以下の文面はフィクションです。実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の産物です。
妄想と現実を混同しないように気をつけましょう。
ちなみに、今回は(やっぱり)基本がBLです。
苦手な人は避けてくださいm( _ _ ;)ドウモスミマセン
しょせん素人が書いてるモノなので、過剰の期待はしないで下さいね~~。
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「あんたも良く知ってる人だよ、雄輔」
輝の声はやたら弾んでいるように明るかった。
いつもは凛と構えている彼女から、初めて茶目っけのような稚さが滲んでいたのだ。
「俺も知ってるって、ここの客かよ?」
「さあね、今日の仕事の出来次第で教えてあげるよ」
そして癖のある笑みを残して、輝はキッチンで仕込みをしてる剛士のところへ行ってしまった。
残された雄輔と崎本が顔を見合わせる。
なんだか浮かれてるようにも見える輝が、自分の知ってる彼女と別人のようにキラキラしてて、
悔しいような落ち着かないような、変な気持ちを持て余してしまっていたのだった。
「オレも知ってる奴って言ってもなぁ」
常連客もけっこう居るのだが、輝に色目を使っているような輩は気が付いたことがない。
彼女を気に入ってる客はもちろん大勢いるが、それはバーテンとしての彼女に惚れ込んでいる場合がほとんどで、女性としてどうこうというのとは別な話に見える。
どっちかっていうと、女性客に人気あんだよな・・・。
「でもそれ以外でオレの知ってる奴って言うと・・・」
頭の中に仕舞い込んでいる人物を思い起こす前に、やはり一人の男の顔が目に付いた。
若いし細っこいし女みたいなナヨっとした顔をしてるけど、こいつだって立派な男だ。
「やっぱりお前か?」
「だーかーらー、僕じゃありませんって!第一僕みたいに薄給の人間があんな高価な指輪とポンと買えるわけないでしょう?」
「・・・、たしかに」
「僕からしてみたら、あなたのほうが怪しいですよ?」
それは、ない。
心の中だけではっきりと断言した。
心の中だけで断言したので、崎本はまだ怪しげな目つきで雄輔を見上げている。
面白そうだから、黙っておこう。
雄輔は何か言いたそうな崎本に気が付かないふりで、掃除道具を下げに裏へ戻った。
その日、崎本が若干挙動不審であったことは、書くまでもないだろう。
さて、いろいろと憶測を飛ばして注意力散漫になってしまった崎本とは対照的に、
輝に謎の男の答えを教わるべく雄輔は仕事に勤しんだ一日となっていた。
帰れば直樹が笑顔で待っていてくれると思うと、ことさら仕事にも力が入る。
無事に就業を迎えた時には、ご褒美ちょーだい♪と満点の笑顔で待ち構えていたくらいだった。
「あんたが私にそんなに興味があるとは思わなかったよ」
お決まりのパイポを咥えた輝は呆れた顔で呟いた。
それから周囲を、最終チェックをしてる剛士やその脇に控えてる崎本、さらにはバイトの女の子たちを横目で確認した。
「ちょっと外で話すか。行くよ」
まだ店内でお喋りに興じてる子たちに、お疲れ、と声をかけて輝が退出する。
それに促されるように、雄輔も後に続いた。
深夜も回った時間で、外はひっそりと静まり返ってる。
輝は雄輔を伴って近くの公園に場所を落ちつけた。
夏の火照った空気が冴えた星に冷やされて、風が吹けば肌に気持ち良いくらいになっている。
輝の開襟シャツの合間から覗く、指輪を繋ぐプラチナ色のチェーンが街灯に眩しく照らされていた。
「ね、それ・・・」
唱えかけて、雄輔は最後まで言葉に出来ずに口を噤んだ。
輝がどこか、遠くを見たままでいたからだ。
答えを聞いてしまえば、今まで知らなかった輝の一面を知ることになる。
興味はある。知りたいとも思うし、それくらい教えてもらっても良い関係だって思ってる。
だけど、それは、どこかの男が輝を浚おうとしてる、ということなのだ。
「あたしも年貢の納め時、なのかもね」
首にぶら下げていたチェーンを外し、問題の指輪を薬指にはめた。
・・・、左手の。
「てるさ・・・」
「似合ってる?あんまこーゆーのはしないから、自分だと分かんないんだよ」
晒された彼女の手指から思わず目を逸らしてしまう。
もう彼女の中で答えは出ていた。
雄輔なんかに全くの相談も経緯の報告もなく、結果だけを落として行こうとしてる。
「難攻不落の輝さんを落とすなんて、どんな奴だよ」
悔し紛れの言葉に、輝はクスっと笑った。
「あんたもよく知ってる人間だって言ってるじゃない?」
「思い当たる人がいないから聞いてるの!」
輝の視線が、少しだけ和らいだ。
ふて腐れてそっぽを向いていた雄輔はその変化に気が付いてない。
寂しさと切なさと、愛おしさが交差してた輝の瞳を、雄輔は見損ねてしまっていた。
「塩沢だよ」
「・・・・え?」
その名前に、いろんなことがフラッシュバックする。
確かにその人物は雄輔も知っていた。だけど、そうなら有り得ない。
あの男が輝に、女性にプロポーズするなんて。
「どうゆうこと?!」
「さあね、どうゆう心境の変化だろうね。
月に1~2回、飲んだりしてたんだけど、そんな空気は全く出してなかったから、こっちも驚いた。
言い方は軽い感じだったけど、考えていることは本気みたいだったし、
私も贅沢言えるような立場じゃないから、乗っかるのも悪くないかなって」
輝のあまりに他人事な言い回しに、雄輔のほうがカチンときた。
「何言ってるの?向こうはオンナに興味なんてないんでしょ?
