注意1:
ここに書かれているお話はフィクションです。完全妄想だとご理解の上、お読みください。
(妄想のテイストが好みでなくても、怒らないようにお願いします)
注意2:
こちら、不定期連載になります。むしろ書きたいシーンだけ書くような荒っぽい仕上がりとなります。
注意3:
基本が『こんな役をドラマでやってほしい~♪』なので、イメージが違うことは覚悟しておいて下さい。
注意4;
本作は11月中に公開の予定でした(TωT)
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冬の日差しは夏のものよりもきついかもしれない。
そんな思いを受けながら、街道沿いの道を走らせていた。
助手席には久しぶりに乗せる、いや、こうして顔を合わせるのすら久しい人が、色づき始めた街路樹に目を向けていた。
最後なのだから、直接会いましょう。
そう提案してきたのか彼女からだった。
何処かの店に落ち着くよりも、こうしてただ、二人きりでドライブがしたいと言い出したのも。
カーラジオからは気の早いクリスマスソングが溢れてくる。
明るく可愛らしい曲や切々としたバラードなど、名曲なのは認めるが時期尚早な気がしてしっくりこない。
「あ、あのお店」
ふいに助手席の彼女が声を出した。
剛士がそちらに目を向けたときは、もう件の店は窓の後方に流れて行ってしまった後だったが。
「なに?入りたかった?」
「ううん、昔二人で行った店よ。覚えてない?
あなたが慣れないワインなんか飲んで、ひどく酔っぱらってしまって・・・」
「ああ、あったな。口当たりが良いから、ついつい飲みすぎて」
「そう、とても気分良さそうに飲んでいたから、私も止められなかったの。
店にいるときはマシだったけど、家に帰って来てからがひどかったわね」
その当時を思い出したのか、二人は同じような苦笑いを浮かべてしまった。
若かりし頃の暴挙、と言うほどでもないが、愉快な気分が謙虚さや分別を忘れさせてしまった出来事。
それも今となっては良い思い出なのだろうけど。
『次の曲は今となっては幻の名曲、と言ってもいいかな?
さきごろ一日だけの復活なんて騒がれてもおりました。
そんな彼らのミドルバラードです・・・・』
DJの紹介にのって、稚いクリスマスソングが流れてくる。
ああそうだ、あの頃もこの曲がよくかかっていたっけ。
だから余計に、この曲は切なく感じるんだ。
「そっちの仕事はどう?順調にいってる?なんだったら期間を延長しても・・・」
「ダメよ、そんなことをしてもお互いのためにならないわ。
それにこれ以上はあなたに甘えられないもの」
昔は俺のほうが甘えてばかりだったよ。
君がどんな思いで傍にいてくれたか、考えもしないでね。
言葉にしかけた思いは、それ以上声に出来なかった。
今更どんな謝罪や後悔の言葉を伝えても、二人は戻ることはない。
それが痛いほど、分かっていたから。
「あの家に一人でいるの?」
思い切ったように彼女が問いかけた。
二人で暮らした家。
夢と未来ばかりを詰め込んでいたあの家が、いつしか君の檻になっていたなんてね。
「残念ながら、ずっと一人でいるよ。勿体ないから、間貸しでもしようかな」
軽口交じりの横顔に、何故だか彼女は安心したように微笑んだ。
それが懐かしい頃の、一番幸せだったころの笑顔と同じように輝いていて。
だから、君はまだ一人?と聞きかえすタイミングを逃してしまった・・・。
「事務所のほうも一人なの?」
「いや、見習い兼雑用の男の子が一人居る。
素直で元気な良い子なんだけどね、変わったお茶ばかり進めるのが玉に傷で。
この前もえらい苦いお茶を飲まされてたばかりだ」
眉間に皺を寄せて下を出すと、彼女はクスクスと控えめな笑い声を漏らした。
いつでもどこか引いている人だった。
もっと自由でいてくれたら、そう思うとやりきれない。
「そんな子が傍にいるなら、寂しくはなさそうね」
「うん、俺はね・・・」
歯切れの悪さに気が付いたのだろう。
彼女は訴えかけるような眼差しで剛士のことを見つめていた。
私だってあなたと居なくても、寂しくなんかないわよ、とその勝気な瞳が静かに語りかけていた。
「本当に、明るくて良い子なんだよ。でもたまに、どこか寂しそうな顔をするんだ。
元気いっぱいで笑っているはずなのに、まるで泣いているように見えるときがある。
