄輔も口を尖らせながら続いた。
「決め技が『Oh!I's Cool!!』とかいう技なんだよ?
攻撃力度外視でわざと寒くしてるとしか思えないって!」
スベラーズという敵は、のらりくらりとごたくを並べて攻撃をかわし、下らない言動でこちらの戦意と情熱を喪失させるという大変異質かつサムい相手だった。
常日頃から寒いより暑い方がマシだと豪語していた雄輔には、通常の攻撃的な技よりも効いたらしい。
・・・、あれを技と呼んで良いのかどうかは微妙だが。
「皆さん、初対戦の相手に善戦して頂きお疲れ様でした。
データ集積して次回の対戦に備えるように準備しておきますね」
そんな大層な相手でもないよ…、と言いそうになるのを堪えて、データ集積用のチップを崎本に手渡す。
大した相手でなくてもそれが後々の敵にどんな影響を与える存在になるか分からない。
油断は何よりも恐ろしい敵なのだ。
「あ、野久保さん」
直樹が崎本の手のひらにチップを乗せようとすると、彼は珍しい気安い笑顔を浮かべて話しかけてきた。
「来週の非番の日が重なるんですけど、また一緒にどうですか?」
一瞬、彼が何を求めているか分からなかった直樹だが、崎本のお強請りするような笑みにすぐ答えが導かれた。
どこかに観劇に出掛けようと誘っているのだ。
ふと考えを巡らせて記憶をたどる。
来週の非番の日は確か…。
「あぁごめん、来週はもう先約が入ってるんだ」
直樹がすまなさそうに告げると崎本はちょっとだけ寂しげに目尻を下げたが、すぐ笑顔に立て直した。
「了解しました(*^-^*)
また時間が合ったときにご一緒させて下さい」
「ごめんね、せっかく誘ってくれたのに…」
「いえ、こちらこそ急に持ち掛けて失礼しました。
次の機会を楽しみにしてます♪」
次、か…。
その要望にまっとうに答えることが出来ない直樹は、曖昧に笑って誤魔化すことが精一杯だった。
ぎこちなさが見え隠れする笑顔になったが、崎本は申し訳なさが現れただけと受け止めてくれている。
正しい理由を口に出来ない直樹は、ただ悲しげに目を伏せた。
そんな二人を、一歩引いた位置から雄輔と剛士が眺めている。
言いたくても言葉に出来ない想いを抱えたまま。
…ノックの先約って誰なの?!また向井くん?それとも別の誰か?
ノックってば、あー見えて私生活は秘密主義なんだもん、心配が尽きないよ。
オレとは遊びに行くのに、前もって約束なんてしてくれたコトないのにぃぃぃ<<o(>_<)o>>
なんだよ大海、直樹ならお出掛けに誘うのか?
俺にはそんなオネダリしたことないくせに、可愛いらしい顔しちゃってよぉ!
だいたい直ちゃんに降られたんなら次はボキを誘いなさいよ。
そしたら完璧にエスコートしてあげるのにっ。
「つるのさん、上地さん、どうかしましたか?
お顔が止まってますが…」
「「いーえ、何でもないですっっ」」
中村からの問いかけに、声を揃えて不機嫌な返事をする剛士と雄輔。
それを直樹と崎本は黒い瞳をキョン、とさせ不思議そうな顔をして眺めている。
兄たちの、下らないけど真剣な嫉妬は、なかなか可愛い弟たちに届かなそうだ☆
続く