この物語はフィクションです。
実在する人物・団体・会社法人等とは一切関係ありません。
脳内の妄想産物と重々ご理解の上、お読み進め下さいませ。
いくら似てても気の迷いです!
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生放送前の打ち合わせのときから、微かに鼻をくすぐる香りを感じていた。
共演者の女性が何かつけているのだろうかと思ったのだが、だとしたらこの香りは密か過ぎる。
とても自然で、気をつけてないと見失ってしまいそうな仄かな香り。
そういえば、別の誰かもこんな香りを纏っていたが、あれは・・・。
くん、と鼻をひくつかせて、その元になる人を探ってみる。
ふわふわと漂う香りは場所を移しても逃げずに付いてくるから、このメンバーの誰かの物だろう。
咲き始めた春の外気が紛れて来るわけでも無さそうだった。
そして、剛士はやっとその人物を特定した。
ちょっと意外、いや、自分が良く知らないだけでそういう趣向のある人なのかもしれない。
いまだ会話のテンポが噛み合わないメインMCにつっと近寄ってみる。
あの香りがいっそう強くなって、やっぱり、と驚きと一緒に確信した。
「南原さん、桜の匂いがしますね?昨日お花見でもしたんですか?」
急にそんなことを話しかけられた男は、心底驚いたようにあのギョロ目を更に見開いて驚いてみせた。
「え?そんなに匂うの?つるのくん、鼻が利くね~~」
独特な、少し高すぎる声を晒しながら、彼はくんくんと自分の腕や肩の匂いを嗅いでいる。
そのベタな動きが、剛士には馴染んで見えたのは、彼をいつもテレビの向こうで見ていたからだ。
「いや、なんとなく感じただけなんですけど、やっぱりお花見ですか?」
「そんないいもんじゃないけど、桜相手に狂言の稽古をしてたからかな」
狂言?と今度は剛士がベタなほどの驚いた顔を見せた。
その分かり易い反応に、南原は少しだけ満足そうにほくそ笑む。
「ボクのイメージだと、南原さんってブラビか社交ダンスなんですけど・・・」
「確かにそれもやってたけどね、狂言も番組で少しやってたんだよ。
今じゃ年に一度は現代狂言ってので公演もしてる。一度見に来てよ」
それでも剛士がまだ納得できないような顔で固まっていたので、彼は困ったふうな笑いを浮かべた。
「つるのくんて歌もやってるんでしょ?機会があったら桜に向かってうたってごらんよ。
『桜』って観客の前だと、より自然に余計なことに惑わかされずに出来るから」
ま、ロマンチストなオレの持論だけどね。
そう言いながら、突っ込みくらいの強さで肩を叩いてくる彼からは、またも桜の香りを感じられた。
なんとなく、幻のような思い出せないくらい懐かしいような不思議な香り。
確かに誰かも、こんな香りをさせていたのだけど・・・。
生番組に向けてカウントダウンが始まったので、剛士はそれ以上そのことに捕らわれるのを止めた。
一発勝負のこの番組で、他のコトに気を取られている余裕は無い。
だけど、隣に立つMCからは、テレビには乗らない香りが自分の元にはしっかり届いてきて。
春なだけに浮き立つ心が押さえられそうに無い剛士だった。
節電のよびかけ効果なのだろうか。
計画停電がひと段落ついた今夜も、前より星の数が多く確認できる。
それだって故郷の空に比べたら物足りないだけなんだけど、肉眼で追いかけられるくらいには見える。
夜の空は決して闇じゃない。
真っ黒だけど黒だけで塗りつぶされてるわけじゃない。
藍とか紺とか、そういった色が深く深く積み重なって、濃く深くなっているだけだ。
その証拠に、数えた星のその向こうまで、ずっと突き抜けて空が続いているのが感じられる。
どこまでもどこまでも、底に辿り着かずに果てしなく広がっているのが分かる。
ふいに未来を見ているのに似てると思った。
真っ暗で先行き見えなくて、でもどこまでも広がっていることは知っていて。
夜空はそうやって、未来を温めているのだ。
そうやって飽きずにぼーと空を眺めている親太郎を、大海はゆったりとした眼差しで眺めていた。
果てしない夜空と、夜空に感銘を覚える親太郎の間には、覆いかぶさるような桜がひしめいている。
淡い紅を微かに輪郭に残し、月明かりに映えて輝く桜の花たち。
その一片一輪までが、はっきりと目に焼きつくように凛々しかった。
「しんちゃん、そこいらに見惚れるのは構わないけど、お酒の瓶は落とさないでね」
冷やかしのようで愛着の溢れる彼の言葉に、親太郎は手に抱えていた瓶をしっかりと抱えなおした。
大海から預かった一升瓶が、チャプンとかわいらしい音を立てる。
そんな様子を見ながら、ふふふ、と大海が穏やかに笑った。
黒すぎる夜空と、白すぎる桜と、その中に佇む大海はいっそ神秘的だった。
身体の線も細く、顔立ちも整っているのだからなおのことなのだが、今日は彼の容姿に加えて身に纏っている装束が、彼の非日常感を際ださせていた。
真っ白な白張と呼ばれる上着に足首で閉まっている白袴、内衣の茜がやたら映えて目に映る。
まるで平安時代の何某かと思うような井出達で、手には複数連なった鈴を携えていた。
きょん、と大きな目をさらに大きくさせている親太郎に優しく微笑むと、
「それじゃ始めるから」
と大海は桜の樹のほうへ向き直った。
柔らかくだけど澄んだ鈴の音が、シャランと棚引くのに合わせて大海がゆっくりと舞を演じる。
踊りというよりは、作法に乗っ取った優雅な動きの組み合わせ。
ときおり響く鈴の音に、桜も共鳴するように震えていた。
『本来はね、お花見やお月見の宴会とか、季節ごとのお祭りとか、そういうのは人間が楽しむんじゃなくて、自然の恵みと見守ってくれてる数多の神々に感謝する行事なんだよ。
その意味合いが今じゃ薄れてきてるけど、騒ぐ人間と一緒に古来から日本に『在るもの』たちは一緒に楽しんでいたんだ。
だけど今回の震災で、人間もそれどころじゃない、っていうか、とにかく自粛傾向に走っちゃってるだろ?