まだ俺には言えない重たい何かを、抱えているんだろうなって思うよ」
その告白をどう受け止めたのだろう。
彼女はそっと視線を前に戻して、深くシートにもたれかかった。
「いつか、話してくれるでしょう」
「そうなれるように願うね」
待っているだけでは駄目なことは分かっている。
相手が心の吐露を許せるだけの人間だと、認めて貰えるようにならなければ・・・。
「飯でも食っていくか」
何の他意もなく声をかけると、彼女は少しだけ目を伏せた。
「もう少し、このままでいさせて。
ごめんなさい、まだ面と向かってあなたの顔を見れないの。
真正面からあなたのことを見てしまったら、いろんなものが壊れてしまいそうで・・・」
「分かった」
『何が一番大切なのか、今の俺にはわかる。
好きでも いれない時があるって 君はそう言った』
ラジオから流れっぱなしの歌と、車内の空気がシンクロした。
だから剛士は何も言わなかった。
その歌の歌詞が全てを代弁してくれてるようで、それだけで十分だと思ったのだ。
きっと彼女は帰ってこない。それもこの歌と同じだ。
あの時、二人の幸せよりもそれぞれの未来を重視した結末を選んだのだから。
そのまましばらく走らせ、彼女の都合良い駅の近くに車を停めた。
何も言わずに彼女が車を降りる。
これで最後になるだろう。
・・・、最後に出来るのか、オレは?
「ねえ」
はっとして振り返ると、窓越しに彼女が笑っていた。
こうしてちゃんと目を合わせるのは随分久しぶりな気がする。
別れる前から、ずっと視線を逸らしていたのは剛士のほうだった。
まっすぐな答えを突きつけられるのが怖くて、ずっと顔を背けていたのだった。
「私ね、それなりに幸せよ。大変だったり、寂しかったりするときもあるけど、ちゃんと幸せにやってるわ。
足掻きながらも自分を生きているの。だから、あなたもあなたの人生をしっかり生きて」
ほら、ね。
置いて行かれるって、ずっと前から分かっていたんだ。
だから逃げて答えを先延ばしにして、君をずっと苦しめてた。
「君が幸せなら、それで良かったよ。
どうか、元気で」
何かあったら頼って来い、とは言えなかった。
言葉にしなくても剛士がそう思っていることは伝わっていたし、その上で、彼女も剛士にだけは頼らないで生きていく覚悟なのだと剛士も気が付いていたからだ。
ピンと伸びた足首、颯爽と人ごみに分け入って進む彼女の後ろ姿が綺麗だ。
振り返って過去に捕らわれまいと、まっすぐ前だけ見据える彼女が、涙で揺らぐくらいに綺麗だった。
そのまますぐに一人きりの家に帰る気になれなくて、剛士は事務所のほうに車を回した。
急ぎの仕事があるわけではないが、気持ちの切り替えをしてからでなくては、冷静に日常生活に戻れるような気がしなかったのだ。
ドアの前に来て、室内に人の気配があることに気が付く。
間が良いのか悪いのか、一度苦笑いを飲み込んでから剛士はドアを開けた。
「あれ、先生?!」
古典的に山積みになった資料の向こうから、驚いた崎本の顔がひょこっと現れた。
「どうしたんですか、崎本くん。今日はお休みだって伝えてあったはずですが」
「あぁ、すみません。ちょっと自主勉強したくって。
図書館とかに行くよりも、ここのほうが参考資料がたくさんあるもんですから・・」
照れたように笑いながら、崎本はパタパタと散らかした資料や本の山を整えた。
手元に広げたルーズリーフには、ところ狭しと細かく書き込みがしてある。
気紛れでこの事務所に転がり込んできたのかと思ったが、案外しっかりと取り組む気があるようだ。
「先生こそ、今日は・・・」
「ああ、ちょっと気になるところがあったから、それのチェックだけを、ね」
「それじゃ、すぐにお茶の用意をしますね^^」
イヤ、それは要りません・・・。
と剛士が言う前に、崎本はルンルンと浮かれた足取りで給湯室へ消えて行った。
なんだかんだで昼ご飯を食べ損ねていた。
イマイチ食事をしたい、という気分になれなかったが、このままでも身体に悪いだろう。
「さきもとくーん、お茶の前にお使いをお願いして良いかな?」
少し大きめの声で呼び込むと、崎本は嬉しそうな顔ですぐに戻ってきた。
期待が見え隠れする素直な笑顔は、ご主人様の命令を待ってるワンコに似ている。
「商店街のサンドイッチハウスでライ麦パンのサンドを買ってきてくれませんか?
