『ライオン~こころのこいぶみ~』⑯ | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

逢海司の「明日に向かって撃て!」

ご注意下さい!!私のブログは『愛』と『毒舌』と『突っ込み』と『妄想』で出来上がってます!!記事を読む前に覚悟を決めてくださいね(^^;。よろしくお願いします☆

以下の文面はフィクションです。実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。

似てる人が居ても、それは偶然の産物です。

妄想と現実を混同しないように気をつけましょう。

ちなみに、今回は(やっぱり)基本がBLです。

苦手な人は避けてくださいm( _ _ ;)ドウモスミマセン


しょせん素人が書いてるモノなので、過剰の期待はしないで下さいね~~。





 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



街灯の明かりが鬱陶しい公園で、どのくらいそうしていただろう。

彼女がそっと雄輔の腕から離れた。


「あんたに甘えるようじゃ、私もヤキが回ってきたわね」


強がりの顔を取り戻した輝は、背筋をシャン、と伸ばして微笑んだ。

いつも、店のカウンターの中で見せる顔と同じ笑顔だった。


「ごめんね、雄輔。心配してくれるあんたには悪いけど、塩沢とのことは本気で考えているんだ。

理由はどうあれ、私を選んでくれた希少な男だからね、彼は」


輝が胸元で握りしめた拳。

覚悟よりも決意を感じる彼女の手に、いつの間にか馴染んだ指輪が輝いていた。


「結婚ってのはさ、相手のことを全部受け入れることだと思うんだ。

あいつもいろいろ困った面を持ってるけど、許容範囲っていうか理解してあげれるっていうのかな?

二人とも天邪鬼で強がりなところがあるから、察して認めてあげれるんじゃないかって思ってる」


遠く、を見ているんだと思った。

目の前の雄輔じゃなくて、今の塩沢じゃなくて、もっと遠い未来の自分を。


あの店に拾われたときからずっと一緒に居てくれて、厳しく叱られることも度々だったけど、彼女に怒られるのはなんだか嬉しかった。

ちゃんと自分のことを気にして見守っていてくれてるんだって、それが伝わってくる彼女の叱咤の声が大好きだった。

もうあんな風に「雄輔!」って呼んでくれないのかな・・・。


「店は辞めないよね?」


口から零れたのは、情けないくらいに上ずった声。

らしくない雄輔の弱弱しい問いかけに、輝は困ったように笑った。

たぶん、それが全ての答えだったと思う。


「また明日ね、お疲れ様」


いつもの言葉を残して輝が去って行く。

見守る背中は綺麗な姿勢で凛々しくて、でもどこか頼りない。

すごく寂しいのに、輝は絶対に振り返ってくれない。

そうゆう人だって雄輔も知っていたから、彼女の背中が寒々とした夜の街に消えるまでずっと見送っていた。

強がりの背中が、見えなくなるまで。


「帰ろう」


誰となく呟いて、雄輔は急ぎ足で歩き出した。

輝は、ちゃんと先を見据えていた。

勢いとか妥協とかじゃなくて、ちゃんと考えて自分の未来を選んでいた。

自分の未来を預けて良い相手か、相手の未来を引き受けても大丈夫なのか。


熱病のような愛情は無くても、長い時間を労り気遣える相手だと、そう判断したのだろう。

その相手が塩沢だというのが悔しいが、雄輔に口を挟む権利などなかった。


自分は、どれくらいの覚悟で直樹と共に生きる人生を選んだのだろう。

今、この瞬間に彼が笑顔でいてくれること、彼がさりげない日々に幸せを感じてくれること。

そのために一瞬一瞬を懸命に生きてきた自負だけはある。


だけど、気が遠くなる位の未来まで彼の隣に立つためには何が必要か、なんて考えは及んでなかった。

笑顔で、ただ笑顔でって、そんな単純なこと良かったのかな?

この行き当たりばったりな自分に、直樹は不安を覚えて震えていたのかな?


