以下の文面はフィクションです。実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の産物です。
妄想と現実を混同しないように気をつけましょう。
ちなみに、今回は(やっぱり)基本がBLです。
苦手な人は避けてくださいm( _ _ ;)ドウモスミマセン
しょせん素人が書いてるモノなので、過剰の期待はしないで下さいね~~。
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制服のボタンを外すのもまどろっこしく、慌てるほどにうまく動いてくれない指先にイライラしながら何とか着替えをすませた。
さすが金曜日、閉店作業にいつもより時間と手間がかかる。
今更慌ててもそんなに変わりはしないが、それでも一刻でも早く帰路に着きたかった。
「お先に失礼します!」
まだ店内でまったりとしている他の従業員たちに一声投げかけて、雄輔は通勤用の自転車に飛び乗った。
向井と直樹が店を出たのは、もう何時間も前だ。
普通に考えたら、直樹もとっくに家について布団の中だろう。
でも。
早く帰りたい。
直樹がそこに居ることを確かめたい。
胸の中に湧き上がる嫌な感覚に急かされて、雄輔はペダルを必死に漕いでいた。
頬を切る風が、街の景色をどんどんと後ろに流していく。
その流線型の視界の端に、何か気になるものがひっかかった。
あれは、あの車は何処かで・・・。
そう考えたのは条件反射のような意識の表層だけだ。
次の景色が流れ込んできたときには、すでに頭のどこかに飛び去っていた。
早く早くと誰かが急かす。
どうかどうかと、無意識に願いを呟いていることも気が付かずに。
二人の住む部屋の電気は、もうまるっきり消えていた。
当たり前だ。直樹は昨晩もまともに寝れてない様子だった。
こんな時間まで起きているはずもない。
近所迷惑を思い出し、音を立てないように注意しながら階段を駆け上る。
こんなに急いで帰ってきたのたのに、鍵を開ける瞬間になぜか躊躇した。
もしも、まだ直樹が帰って来てなかったら?
あのまま向井とどこか知らないところへ行ってしまってたら?
それよりも、この部屋の中で直樹が・・・。
ブンブンと頭を振って、玄関を開けた。
暗い部屋に街灯の明かりがさっと流れ込む。
小さな玄関には、直樹の靴が揃えて脱ぎ捨てられていた。
当たり前のことにホッと一息ついて、雄輔は電気も点けずに寝室へ向かった。
そうっとそうっとドアを開ける。直樹が自分のベッドに横たわってる。
見慣れた彼の背中のカーブ、それを見つけただけで浮かれたような幸せが溢れてきて、雄輔は目尻と頬に笑い皺を刻みながら大好きな背中に近寄った。
彼の温もりを知りたくて手を伸ばしたのに、彼に触れることができなかった。
直樹の肩が背が、小さく震えている。
「ノック、どうしたの?何があったの?」
何も考えられないままに、ある意味無神経に問いかけた。
覗き込もうとして少し逃げられたけど、やっぱり彼の頬には涙が零れてる。
店を出たときの浮かれた笑顔を思い出すと、どうしても納得できない涙だった。
「気にしないで、たいしたことじゃないから・・・」
「そんなわけ、ないだろう?」
布団をかぶって逃げようとする直樹を捕まえて、無理に胸の中に抱きしめた。
ああ、と小さく直樹がため息をついてる。
まるで何かを諦めたときみたいで、雄輔は彼の背に回す腕に力を込めて閉じ込めた。
「どうした?何か嫌なことでもあった?それとも、やっぱりオレのせいなの?」
「・・・雄ちゃんは悪くないし、何も無いんだよ。ただちょっと、ボクが悲しくなってしまっただけ」
こんなにしっかりと直樹を抱きしめたのは久しぶりかもしれない。
それくらいの力を込めて、雄輔は直樹の身体を抱きしめた。
「悲しいの?オレがどっか行っちゃったらから?」
「違う!それは本当に関係ないの。
ちょっとくらい連絡無くても、雄ちゃんがココに帰って来てくれるって分かっていたから、心配はしたけど悲しくはなかった。
昨日はタイミングが悪かっただけ、それだけだけのことだもん」
「じゃ、なんで?」
いろいろな憶測が雄輔の頭を過る。
だけど雄輔の思いつく程度のことで、直樹がこんなふうに泣いてしまうなんて思えなかった。
いったい何が直樹をこんなに震わせているのだろう・・・。
「あのね、ずっとこのままなのかなって。そう考えたら悲しくなっちゃったんだ」
直樹が何を言いたいのか、雄輔にはこれだけでは理解できなかった。
このまま、ではいけないのだろうか?
それとも擦れ違いの毎日に、直樹も疲れてしまっていたのだろうか?
「なにが、ノックをそんなに悲しませてるの?オレは、どうしたら良い?」
どうやって説明すればいいのか、直樹は少しばかり雄輔の腕の中で悩んでいた。
雄輔はとてもまっすぐで素直で我慢できない人で、自分のわからないことはすぐに答えを欲しがる。
でも今回の場合は、そこに直樹が抱えているものを軽減させてあげたい、という思いも籠っていることを直樹も察していた。
直樹自身が抱えていることを全て雄輔が理解してくれるとは思えないが、それでも言葉にして雄輔に伝えなくては彼を不安にさせるだけだから。
直樹は迷いながら、自分の気持ちを伝える言葉を探して紡いだ。
「ずっとね、誰にもこの指輪の意味を説明できないままなのかなって。
そう思ったら悲しくなっちゃったんだ」
雄輔が贈った指輪を取り出して、直樹が小さく呟いた。
ツキン・・・、と雄輔の胸も痛む。
本当は今でも、雄輔は直樹に、二人の関係について胸を張っていて欲しいと願ってる。
お互いを大切に思っているなら、何も隠す必要なんてないはずだ、と。
「ボクは、ちゃんと雄ちゃんを幸せにしてあげられているのかな?」
「バカっ」
「どうせおバカだもん」
気が強いようで弱い直樹に、これ以上何を強要させることができるだろう。
直樹がどれだけ息苦しい思いをして生きてきたか、雄輔が知っているのはほんの一部分だけだ。
少しでもその苦しさを請け負ってあげたかったのに、自分の存在がさらに彼を悩ませている。
周りがどう言おうとどんな眼で見ようと、二人が互いを望み幸せであるならそれだけで十分だと思っていた。
だけど人間は結局人の中でした生きられなくて、社会ってのは誰かがいつの間にか作り上げた常識っていう名の偏見に縛られていて。
思い遣りとか優しさとか労りとか、それだけを持っていたらOKってわけにはいかなくなっていた。
「大丈夫だよ、オレはノックが居るだけで幸せなんだから。ダイジョウブ」
抱きしめた直樹の肩にあやすように手を添えると、直樹は小さく頷いて雄輔の胸に頬を押し付け甘えてきた。
「雄ちゃんは、あったかいね」
心がギュッと握りしめられるような囁きだった。
どこに問いかけても解決法なんて誰も示してくれない。
だからこそ、この手が捕まえているものを離してはいけないのだと、心を手繰り寄せるような思いで瞼を閉じた。
いま、感じられるものが全て。
いま与えられてるものだけを見て欲しい。
どうか、遠い未来を知ろうとして悲しくならないで。
ボクは、ずっと、君の隣にいるよ・・・?
続く