種類はお任せします。崎本くんが食べたいものも、一緒に買ってきて良いですよ」
はい、とお財布から千円札を一枚渡すと、崎本はオーバーに『かしこまりました!(`・ω・´)ゞ』とポーズ付きの返事をしてドアから飛び出して行った。
誰かが自分の言動に反応してくれるというのは、やはり心が綻ぶ。
あんなふうに明るい子なら、なおさら救われる気がする。
彼女だって、最初は何の意図もなく明るく笑ってくれていた。
ただただ、共にいることが当たり前みたいに、二人で笑い合って暮らしていた。
何を見落としていたのだろう、何が違ってしまったのだろう。
自分は何も変わらずに、ただ必死に生きていただけのつもりだったのに・・。
見えなくなっていたのだろうか、見ようとしなくなっていたのだろうか。
ずっとずっと、彼女を大切に思う気持ちだけは持ち続けていたはずだった。
愛していた、いや、今だって愛してる。
でもそんな感情を押し付けて生きていくなんて、大人のすることじゃない。
なにを、どこで・・・。
「せんせい?」
思考の海におぼれ変えていた剛士は、その謙虚めいた声で我に返った。
何時の間に戻って来ていたのか、崎本が大きな黒い瞳を不可思議そうに揺らめかして立っている。
手に持っているサンドイッチと湯気立つカップが、いやに現実めいていて・・・。
「ああ、すみません。ちょっと考え事をしていました」
いつものようにゆっくり笑ってみせると、崎本は安心して頬の桜色を濃くした。
元気な子なのに、常に何かを気にしている。
ほんのささやかな差異が、彼を不安にさせることに気が付いて上げれたのは何時頃だったろう。
「お疲れなんですよ、きっと。今日のお茶はチャイにしました。
甘さは脳内疲労に効きますし、香辛料の香りが気分をリフレッシュさせてくれますよ」
湯気と一緒に立ち上ろる香りは、シナモンだけでない独特の風合いで鼻孔を擽る。
本場の物よりも甘さを抑えましたから、と言われたが、やはり普通の紅茶よりも相当甘い。
飲み物というよりも、まるでお菓子のような味わいだ。
「チャイは良質の茶葉では美味しく出来ないんですよ。
ダストティーっていうほこりみたいに砕けた茶葉を、美味しく飲むために開発された飲み方なんです」
それについては聞いたことがある。
インドで作られた茶葉は良い物は殆どイギリスに送られてしまうため、生産国には質の悪い茶葉しか残らないのだそうだ。
そこで自分らでつくった茶葉のお茶を少しでも楽しもうと創意工夫のした結果、世界的に有名になる『チャイ』が完成したのだ。
「皮肉なもんだね、搾取した良質の茶葉では作れない美味しいお茶が生まれるなんて」
「逆もまた真なり、ですよ♪
搾取されて良い茶葉が残らなかったから、新しい飲み方を開発したって考え方もあるじゃないですか。
普通に美味しいお茶が手に入ったら、このチャイは誕生しなかったんですから」
そう呟いた崎本は、幸せそうに甘いお茶を口にした。
口の中に蕩けるような甘さが広がるのを、隅々まで楽しむように幸せに笑っていた。
「崎本くん」
呼ぶと、彼は幸せの余韻に浸ったままの笑みを剛士に向けた。
そこに彼が居る当たり前のことが、嬉しくて仕方ないみたいに。
崎本くん、僕は今日、別れた奥さんに会ってきました。
別れた時に三年間だけ彼女に生活費の援助をすると約束して、今日が最後の受け渡しだったのです。
援助を言い出したのは僕でした。
