以下の文面はフィクションです。実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の産物です。
妄想と現実を混同しないように気をつけましょう。
ちなみに、今回は(やっぱり)基本がBLです。
苦手な人は避けてくださいm( _ _ ;)ドウモスミマセン
しょせん素人が書いてるモノなので、過剰の期待はしないで下さいね~~。
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白む世界の中に、彼の寝顔が霞んで見える。
顔色が悪く見えるのは、零れてくる朝日のせいだけではないだろう。
直樹は雄輔を起こさないように気を付けながら、これ以上瞼を刺激する光が漏れてこないようにカーテンを引っ張って隙間をふさいだ。
俺がいない間に、のっきーは恋人とかできなかったの?
昨晩の宴のさなか、向井の他愛のない言葉が胸に刺さった。
こっちに戻ってきたら、直樹から可愛らしい彼女を紹介されると期待していたらしい。
甘ったれた笑顔で『そんな暇ないよ~』と誤魔化したが、親友の向井にまで嘘をつき続けなくてはいけないことは辛かった。
「泣くほどのことでもなかったんだけどね」
小さく呟いて雄輔の隣にもう一度身体を横たえる。
寄り添うように体温を寄せながら、せめて今だけは現実の全てを忘れてしまおうと瞼を閉じた。
耳に微かに響く、雄輔の健やかな寝息。
こんなありふれたものに安堵するのだな、と、直樹はゆっくり意識を手放す中で思った。
「いってらっしゃい、剛にぃや輝さんたちによろしくね」
「うん!行ってきます!」
昼近くになってやっと二人はベッドから起き出して、久しぶりに向かい合ってご飯を食べた。
直樹が料理してくれてる間、雄輔は彼の背中にひっつくように近くをうろちょろしていた。
邪魔そうに苦笑する直樹も、そうやって雄輔が纏わりつくのが嬉しいみたいで、文句を言いながらも追い出すようなことはしないで傍に居させてくれた。
直樹が洗濯機を回してる間に、雄輔が食器を洗って片付けて。
お天気が良いからお布団を干して洗濯物も干して。
足りなくなった日用品を買いに、駅前まで自転車で出かけて、帰り道に買い食いして。
部屋でまったりしてたら、もう雄輔の出勤の時間。
今日は店に来る?と直樹に聞いたら、家のことをしたいから、と断られた。
それも悪くないかなって、今日は思える。
一生懸命仕事に打ち込んで、帰ってきたら直樹が迎えてくれる。
直樹は明日もお休みだから、少しくらいは夜更かしして待っててくれるはずだ。
そんな直樹の出迎えを楽しみにしながら働くのも悪くないはずだ。
いつにも増して、浮かれた足取りで店に向かう。
あんまり有頂天になっているとまた輝に叱られるので、着替えながら気合を入れなおした。
頬をパチーンと叩いてにやけた顔を引き締めて、もう人が動いているフロアへ顔を出す。
「おはよーございまーす!」
「おはようございます」
「おう、雄輔、おはようさん」
・・・・・、あれ?
