゚・*:.。..。.:*・゚ これは、ちょっと未来の、そんで、少し不思議、なお話。゚・*:.。..。.:*・゚
こともなげに、サッキーは新しいロボに変えたらどうかと提案する。
今まで『買い替える』ということに考えが及ばなかったのは、不都合がないからというよりも、作ってくれた剛にぃに対して申し訳ない、という気持ちに止められていたからだ。
でも今回は、その剛にぃからもお許しが出たわけで、ボクが気にする問題は何もなくなったわけだ。
ボクの好きなようにして良いと・・・。
「雄ちゃんてさ、今のボクの手助けになるようなことって、ほっんっとうに何も出来ないのよ」
「・・・、そうみたいですね」
サッキーは苦笑しながら相槌をくれた。
まったく雄ちゃんときたら、片付けたところから平気で散らかすんだから。
何かしようとすると突拍子もないことを聞いてボクを引き留める。
頼みごとをしても、心配で目を離すことが出来ない。
「予測不能で動いたり、ボクのリズムとか無視で絡んできたりするわけね。
こっちの予定をけっこう乱してくれるんだ、悪気のひとつもなく」
いや、それどころかボクの予定をかき乱したことにも気が付いてないだろう。
文句を言うボクに、イライラしてるとうまくいかないぞ(^-^)、なんて笑顔で諭したりするくらいだから。
むか~~しのCMに『原因の半分はあんただよ』ってコピーがあったけど、まさしくそれなんだよ。
「でもねぇ、そんな雄ちゃんに慣れちゃったっていうか、雄ちゃんの起こすトラブルは笑ってやり過ごせるようになっちゃったんだ。今じゃ雄ちゃんが大人しいと物足りないくらいだよ」
ま、いちいち気にしてたらやってらんない、ってのが正直なところだけど。(^^;
「サッキーがさ、雄ちゃんは何が出来るんですか?って聞いただろう?
雄ちゃんは得になるようなことは何も出来ないかも知れないけれど、でも一緒に居るだけで毎日にたくさんの思い出を作ってくれるんだ。
それって規則正しくデータ通りに動くロボには真似できない特技なんだよね」
なにせ雄ちゃんを知ってる友達知人には、まず『あのロボくんはどうしてる?』って聞かれるくらいの人気者なんだもん。
みんな一度は迷惑をかけられて、そして雄ちゃんの対応に思わず笑っちゃった人たちなんだ。
「それに剛にぃが作ってくれたのは、ボクの友達なんだ。
友達ってのは何が出来るからって選ぶんじゃなくて、ただ一緒に居て好きだから友達になるの。
だったら、何も出来ない今のままの雄ちゃんで充分だよ」
こんな説明で、正真正銘まっとうなロボットのサッキーは納得してくれるだろうか?
正確なこと、マスターの役に立つことが常識のロボットの感覚を持つサッキーが。
そんなサッキーの肩が、すとん、と落ちたように見えた。
あれ?って思っていると、ちょっと嬉しそうに笑う。
照れてる、みたいにも見える複雑で微妙な笑い方は、いつの間に覚えたのだろう?
「マスターとして100点満点の答えですよ、野久保さん。これなら雄輔さんも安心するでしょう。
・・・ね、雄輔さん
」
サッキーの視線の先が、ボクじゃなくて、その少し後ろにずれた。
まさかって思って振り返ったら、ガバッて、突然の勢いで抱きしめられて。
あ~あ、ボクはこの重みと暖かさを知っている。
それこそ、インプットされたみたいに身体に記憶にしっかりと焼きつけられている。
「のっく~~~~
」
「・・・・、雄ちゃん、復活できたの?
キイテナイー」
雄ちゃんが無事に動いてくれて嬉しい、の以前に、何がどうなっているのかボクには分からない。
結局剛にぃが昨日のうちに直してくれたってこと?
じゃ、なんでサッキーはわざわざ雄ちゃんを取り換えろなんて言ったんだろう?
それとも、雄ちゃんが身の危険を察知して自力で復活したとか??