早く直樹に会いたかった。

会って、全ての想いを込めて彼を抱きしめたかった。

こんな考えなしでも、直樹以上に大切に思える人は居ないって、しっかりと伝えたかった。


なのに。




「やだよ、離して・・・!」


いつもなら雄輔の気が済むように抱きしめさせてくれる直樹が、まるで雄輔自身を拒絶するみたいに腕から逃れていった。

うつむき加減で唇を嚙締めている直樹。

そんな顔をさせたくて、一生懸命に帰ってきたわけじゃないのに。

どうして?


強い思いを込めて眺めていると、涙に詰まりそうな声で直樹が呟いた。


「雄ちゃん、女の人の匂いがする」


その言葉が言い終わらないうちに顔を背けられた。

首筋が痛々しいくらいくっきりと浮き出ている。

迂闊だった、まさか輝の残り香が身体に染みついていたとは・・・。


「違うんだ、さっき輝さんとちょっとあって、それで匂いが付いちまったんだ」

「匂いが移るほど身体を寄せ合って、輝さんと何してたの?」

「だって、輝さんだよ?輝さんとオレがなんかあるわけ・・・」

「絶対に何もないから、黙って信じてろって言うの?

ボクがそれでどんな辛い思いをしてても、雄ちゃんは構わないんだ?」


直樹の拳が、ドンと雄輔の胸を突く。

叩かれた痛みだけでない衝撃が、雄輔の胸の内にジン・・・と沁みてきた。


「怖いんだよ、本当は。雄ちゃんが、やっぱり女性の方が良いって思っているんじゃないかって。

そんなこと言われたら、もうボクは太刀打ちできないんだから」

「ノック・・・」

「少しは、ボクが感じてる引け目とか不安とか、そうゆうのも理解してよ・・・!」


信じろ、と言うのは簡単だ。

信じられるに値するだけの言動のみを行うことも。

だけど、それだけの根拠で誰かを信用し続けるということは、とても強い意志と覚悟が必要なわけで。

信じられることよりも、信じることのほうが何倍も大変なことなのだ。


「のく、ごめん。少し軽率だった」

「ボクだって、輝さんと雄ちゃんに何かある、なんて本気で考えないよ。

だけどやっぱり、もしも、っ思っちゃうと止められないから」


力なく落とした肩が頼りなく見えて、それ以上に彼をここまで悲しませてしまったことが申し訳なくて。

雄輔は着ていたTシャツを脱ぎ捨て、改めて直樹を抱きしめた。


「これなら輝さんの残り香はしないだろ?」

「うん、そうだね。でもなんか・・・」


ダイレクトに伝わる雄輔の鼓動に、何故だかとても照れてしまう。

焼けた剝き出しの肌が汗でしっとりしてて、自分と妙に密着してるような気がしてならない。

真面目な話をしてるのに、こうゆうのは正直困る。


「直樹」


その呼び声に反応して彼の顔を覗き込もうと少し位置をずらす。

ニヤッと歪んだ雄輔の目尻を見た瞬間、唇を奪われていた。


「ちょっっ!雄ちゃん!!」

「おまえ、いい加減学習しろよ。オレが『直樹』って呼ぶときはお前が欲しいときなんだぜ?」


反論、する間もなく、もう一度きつく唇を押さえつけられた。

ダメだって思うのに、身体に力が入らない。


こんなに熱く求められるのは、久しぶりかもしれない・・・。


「ば、かぁ・・・っ」

「知ってるよ、オレはすんげぇバカだって。

大事な人の気持ちも察してあげれないくらい、どうしようもないバカだ。そんで」


くらっと視界が回る。

目の前には雄輔の勝ち誇ったような顔。

捕えた獲物をいたぶる捕食者の顔のようにも見えた。


「好きな人に我慢なんて出来ない大バカ者だ」


覆い被さってくる雄輔の熱に包まれながら、直樹は壊れそうな思考の端で思った。


こんな手で彼に絆され許してしまう、ボクだって大馬鹿者だ、と。





続く