本作はフィクションです。
実在する人物・団体・法人等とは一切関係ありません。
すべて妄想の産物と理解してお読みください。
・・・・、なにげにBLです。
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行為が終った後も、雄輔は直樹にひっついて離れようとしなかった。
まるで怖い夢を見た子供が母親に甘えているように、しっかりと直樹にしがみついて離れなかった。
人懐こいのはいつものコトだけど、少し度が過ぎている。
やはり何かが彼の身の上に起こったのだと、直樹は労わるように雄輔の髪を何度も梳いてあげた。
大丈夫だよって。
今は全部忘れて、全て投げ出していいんだよって、伝えてあげたかった。
「のくぅ」
甘ったれた声。
恋人と居るというより、まるで子供と居るみたいだった。
「どうしたの、雄ちゃん。今日は一段と甘えんぼさんだね」
抜け切らないけだるさに身を委ねながら、直樹は雄輔の熱っぽい身体に指先を滑らす。
少し伸びすぎた雄輔の前髪、人差し指で軽く跳ねると、キョンとした瞳が真っ直ぐに向かってくる。
この視線に何度射抜かれたことだろうか・・・・。
「オレは、何をあげたら良いの?
何をノクにしてあげたら、ノクは怖くなくなるの?
どうしたらオレを信じて、ずっと一緒に幸せに居れるんだって信じてくれるの?」
雄輔の言葉が唐突過ぎて、直樹は彼が何を言いたいのか理解できなかった。
なんとかく訴えたい事の方向は見えるのだけど、それが頭で明確に整理できない。
多分必要なはずのいろんな説明が飛んでしまっている。
「ちょっと待って、雄ちゃん。もっと分かりやすく話して」
「オレはノクが好き。今でも一番好き。ノクと居るときが一番幸せだよ。
ノクの悪いとこなんて分からない、見えない。見たくないんじゃない、見えないんだ。
それだけじゃ、好きって気持ちだけじゃダメなの?ノクを安心させてあげれないの?ねえ、どうして?」
さらに加えられた補助説明が、余計に直樹を混乱させる。
中身の全てがまっすぐな雄輔だが、一度迷走を始めると解きほぐしてあげるのは困難極めるのだ。
「え~とね、一個ずつ答えていくから、納得できなかったらまた聞いて?」
優しくそう伝えてると、雄輔は力一杯頷いて、それから縋るみたいに直樹を見詰めた。
早く答えを頂戴って、強請られてるみたいだった。
「あのね、ボクは雄ちゃんから充分すぎるほど沢山のものを貰っているよ。
これ以上もっと、なんて欲張りなことは言えない。
両手に持ちきれないくらいの沢山の大切な物を、もういっぱい貰っているから」
「でも・・・!」
「待って、最後まで聞いてて。大事なことを話すから。
雄ちゃんがボクを好きなのに負けないくらい、ボクだって雄ちゃんが好き。世界中で一番雄ちゃんが好き。
ボクが幸せに感じる些細なことは、ぜ~んぶ雄ちゃんがくれたもの。それくらい、雄ちゃんは特別なんだ」
もしかしたら狂っているのかも。
彼の存在が大きすぎて、他の事が目に入らなくなっている。
彼と彼に纏わる物に縋って依存して、それでようやく生きているなんて。
「雄ちゃんが居てすごく幸せ。だけど、雄ちゃんが居なくなってしまったらって考えるとすごく怖い。
雄ちゃんは、いつもボクの良いところばっかり見てくれたから、ボクの好ましくない部分を見られたらどう思うだろうって、そんなことを考えるとやっぱり怖い。
それだけじゃなくて、ボクよりももっと雄ちゃんが好きだって思うような人が現れるかもしれない。
可愛い女の子を連れてこられたら、ボクなんてもう勝ち目がないから・・・」
イヤイヤって、雄輔が小さな子供みたいに首を振った。
そんなことない、そんな悲しいことを考えないで。
まるで自分がフラれたみたいに、寂しそうに瞳を潤ませて見上げている。
「雄ちゃんが信じられない訳じゃない。でも、やっぱり怖いよ。
今が幸せすぎるから、見えない先が怖くて怖くて仕方ない。
いっそ、失くして心が壊れる前に、自分から離れようかって、そんなことも考えた」
「イヤッ!」
反射的に叫んだ雄輔に、直樹は変わらずに愛おしげな視線を注ぐ。
一瞬でも目が離せない、愛おしい人。
「だけどね、怖いって気持ちよりも、雄ちゃんが好きだって気持ちのほうが大きいから。
こんなに大好きな人と一緒に居れるんだもん。怖さにだって勝ってみせるよ」
まだ全部の不安が払拭できたわけじゃない。
どこまで行ったってこの不安は、彼を奪われないかと言う恐怖は付いて回る。
それでも。
「ノク、大好き!!」
無邪気に真っ正直に愛情をぶつけてくれるこの人の笑顔を守りたいから。
彼が信じて、と言ってくれるうちは、愚直に彼の言葉を信じてあげたいから。
この弱い心に巣食うものと戦いながら、君の笑顔の傍にいるよ。
「ごめんね、ボクが揺らいでたから、雄ちゃんも不安にさせてしまった」
「ううん、平気。ノクがオレをどんだけ好きでいてくれたか分かったから」
ごめんね、と満足げな笑みを浮かべる雄輔に、もう一度心の中で謝った。
ボクは自分が傷付くのが怖くて、先に逃げようとしてた。
嫌われて傷付くくらいなら、寂しくても一人に戻ろうなかって。
一人、はきっと気楽だ。
幸せな思い出に包まれて、穏やかに過ごしていればいいだけだから。
でも、それ以上に。
ボクはキミがくれる幸せの甘さを知ってしまった。
麻薬みたいにボクを虜にする甘さを、盲愛に陥る甘さをボクは知ってしまった。
もう、一人には戻れない。
この幸せを守るために、励む道しか残されてない。
キミとずっと一緒に居るために、ボクは出来ることすべてを全うするよ・・・。
「ねえ、ひとつだけ・・・」
「え?まだ何かあるの?」
にやっとかまぼこ型に緩んだ雄輔の眦が、ちょっと違った輝きを秘めているのが分かった。
今まで全面に出していた稚さとか殊勝さとか、そんなものが見事に消え去っていた。
なんだか、嫌な予感がする。
「も一回、しても良い?」
「・・・・・・・!」
ああ、ずるい、と直樹は心の中で絶叫した。
雄輔にこんなふうにおねだりされて、拒絶なんて出来るはずないじゃないか。
真っ赤になって俯く直樹の返事を待たずに、雄輔は大事な人をぎゅっと力強く抱き締めた。
『いただきます♪』と聞こえたのは、直樹の気のせいだったのだろうか・・・・。
続く
(今日はここまで。続きは明日☆)