以下の文面はフィクションです。実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の産物です。
妄想と現実を混同しないように気をつけましょう。
ちなみに、今回は(やっぱり)基本がBLです。
苦手な人は避けてくださいm( _ _ ;)ドウモスミマセン
しょせん素人が書いてるモノなので、過剰の期待はしないで下さいね~~。
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街灯の明かりが鬱陶しい公園で、どのくらいそうしていただろう。
彼女がそっと雄輔の腕から離れた。
「あんたに甘えるようじゃ、私もヤキが回ってきたわね」
強がりの顔を取り戻した輝は、背筋をシャン、と伸ばして微笑んだ。
いつも、店のカウンターの中で見せる顔と同じ笑顔だった。
「ごめんね、雄輔。心配してくれるあんたには悪いけど、塩沢とのことは本気で考えているんだ。
理由はどうあれ、私を選んでくれた希少な男だからね、彼は」
輝が胸元で握りしめた拳。
覚悟よりも決意を感じる彼女の手に、いつの間にか馴染んだ指輪が輝いていた。
「結婚ってのはさ、相手のことを全部受け入れることだと思うんだ。
あいつもいろいろ困った面を持ってるけど、許容範囲っていうか理解してあげれるっていうのかな?
二人とも天邪鬼で強がりなところがあるから、察して認めてあげれるんじゃないかって思ってる」
遠く、を見ているんだと思った。
目の前の雄輔じゃなくて、今の塩沢じゃなくて、もっと遠い未来の自分を。
あの店に拾われたときからずっと一緒に居てくれて、厳しく叱られることも度々だったけど、彼女に怒られるのはなんだか嬉しかった。
ちゃんと自分のことを気にして見守っていてくれてるんだって、それが伝わってくる彼女の叱咤の声が大好きだった。
もうあんな風に「雄輔!」って呼んでくれないのかな・・・。
「店は辞めないよね?」
口から零れたのは、情けないくらいに上ずった声。
らしくない雄輔の弱弱しい問いかけに、輝は困ったように笑った。
たぶん、それが全ての答えだったと思う。
「また明日ね、お疲れ様」
いつもの言葉を残して輝が去って行く。
見守る背中は綺麗な姿勢で凛々しくて、でもどこか頼りない。
すごく寂しいのに、輝は絶対に振り返ってくれない。
そうゆう人だって雄輔も知っていたから、彼女の背中が寒々とした夜の街に消えるまでずっと見送っていた。
強がりの背中が、見えなくなるまで。
「帰ろう」
誰となく呟いて、雄輔は急ぎ足で歩き出した。
輝は、ちゃんと先を見据えていた。
勢いとか妥協とかじゃなくて、ちゃんと考えて自分の未来を選んでいた。
自分の未来を預けて良い相手か、相手の未来を引き受けても大丈夫なのか。
熱病のような愛情は無くても、長い時間を労り気遣える相手だと、そう判断したのだろう。
その相手が塩沢だというのが悔しいが、雄輔に口を挟む権利などなかった。
自分は、どれくらいの覚悟で直樹と共に生きる人生を選んだのだろう。
今、この瞬間に彼が笑顔でいてくれること、彼がさりげない日々に幸せを感じてくれること。
そのために一瞬一瞬を懸命に生きてきた自負だけはある。
だけど、気が遠くなる位の未来まで彼の隣に立つためには何が必要か、なんて考えは及んでなかった。
笑顔で、ただ笑顔でって、そんな単純なこと良かったのかな?
この行き当たりばったりな自分に、直樹は不安を覚えて震えていたのかな?
早く直樹に会いたかった。
会って、全ての想いを込めて彼を抱きしめたかった。
こんな考えなしでも、直樹以上に大切に思える人は居ないって、しっかりと伝えたかった。
なのに。
「やだよ、離して・・・!」
いつもなら雄輔の気が済むように抱きしめさせてくれる直樹が、まるで雄輔自身を拒絶するみたいに腕から逃れていった。
うつむき加減で唇を嚙締めている直樹。
そんな顔をさせたくて、一生懸命に帰ってきたわけじゃないのに。
どうして?
強い思いを込めて眺めていると、涙に詰まりそうな声で直樹が呟いた。
「雄ちゃん、女の人の匂いがする」
その言葉が言い終わらないうちに顔を背けられた。
首筋が痛々しいくらいくっきりと浮き出ている。
迂闊だった、まさか輝の残り香が身体に染みついていたとは・・・。
「違うんだ、さっき輝さんとちょっとあって、それで匂いが付いちまったんだ」
「匂いが移るほど身体を寄せ合って、輝さんと何してたの?」
「だって、輝さんだよ?輝さんとオレがなんかあるわけ・・・」
「絶対に何もないから、黙って信じてろって言うの?
ボクがそれでどんな辛い思いをしてても、雄ちゃんは構わないんだ?」
直樹の拳が、ドンと雄輔の胸を突く。
叩かれた痛みだけでない衝撃が、雄輔の胸の内にジン・・・と沁みてきた。
「怖いんだよ、本当は。雄ちゃんが、やっぱり女性の方が良いって思っているんじゃないかって。
そんなこと言われたら、もうボクは太刀打ちできないんだから」
「ノック・・・」
「少しは、ボクが感じてる引け目とか不安とか、そうゆうのも理解してよ・・・!」
信じろ、と言うのは簡単だ。
信じられるに値するだけの言動のみを行うことも。
だけど、それだけの根拠で誰かを信用し続けるということは、とても強い意志と覚悟が必要なわけで。
信じられることよりも、信じることのほうが何倍も大変なことなのだ。
「のく、ごめん。少し軽率だった」
「ボクだって、輝さんと雄ちゃんに何かある、なんて本気で考えないよ。
だけどやっぱり、もしも、っ思っちゃうと止められないから」
力なく落とした肩が頼りなく見えて、それ以上に彼をここまで悲しませてしまったことが申し訳なくて。
雄輔は着ていたTシャツを脱ぎ捨て、改めて直樹を抱きしめた。
「これなら輝さんの残り香はしないだろ?」
「うん、そうだね。でもなんか・・・」
ダイレクトに伝わる雄輔の鼓動に、何故だかとても照れてしまう。
焼けた剝き出しの肌が汗でしっとりしてて、自分と妙に密着してるような気がしてならない。
真面目な話をしてるのに、こうゆうのは正直困る。
「直樹」
その呼び声に反応して彼の顔を覗き込もうと少し位置をずらす。
ニヤッと歪んだ雄輔の目尻を見た瞬間、唇を奪われていた。
「ちょっっ!雄ちゃん!!」
「おまえ、いい加減学習しろよ。オレが『直樹』って呼ぶときはお前が欲しいときなんだぜ?」
反論、する間もなく、もう一度きつく唇を押さえつけられた。
ダメだって思うのに、身体に力が入らない。
こんなに熱く求められるのは、久しぶりかもしれない・・・。
「ば、かぁ・・・っ」
「知ってるよ、オレはすんげぇバカだって。
大事な人の気持ちも察してあげれないくらい、どうしようもないバカだ。そんで」
くらっと視界が回る。
目の前には雄輔の勝ち誇ったような顔。
捕えた獲物をいたぶる捕食者の顔のようにも見えた。
「好きな人に我慢なんて出来ない大バカ者だ」
覆い被さってくる雄輔の熱に包まれながら、直樹は壊れそうな思考の端で思った。
こんな手で彼に絆され許してしまう、ボクだって大馬鹿者だ、と。
続く