もしかしたら三年経つうちに何か変わってくれるのではないかと、そんな小さな期待も持っていたのです。
でも、そんな都合の良いことは起こりませんでしたよ。
僕は永遠を誓ったたった一人の女性の幸せすら、守ってあげれなかった情けない男なんです。
「・・・、そのサンドイッチは新商品なんですか?」
「そうなんです!あったかパニーニです。
中のチーズがとろとろで美味しいんですよ~。良かった一口どーぞ♪」
はい、と差し出されたのは。
新しいサンドだけではなく、ただただ剛士に懐いている無垢な笑みだった。
「いただきます」
一口ほおばると、崎本は期待に輝いた瞳で、彼からの感想を待っている。
そんな瞳で彼女から見詰められていた頃もあったものだと思いだすのは、崎本に対して失礼になるのだろうか・・・。
「うん、美味しいですね。次からは僕もこっちにしようかな」
「でしょー?!お店で見つけたとき、絶対にこれだって思ったんですよぉ」
子供みたいにはしゃぐ崎本に、いつかこの気持ちを告げる日が来るのだろうか。
いつまでも別れた女性の面影を引き摺って過去の傷から逃れられない、そんな自分自身に愛想を尽かしたくなるようなやりきれない気持ちを、ただただ尊敬の眼差しだけを向けてくれる彼にちゃんと吐露することが出来るのだろうか。
「せんせい、やっぱり何かありましたか?」
え?と顔をあげると、崎本が崩れかけた笑顔を浮かべて、必死に次の言葉を探していた。
まるで母親がこっちを向いてくれないときの子供のような、もどかしい寂しさに捕らわれた顔をしている。
「ごめんなさい、ここのところずっと元気がなかったみたいだったから・・・。
でも、俺なんかが先生のプライベートに簡単に立ち入っちゃいけないですよね」
無理に笑っているのが一目瞭然だった。
人懐こいくせに、こうゆう時に距離をおこうとする。
そんな彼が何を抱えているのかまだ知らない。
知らないけど、まずは・・・。
「崎本くん、大人の愚痴に少しばかり付き合ってくれますか?」
自分の傷を、人に見せるのが恥ずかしいような過去を晒すのが、最初の一歩なのだと思う。
彼と本当の信頼関係を築くつもりでいるのならば。
崎本は少しばかり頬を強張らせ、泣きそうに歪む瞳でじっと剛士を見詰めてる。
君がそんなに緊張する必要はないよ、と、そっと剛士は微笑んだ。
「少し長くなりますけど、気長に聞いて下さいね」
首が落ちるかというような勢いで、崎本がしっかりと頷く。
その前のめりな懸命さは、いつだって剛士の気持ちを解してくれていた。
「さて、どこからお話しましょうかね。なんたって時間にしてざっと10年近い歴史がありますから」
想定を遥かに越えた超大作の予感に、崎本は眼をまん丸くして驚いていた。
日はまだ高い。
覚悟を決めてじっくりと付き合って頂きましょう。
結局剛士の話に長々と付き合う羽目になった崎本は、夕飯まで奢ってもらうことになったのであった。
続く
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おう、なんだか微妙に季節がずれちまったぜ(汗)
なぜかこのシリーズを書いているときのつーのさんのイメージは金髪。
自分でも不思議(・ω・)?
これも不親切な不定期連載なので、ブログテーマを作りました。
よろしければ前のお話もご一緒に。
さ~て、次はどの事務所のお話を書こうかな~~( ´艸`)