本作はフィクションです。
実在する人物・団体・法人等とは一切関係ありません。
すべて妄想の産物と理解してお読みください。
・・・・、なにげにBLです。
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「オレはノックが好き。
世界中の誰よりも、ノックが一番好きで大事で愛しい人です」
優しく耳元に振ってきた言葉が、直樹の思想を停止させる。
なんの冗談だか分からなかった。
いや、冗談どころか意味が理解できなかった。
どう聞いたってこれは愛の告白だ。
だけど雄輔は普通に女性を恋愛対象としている人で、今までだってそんな素振りを見せた事がなかった。
そもそも、直樹は塩沢と付き合うと宣告したばかりだというのに・・・。
覚悟を決めた告白なのに、直樹は自分一人で考え込んで何も答えてくれない。
驚かせたのか、それとも拒絶されているのか、雄輔は不安な気持ちで問い直した。
「オレじゃダメ?もう間に合わないの?」
追い討ちをかけるみたいな雄輔の言葉に、直樹は息を呑んで俯いた。
やっぱり雄輔は、そうゆう意味で直樹に『好き』と伝えている。
自分にとってたった一人の相手になってくれと、直樹に望んでいるのだ。
でも、そんなこと・・・。
「だめ、だよ。
ボクなんかじゃ雄ちゃんを幸せにしてあげられない。
雄ちゃんはもっとちゃんとした人と・・・」
「違うでしょ?!ノクがオレで良いのか聞いてるのっ。
オレはノクと居るだけで幸せになれるよ。普通に居る事がすっごく楽しいって感じられるよ。
ノクはオレと居ても楽しくない?あいつのほうが良い?」
そんなはずない。
雄輔よりも一緒に居たいと願う人なんて、この世界のどこを探したって見付かるはずはない。
こうして近くにいるだけで、この想いは加速して大きく膨れ上がってしまうというのに。
「苦しい」
微かな呟きが聞こえにくくて、雄輔は顔を顰めながら彼の言葉を待った。
「苦しい、雄ちゃんといるとすごく苦しい。
切なくて、恋しくて、胸が潰れそうだよっ」
言い切ってしがみ付く直樹の鼻先に、雄輔はそっとキスをした。
「好き、だよ・・・?」
滅多に聞けない低い声での囁きに、直樹は彼の胸の中で何度も頷いた。
頷くたびに涙が零れて、その涙を雄輔の唇が拭ってくれて、全部が夢みたいで怖かった。
「・・・いで」
「え?」
「離さないで、お願いだからっ。
ボクがどこかに迷わないように、しっかりと捕まえていて!」
雄輔の頬が緩んだ。
離さないでって、当たり前じゃん、そんなこと。
頼まれたって離したりしないから。ずっとずっと捕まえておくから。
「あ、やっべー」
クスクスを堪えきれない笑いを挟みながら、明るい声で続けた。
「ごめん、オレ、やっぱノックが抱えてた痛みとか傷とか、分かり合えないや。
ノクはさ、自分の恋人が男だって事を必死で隠してたでしょ?でもオレは、
『こいつがオレの恋人です!』て周りに宣伝して歩きたいくらい幸せだモン」
はぁ?っと呆れた感嘆詞と共に雄輔の浮かれた顔を見上げた。
冗談じゃない、いや、本気でそのくらいしそうな勢いだ。
「や、やめてよ雄ちゃん!普通に恥ずかしいから!!」
「だって~、オレ、めっちゃ幸せなんだよ?叫びたくもなるって」
叫ぶつもりなのー?!
直樹の驚嘆の表情さえも、愛しそうに見詰めてる。
さっきまでただの友達だったくせに、この変わりようは何なのだろう?
「もう・・・。知らない」
恥ずかしくて照れ臭くて、直樹は雄輔の胸に顔を沈めた。
トクトクトクと雄輔の心臓の音が聞こえる。
自分と同じくらい、早く元気に打つ鼓動が。
あ、一緒だ・・・。
そんなことに幸せを感じられた、始まりの夜だった。
続く