いつもカウンターの中にいるはずの輝がいない。
代わりに笑顔が引きつった新人が、メモ帳を広げながらワタワタと準備をしている。
「輝さんは?」
思わず素直に疑問を問いかけると、剛士が思わせぶりな笑みを浮かべてこっちを向いた。
「ちょいとヤボ用で遅れるってさ。開店時間に間に合わせるから、崎本に準備させておいてくれって」
「え?お前、ダイジョウブなの??」
「は、はい。一応一通りのオープン作業は教わってるので。。。」
あ~あ、額に冷や汗かいてる。
ちらっと手元を覗き込んだら、教わったことを随分と細かくメモしているようだ。
その通りにすれば、オープン準備くらいはできるだろう。
「めっずらしーなー。いつも一番に店に来てるのに」
遅れるということもそうだが、ペーペーの新人にバーカウンターの中を任せるなんて驚きだった。
ここは彼女だけの城で、勝手に弄ろうものなら店長の剛士だって叱責されるってのに。
雄輔が触ろうもんなら、怒鳴られる前に冷たい視線に刺されて終わりだ。
鬼の書く欄(正しくは撹乱)ってのはこーゆーのを言うのだろうな、と雄輔はあれこれ考えながらフロアの掃除を進めた。
静かな店内、黙々と開店準備が進められていく。
そんな中、ふと顔を上げると、崎本がキョンとした瞳で雄輔のことを見つめていた。
無表情の下に沢山の感情を、疑問とか興味とか遠慮とかを隠しているのが透けて見える。
雄輔は吹き出しそうになるのを堪えて、どうした?と先輩らしく声をかけた。
緩く結んで突き出していた桜色の唇が、口籠りながらゆっくり動く。
「輝さんって、付き合っている人とかいるんですか?」
想定外の質問に、持っていたモップを取りこぼしそうになった。
知り合って随分になるが、彼女からその手の甘い話は聞いたことがない。
雄輔にしてみたら、輝と恋愛話というのは次元が違うくらい懸け離れた存在になっていたのだった。
呆気にとられて固まった雄輔の答えを、じっと待つ崎本。
その真摯な瞳に雄輔はハッとした。
「お前、もしかして輝さんのこと・・・・!」
「ちっ、違います、そんなんじゃありません!!
昨日、帰りに輝さんを迎えにきた男性の方がいたので、それでどうなんだろうって思ったんです」
崎本の説明に、雄輔はなおさら顔を捩らせる。
男に迎えに来させれるなんて、全く持って輝らしくない。
「迎えに来たって、どんな奴が?」
「それが・・・」
言いかけた崎本が、あっと目を見開いて口を噤んだ。
彼の視線を追いかけるように振り返ると、不敵な笑みを浮かべた輝が立ち構えているではないか。
「て、輝さん?いつの間に??」
「遅れて悪かったわね。大海ちゃん、中の準備はどう?」
「はっはい、一通りはできてますので、確認して頂けると助かります!」
崎本に言われるまでもなく、輝はカウンターの中に入って各所のチェックを始めた。
ステンタッパの蓋が小気味よいリズムで開閉されて音をたてる。
あちらこちらと注意を向ける眼差しが冷静で、涼しいくらいだった。
「さすがね、ちゃんと出来てる。営業が始まってもこの状況を保つように、
使った物、出した物は必ずすぐに同じ場所に戻すくせをつけてね。
衛生的な問題もあるけど、何より作業効率に差が出るから」
パタン、とカウンター下の冷蔵庫を閉じながら、輝がにっこりとほほ笑んだ。
「物の場所や手順は、頭じゃなくて身体で覚えるの。
そのためには常に同じ場所に同じ物を戻すこと、これは基本だから。
身体で覚えた動きは、お客様の目にも美しく映るからね、忘れないで」
言い聞かせるような言葉に、崎本はどもり気味に、それでも清々しい返事を返した。
そんな懸命な姿を輝も満足げに眺めていた、のだが・・・。
「輝さん、男が迎えに来たって、どうゆうこと?」
やっぱり自分の疑問に抑えが効かない雄輔が、素っ頓狂に近い声を上げる。
やれやれ、と軽くため息をついてから、輝はやっと雄輔と視線を合わせた。
「付き合っているかどうかって聞かれたら、ビミョーなんだけどね」
そして彼女は、襟元からあの指輪を取り出した。
「この指輪をくれた人。今までそんな素振りなんて見せたことがなかったのに。
これをくれて、右でも左でも好きな方に嵌めてくれってさ」
「左って・・・、それってプロポーズじゃん!!」
「そうとも言うわねーー♪」
余裕で笑う輝に、何故だが雄輔のほうが焦る。
いつでも輝には手玉に取られてた。
口でも行動でも勝てたためしなんて一度もなかった。
今も、大事なことをわざと遠回し後回しにされているような気分がして仕方ないのだ。
「そいつ、なにもの?」
やっと口から出た確信めいた質問に、輝は待ってましたと言わんばかりの笑みで、いやらしいほどの二枚目な笑い方で答えたのだ。
「あんたも良く知ってる人だよ、雄輔」
続く