以下の文面はフィクションです。実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の産物です。
妄想と現実を混同しないように気をつけましょう。
ちなみに、今回は(やっぱり)基本がBLです。
苦手な人は避けてくださいm( _ _ ;)ドウモスミマセン
しょせん素人が書いてるモノなので、過剰の期待はしないで下さいね~~。
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準備の確認に付添人の女性が出て行ってしまい、一人取り残された。
やってみて分かったが、結婚式というのは想像以上に裏が慌ただしい。
完璧にこなして当たり前、僅かなミスでも有り得ないって世界だから、そりゃ大変だろう。
朝から周りに誰かしら付いていて鬱陶しいくらいだったのに、ぽっかり現れた一人きりの時間。
今なら誰も居ない、何をしても自由なんだなぁ・・・。
と、ボーと考えているところへ、深刻な顔をした崎本がやって来た。
光沢のある黒の上下スーツ、リボンタイが良く似合っている。
こうしてるとまるでアイドルみたいだな、と眺めているところで彼が手を差し出した。
「輝さん、一緒に逃げて下さい!」
綺麗な瞳をしてる子だった。
人の世の淀みを知らない、いや、知っていても浸らない強さを持っている。
そんな澄んだ悲しい瞳でお願いなんてされたら・・・・。
まるで引き寄せられるように、当然のことのように、輝は崎本の手を取っていた。
オーガンジーで広げられたレースのドレス裾を持ち上げて、真っ白なベールを靡かせて崎本につれられるままに走り通した。
こんだけ派手な格好でよくぞ誰にも見つからないもんだと、不思議な運の強さに感心する。
それとも、彼がちゃんとそうゆうルートを前もって確認していたのだろうか。
逃げ込んできた駐車場には、崎本の愛車が停められていた。
準備万端ってところか。
「乗って下さい、とりあえずオレのマンションに行きましょう」
後部座席のドアを開けてくれた崎本に、真剣すぎる表情に輝はどうしたものかと戸惑った。
ここまで付いて来てしまった自分も問題があるのだが、さすがにこれ以上先に進むわけにはいかない。
「大海ちゃん、落ち着いて。今回の首謀者はどーせ雄輔でしょ?
あの子の悪ふざけに無理して付き合う義理はないわよ?」
勢いでここまで逃避行してしまった自分が言うセリフではないのだが。
きっと雄輔の口車に乗せらえて、こんな無茶をする羽目になったに決まってる。
「違います。最初に言い出したのは上地さんですが、僕は僕の意思で輝さんを攫いに来ました」
まっすぐな眼差しに射られるかと思った。
それくらい、彼には迷いがなかったのだ。
「大海ちゃん・・・」
「オレは、本気ですよ」
・・・分かるわよ、それくらいあなたの瞳を見れば。
でもね、きっとあなたは自分の気持ちを間違えている。
憧れが行き過ぎて、恋との区別がつかなくなっているだけだわ。
「こんなおばさんをそこまで慕ってくれてありがとう。
でもね私を本気で攫おうっていうなら、年収を今の三倍くらいにしてからいらっしゃい」
「輝さん!」
軽い冗談も受け付けられぬほど、彼は本気だった。
やっとあなたが一番です、と言ってくれる人が現れたのに、こんなに寂しい思いを味わうなんて。
もしかしたら今までも、こうやって誰かの本気から逃げていたのかもしれない。
求められる全てに答える自信もないままに、目を逸らして見えないふりをしていたのかも・・・。
「ごめん。私はあんたの一生を受け止めてあげれないし、私を丸ごと預けることも出来ない。
大海の全てを背負うのは、今の私には重すぎる」
こんなピュアな子、私みたいに擦れて草臥れた人間が扱うなんて無茶だ。
とても良い子だと分かっているけど、だからこそ、自分の手には余ってしまう。
そっと近寄って、崎本の黒い髪を撫でてあげた。
早く大人になりたくて、その殻を被ったままで喘いでる。
でもそれは、自力で取り除かなければいけないものだから。
「もっと、視野を広げて世界を見てきなさい。
そうすればあなたが本当に必要とする人がすぐに見つかるはずよ?」
ふる・・・と力なく崎本が首を振った。
「僕は、間違えてなんかいない・・・」
「方法だけは十分に間違えてるわよ。
さ、冗談になる内に早く戻りましょ。今ならまだ間に合うから」
すぐに戻ればどうにか誤魔化せる時間内だ。
塩沢ならコトを荒立てず、うまく流せるだけの器量と策略がある。
すぐに、とりあえず自分だけでも戻れば。
「大海」
時間がないことは分かっていても。
宥めても動こうとしない崎本を、唇を嚙締めて肩を震わせている少年を、置いてはいけなかった。
小さく一歩踏み出すと、着なれないドレスの裾がふわふわと踊るみたいに揺れた。
不思議なドレス。今日一日だけはこんな私もお姫様になれるのね。
自嘲したいのを飲み込んで、柔らかく崎本に微笑みかける。
最初で最後。
無意識にその言葉が頭に降ってくる中、強張った崎本の頬にそっと唇を寄せた。
「てるさ・・・」
「大海ちゃんが攫ってくれたのは、人生で一番嬉しいサプライズだった。ありがとうね」
「・・・・、彼からのプロポーズよりも、嬉しかったんですか?」
内緒、と人差し指を唇に当てる。
悪戯に微笑む彼女は、今までに見たことのない笑顔だった。
それが、こんなバカげた暴走のご褒美だったのかも知れない。
「さ、戻るよ」
くるっと踵を返すと、今度は黙って付いてくる。
それが正しいのだと、崎本も本当は分かっていた。
ただそれでも、叶わないと分かっていても、確かめなければ諦め切れないこともある。
凛と真正面を見据えて、急ぎ足でドレスを靡かせながら彼の元へと急ぐ輝の後ろ姿。
悔しいから言葉にできなかったが、崎本が知っているどの彼女よりも今の輝が綺麗で輝いていた。
続く