以下の文面はフィクションです。実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の産物です。
妄想と現実を混同しないように気をつけましょう。
ちなみに、今回は(やっぱり)基本がBLです。
苦手な人は避けてくださいm( _ _ ;)ドウモスミマセン
しょせん素人が書いてるモノなので、過剰の期待はしないで下さいね~~。
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絞り出すように痛く流れた涙が、少しずつその勢いを沈めてきた。
涙が落ち着いてくると、自然と考えも落ち着いてくる。
直樹は肺の限界まで空気を吸い込んで、それからゆっくりと吐き出した。
落ち着け、落ち着くんだ。まだ何も分かってない状態じゃないか。
勝手に想像だけで二人を疑ったら申し訳ないだろう。
衝動的な行動にでることが多い雄輔だ。
輝とちょっとしたことで話し合っているうちに、感情的になって抱き締めてしまったのかも知れない。
輝も大人だから、黙って雄輔のしたいようにさせてくれて、だからあんなふうに・・・。
『輝さん!』
耳にしっかりと刻まれた、あのときの雄輔の声。
でも、あんな風に、切なくて悲しくて仕方ないように輝を呼ぶ声なんて、聞いたことがなかった。
そして、こんなことを考えていると雄輔にいつも怒られてしまうのだが、自分なんかよりも輝のほうがずっと雄輔を幸せに出来るのではないか、と思えてくるのだ。
昔、まだ自分もあの店でバイトしていたころ。
剛士が冗談交じりに言っていたことがある。
雄輔に必要なのは、彼女じゃなくておかーさんだな、と。
その意見に当時の自分は深く頷いていた。
輝なら手のかかる雄輔をしっかりと面倒を見て指導して、適切に対応してくれるように思える。
母親のように姉のように恋人のように、雄輔を癒してくれるだろう。
そこまで考えて、重いため息が漏れた。
自分の思考の方向に嫌気がさしたからだ。
なんで、ボクと輝さんとドッチを取るの!?ってくらい言えないんだろう?
無意味な嫉妬だって、愛情を傾けているからこそ起こるものなのだ。
それすら感じないで雄輔を譲ろうとしてるなんて、本当にボクは彼を愛してるのだろうか。
自己嫌悪に陥り始めた直樹は、肝心なことに気が付いてなかった。
雄輔を本当に愛していたからこそ、何も分からずに涙が零れてしまったのだということを。
そのことがあまりに痛かったから、これ以上傷付きたくなかったから、自分を守るための回避策に思考が逃げ込んでしまっただけのことなのだ。
そうやって直樹はずっと逃げていた。
一番大切なものを手放す代わりに、痛みから逃れてきたのだ。
「ノック、どうしたの・・・?」
ハッと振り返った。
いつの間に帰って来ていたのか、雄輔が神妙な顔をしてそこに居た。
何から彼に問えば良いのか分からない、でも・・・。
「ゆうちゃん・・・」
「!、お前、また泣いてたのか?」
しまった、と思った。
泣き腫らしまま、顔も洗ってなかった。
こんな状態を見せたら、また雄輔を動顛させてしまう。
「ちが、あの、これは・・・」
うまい言い逃れが思いつかない。
どうして説明しようかと頭をフル回転させている間に、雄輔が硬直した直樹を抱きしめた。
抱き締めているはずの雄輔の腕が震えている。
彼の心の動揺を示すように、彼の腕が肩が震えていた。
熱い雄輔の体温。
でもその中に、ふわっと鼻先を擽る仄かなものを感じてしまった。
瞬時に、あの後ろ姿が思い浮かぶ。
輝を力いっぱい抱きしめていた、雄輔の姿が。
「やだよ、離して・・・!」
慰めるつもりで抱きしめた直樹が、腕を突っぱねるように雄輔の身体を拒否した。
雄輔には、その意味が思い当たらない。
当たり前だ、悪いことをしたなんて、欠片も思ってないのだから。
「雄ちゃん、女の人の匂いがする」
それが輝のものだと直樹も知っていた。
だけど、そんなものを、他の女性の残り香を当たり前にこの部屋に持ち込まれたことが、どうしても受け入れられなかった。
続く