それなのに結婚するって意味が分かんない!!」
そうなんだけどね、と輝は苦笑した。
まるで雄輔をからかっているみたいな笑い方で、混乱よりも怒りが込み上げてくる。
いきなりそんな事を言い出した塩沢も、それを受け入れようとしてる輝にも。
「あのさ、私も若く見えるって言っても、平たく言ってアラフォーよ?
いつまでも夜の店で酒の相手してるわけにもいかないの。
突起した技術やセンスがあればいいけど、私が出来るのはレシピ通りに作ることだけ。
教え込めば崎本もすぐに私に追いつくわ。
塩沢もそろそろ所帯もって落ち着いたところを仕事の取引相手にも見せておきたいみたいだし?
ま、中途半端なもの同士のギブ&テイク、かな?」
「そんなの、おかしいじゃん!結婚だよ?一生の相手を決めるんでしょ?
なんでそんな打算とか計算とか、わけわかんねーし!!」
稼ぎが良く妻にうるさくない旦那と、旦那の趣味を黙認する妻。
ある意味、長続きするには完璧な夫婦かもしれないのだが。
「雄輔には分からないかも知れないなぁ」
伏し目がちの言葉が、雄輔の胸を抉った。
まるで切り札のように言い放たれた言葉。
雄輔には説明しても無駄だと言わんばかりに逃げる、そのさまが悔しかった。
「輝さんもノックもすぐにそう言うんだ、オレには分からないって。
でも輝さんも分からないって言われるオレの気持ちも分かんないだろ?
そうやって、諦めたように言われるオレの気持ちなんて!」
なんだよ、オレ『には』分からないって。
どうしてそうやって決めつけて、オレは違うって分けようとするんだ?
まるでオレだけが何も知らない能天気な奴みたいに・・・!
「そうか、そうだな。こんな言い方は雄輔に失礼だったね、悪かった。
でも、雄輔は分かってくれないだろ?私のみじめな気持ちなんて」
「だから、なんでそう決めつけて・・・!」
「分からないよ、愛されることが『普通』だったお前には。
どんなに誰かを愛しいと思ったって、この気持ちに気が付いてもくれない。
好きだ好きだ好きだと心の中でどれだけ叫んでも、同じような思いを返してもらえない。
お前は、お前が好きになる相手は、いつだってお前に笑顔を愛情を返してくれるだろう?
みんながそんなふうに恵まれているなんて思ったいたら大間違いだぞ?」
輝は、いつだって強い人だった。
必要以上なことは求めず、ただただ厳格に冷静に、全てを俯瞰で眺めているようだった。
でも本当は違ったのかもしれない。
本当はもっと弱くて寂しくて、強がってないと押し潰されそうになってしまう人だったのかもしれない。
「輝さん・・・!」
いつも隣に居たはずの輝が、とても遠くに感じる。
どこかそのまま、雄輔の手の届かないところへ逃げて行ってしまいそうだった。
「私だってね、誰かの特別になりたかった。
いつかきっと、私のことを必要としてくれる人に、私じゃなきゃダメだって言ってくれる人に出会えるって、そう思っていた。
待って励んで我慢して、どうかその人に見つけて貰えるようにって今まで頑張ってた。
でもさ、もう、どうやったら自分がそんな大層な人間になれるのか、分かんなくなっちゃったんだよ。
もう、疲れて・・・」
零れそうになった涙を指先に抑え込んだ。
その指に光る、見慣れない指輪。
ずっと一緒に居た輝を、自分の知らない輝に変えてしまった罪な指輪。
あんな小さな物が、自分の元から大切な人を奪おうとしてる。
耐えきれずに雄輔は腕を伸ばして輝を捕まえた。
あっと彼女が驚いている間に、ぎゅって胸の中に抱きしめた。
どこかに行かないでほしい、生き方に妥協なんてしないでほしい。
でもそれ以上に。
もう悲しんで泣いて欲しくなかった。
彼女の抱えてる寂しさを少しでも、この腕で取り払ってあげたかった。
「オレは、輝さんが好きだし必要だよ?
オレだけじゃない。あの店の連中はみんなそう思ってる。
だからもう、こんなことで泣かないで・・・」
こんなこと、じゃないのにね。
やっぱり雄輔には本当の意味で理解できないのだろうと、彼の腕の中で苦笑いを滲ませた。
そのことを責めるのは酷すぎる。
人は、どこで別れるのだろう。
愛される人間と、愛するだけの人間と。
何を間違えなければ、雄輔のような人間になれたのだろう。
何度も何度も考えて訂正しようとしたけど、結局はその分岐点を見つけられないままだった。
「ありがとう雄輔、でもあんたがくれる好きは私が求めてた好きじゃないから」
そしてその『好き』は、決して私には向けられることのない『好き』だったから。
まるで怖がっているみたいに、雄輔は我武者羅になって輝の身体を抱きしめた。
それは痛いくらいの束縛なのに、何故だか安堵できて肩の力が抜けていくようで。
ああ、あの子もこんなふうに抱き締められているのね。
私は今、あの子が独占してるものと同じものに包まれているんだ・・・。
「ゆうすけ」
「なに?」
「ごめん、もう少しだけ、こうしてて・・・」
返事を交わす代わりに、雄輔はもう一度しっかりと輝を抱き締め直した。
その逞しい胸の中に頬を押し付けながら、輝はゆっくりと瞼を閉じる。
彼の中に残る直樹の欠片を、密やかに探しながら。。。
続く