【再】『ライオン』⑭ | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

逢海司の「明日に向かって撃て!」

ご注意下さい!!私のブログは『愛』と『毒舌』と『突っ込み』と『妄想』で出来上がってます!!記事を読む前に覚悟を決めてくださいね(^^;。よろしくお願いします☆

本作はフィクションです。

実在する人物・団体・法人等とは一切関係ありません。

すべて妄想の産物と理解してお読みください。


・・・・、なにげにBLです。



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時間が少し早かったので、雄輔の知り合いの店まで遠出することにした。

日本で1、2を争う繁華街は人の多さに辟易したが、中心地から離れたその店の中は落ち着いていて、ゆったりと寛げる空間が広がっている。


ここね、おそばが美味しいの。日本酒が合うんだよ。


そんなこと説明をしてくれたくせに、注文するときは笑顔でお任せで~と頼んでいた。

雄輔の知り合いという店長らしき人は、全て心得ていると言わんばかりの笑顔で、だけど余計な解釈を一つも挟まずにお勧めのお酒とお通しと、箸休めみたいなおつまみを持ってきてくれた。

雄輔よりも少し年上で、多少のコトで動じない風格のある人だった。


「まずったかなぁ」


その人が席から離れると、雄輔はちょっと困ったように呟いた。


「なに?何かあった?」

「ん~~?だってさ、賢さんってノクの好みに当てはまりそうなんだもん。

久し振りにノクと二人きりなのに、他の人に気を取られてたらヤだな~って思ったの」


イタズラっぽく笑う彼が、どこまで本気でそんな心配をしているのか判断できなかった。

確かに年上で落ち着いた物腰の人に弱かったかもしれない。

黙って付いて来い、みたいなタイプに惹かれることもよくある、だけど。


「雄ちゃんが隣に居るのに、他の人に目移りするはずないじゃん」


冗談ぽくそう切り返すと、雄輔の顔がぱあって明るくなった。

やっぱり雄輔は、こうやってあどけなく笑っているのが一番似合っている。

悲しませたり怒らせたりなんてしたくない。



「お酒、今日で最後にする。

酔うと判断力が落ちるし、それに、お酒飲んでるときは楽しいんだけど、後で誰かにすごく甘えたくなるんだよね。寂しくなっちゃうっていうか、一人に戻りたくなくなるっていうか・・・。

また誰かに迷惑とか心配かけたりするといけないから、最後に雄ちゃんと楽しく美味しく飲んで、お酒は止めることにするね」


それで今回の失態が取り消せるわけじゃないけれど。

ううん、まだ何も解決してないし、この後どうするかなんて何も決めてないのだけれど。

出来るだけ雄輔を煩わせる事態が起こるのを、回避しておきたかった・・・。


「だったらさ、飲みたくなったらオレを呼べよ。

寂しくなってもオレに甘えりゃいいじゃん。オレなら悪さしねーし、安全だろ?」

「そう言ってくれるのは有難いけど・・・」

「けど、ってなによ?」


困った人だなぁ。

真っ直ぐすぎて、正統な提案過ぎて、問題点がどこにあるか分かってない。

心とは裏腹にクスクスと笑いながら、直樹は小さく首を傾げながら答えた。


「ボクが飲むような時間は、たいてい雄ちゃんはまだ働いてるでしょ?

雄ちゃんの仕事終るのを待っていたら真夜中になっちゃうし。

今日だってさ、こんな時間に二人で居るのもすっごい久し振りなんだもん」


それだって親太郎に代わってもらったから可能になったコトだ。

顔だけは頻繁に合わせていたから気が付いてなかったのだけれど、何時の間にか沢山の擦れ違いを繰り返してしまっていたのかも知れない。

繋がっているつもりで安心して、距離が生まれたことを見過ごしていた。

笑顔を交わしているだけで、全て分かり合えていると思い違いをしていた。


『悪さしねーし』、か・・・。


その言葉が胸に刺さった。

雄輔はノーマルなので何もされなくて当たり前なのだが、改めて趣向が違うと強調されると心が痛む。

そうゆう目で見れないと遠回りに否定をされているようで、誰も悪くないのに傷付いてしまった。

もちろん、直樹だって今までそんなふうに雄輔を見た事がない。

とても親しく大切に思っていたけれど、恋人とかそんなふうには・・・。




『この子、失恋して自暴自棄になっているんだ』




突然、輝の言葉が頭に蘇る。

あのときは塩沢を敬遠するための咄嗟の言い訳だと思って深く考えていなかった。

でも、そもそもあんなに泣いたのは、取り乱してしまったのは、雄輔との一件があったからだ。

雄輔に理解してもらえないのが辛くて、苦しくて、それで・・・。


「ノク、どーしたの?顔が固まってるよ?」


はっと我に返る。

心配そうに覗き込んでくる雄輔の、小動物みたいな瞳が目の前にあった。


「ごめん、なんでもない。ちょっと仕事のコト考えてた」

「ん、もう!真面目なんだからっ」

「ごめんごめん。今日は雄ちゃんの貸切だもんね。余計なことは忘れるよ」

「そーだよぉ、たまにはオレのこと、ちゃんと構ってよぉ」


にっこりと満面の笑みで、当たり前みたいにすり寄って甘えてくる。

なんでもない振りで受け止めながら、心の中では生まれてくる動揺が止められない。


ウソだ、そんなのウソだ。

だって今まで友達で、兄弟みたいに仲良くやってきたじゃないか。

それが今更、なんでこんなコトに・・・。


悟られないように時計に目を落とす。

時間はまだ浅い。

長い長い夜は、始まったばかりだった。







続く

(今夜はここまで。続きは明日☆)