う~~ん``r(・_・;) 、と悩んでいると、サッキーがにこやかに事の顛末を教えてくれた。
「脅かすようなことをしてごめんなさい。本当は雄輔さんは壊れていなかったんです」
「うそ!?でもこっちの技術者の人も下手にいじれないって・・・」
「それは、剛士さんが設置した緊急停止装置を作動させたからなんですよ。
解除の仕方がわからない人間が弄ると、今までのデータを全部消してしまう可能性もある。
だから、専門職の人たちも触るのを嫌がったんです」
あ~、なるほど~~、と納得して終わらせて良いわけがない。
なんでまた、雄ちゃんの緊急なんちゃら装置が作動したわけだ?
そんな危機的な状況になったはずもないのに。
「実は、雄輔さんから剛士さんに相談があったんです。
今の自分は野久保さんに必要ないんじゃないかって・・・」
どうゆうこと?
びっくりして雄ちゃんの顔を見ようとすると、体裁が悪いのかきゅぅってボクを抱きしめて顔が見えないようにされてしまった。
「ご自身でたくさんのお友達を作られて、もう大人になった野久保さんには自分は要らないんじゃないか、傍にいても迷惑かけるだけなら、いっそ離れたほうが良いんじゃないかって相談をうけたんです。
それで剛士さんが非常用の緊急停止装置を使って、野久保さんがどんな反応をするか見るように提案されたんですよ。
でもね、雄輔さん、剛士さんのおっしゃったとおり、杞憂だったでしょ?」
「キユウなんて難しい言葉、あの人はインプットしてくれなかったもん」
負け惜しみなのか恥ずかしいのか、雄ちゃんはぶすくれた声でそう呟いた。
ロボットがふて腐れるなんて、ある意味、超ハイテクだよ。
「雄ちゃん、そんな心配してたの?」
「だって、ノック、オレが居なくても毎日楽しそうにしてるんだもん」
「ん、もう、バカだなぁ。雄ちゃんを要らないと思ったら、とっくに剛にぃのところに送り返してるよ。
雄ちゃんはね、そのまんまでいいの、手がかかるくらいが、ボクにはちょうど合うの」
「・・・、ごめぇん」
本当に謝らなきゃいけないのは、ボクのほうだった。
雄ちゃんをそんな不安にさせておいて、何も気が付かないで放っておいた。
自分のことばっかり優先して、『友達』を置いてってしまったのはボクのほう。
何をしてあげなくても、ずっとそこに居てくれるなんて勝手に思い込んで甘えてた。
「雄ちゃんのほうこそ、こんなボクがマスターでも良いの?
もっとたくさん構ってくれる楽しい人が良いんじゃない?」
「んん~~、それは、無理。
ノックと居んのが一番楽しいもん」
やっと元気いっぱいの顔で笑ってくれた雄ちゃん。
その『感情』が、マスターとしてインプットされたボクへの当然の反応だとしても。
やっぱり彼の気持ちを裏切ってはいけないのだと、思い知らされた気がした。
「本当に、いつお会いしても相思相愛ですね。憧れます」
サッキーはそういって羨ましげに眼を細めるけど、彼だって認めてないだけでどんだけ剛にぃに溺愛されていることやら。
愛されてることって、人間もロボットも見落としがちになっちゃうもんなんだね。
「ごめんね、サッキーや剛にぃにも迷惑かけちゃった」
「いえ、たくさん勉強させていただきました。今回のことは、一種の痴話喧嘩とも言うんでしょうかね?」
「ケンカじゃねーも~ん。愛情確認だも~~ん」
ボクの背中でおんぶお化けになってる雄ちゃんがちゃちゃを入れた。
すでに余裕なのか、目尻が下がったいつもの甘えん坊の顔をしてる。
(そして実際にすごい勢いで甘えている)
「分かりました、剛士さんにもそのようにお伝えしておきます」
いつも爽やかに笑うサッキーが、今回は困ったように苦笑してた。
そりゃ、そうなるだろう。
もしかしたら今回のことで、いらない『勉強』もさせてしまったかもしれない(汗)
背中には、雄ちゃんの独特の重さとあったかさ。
そこにあるだけで癒される、不思議な束縛感。
何も出来なくていい。
そうやって、ここに居てくれるだけでボクには十分意味がある。
「なあノック、今度はこっちがつーのさんとこに遊びに行こうよ(*^▽^*)」
「うん、そうだね。たまには二人で遠出もイイね」
ちょっと文明が進みすぎた時代。
こんな友情だって、有りだと思うんだ。
終わり