気持ちは分かるし、そういう気配りや配慮が出来るのも確かに素晴らしいことなんだけど、今回のコトで人々は自然に対して『畏怖』の気持ちは思い出したけど、『感謝』の気持ちを表すことを忘れかけてしまってるような気がするんだよね。
せっかく年に一度、こんなにキレイに咲いてくれる桜に、何の恩返しもしないのは失礼かなって。
ボクの舞いごときで、どれくらい桜が満足してくれるか分からないけど、やらないよりは良いでしょ?』
そう言って大海は、夜桜宴会が自粛された場所をこっそり回って舞を奉納している。
彼がいつどこでこんな舞を覚えたのか、そして何で彼がこんなことをしているのかは全く見当がつかない。
ただでも、凛と気鋭の漲った顔で舞を躍る、ひどく浮世離れした彼を見守る役目は悪くなかった。
日常の煩わしいことも、考えなくてはいけないことも、すべてこの時間だけは忘れられたから。
シャン・・・、と最後に一際大きく鈴が鳴って、大海が深く一礼した。
舞いの儀式(というほど格式ばったものではないが)が終わったのだ。
桜に舞を捧げたばかりの、どこか神々しさを残したままの大海が振り返る。
いつも一瞬見惚れてしまう。
そこに居るようで、実在しない人のように感じられるから。
親太郎は手に持っていた酒瓶をあけて、桜の根元に注いで回った。
例年の宴会で貰うおすそ分けには足りないだろうが、お神酒代わりに少しでも潤ってもらおうというのだ。
お神酒を配った桜から、花びらの色が少し濃くなっていくような気がするのは、自意識過剰なだけだろうな。
「ボクも少しお相伴に預かろうかな♪」
何処から出したのか、大海が小さな杯を差し出した。
そこに零れないように慎重に注いで上げると、彼は目を輝かせて一気に口元に流し込んだ。
「・・っまい!やっぱり浦霞は東北の銘酒だ!上品な旨みと芳醇な香りが堪らないよぉ」
あ、もういつものヒロミだ・・・(-。-;)
ニコニコと頬を綻ばせながら、酒の味を楽しんでいるのは良く知っている彼だ。
だけど、本当は大海のことなんて、この1~2年の短い間に見知ったことしか分かって無いのだ。
「大海・・・」
「ん~?しんちゃんはお酒駄目だよ?この後も運転してもらうんだから( ´艸`)ムププ 」
「そうじゃなくて、いや、オレも本当は飲みたいけど、今はそっちじゃなくて」
「なーに、しんちゃん。何が言いたいの?」
もたもたと話す親太郎には慣れている。
大海は含みをたっぷり持った笑顔で彼の次の言葉を待った。
片意地張ってしまう自分を、いつも知らずにガス抜きしてくれていた彼の言葉を。
「なあ、お前、何者なんだ?」
珍しく神妙な顔つきで、真面目になると恐いくらいのイケメンぶりで彼はそう問うてきた。
大海が動揺を見せたのは、米神に一瞬だけで、軽やかに笑顔で返す。
「そうゆう親太郎こそ何者なの?月明かりで出来る影がたまに人間の形をしてないよ?」
げっ!と慌てて振り返って自分の影を確かめる。
そこでは心許ない月明かりで出来たおぼろげな影が、自分の姿と同じように慌てふためいていた。
「冗談だよ、そんなに慌てないでよぉ」
「ひろみ、お前っ・・・!」
伸ばした親太郎の手を逃れる大海から、あの軽やかな鈴の音が聞こえる。
この現実離れした音がいけないのかもしれない。
彼を人と違う者の様に、妖艶に彩らせて見せるのかもしれない。
「ボクはみんなと同じだよ。
自然の恵みに感謝し、四季の移ろいに目を奪われて、ときにその恐ろしさを思い知らされて恐怖する。
当たり前の不都合を人智の力で捻じ伏せて、そのしっぺ返しに脅えてる。
ねえ、しんちゃん。人は桜に似てないかな?
一片一片はこんなに儚くて小さくて弱弱しいのに、数に頼んで集まればこんなにも華やかで迫力ある風景に変わる。
一時の盛りに酔いしれるように咲き誇り、あとは散らして落ちていく。そして次の春を待つんだ。
一人きりじゃ何も出来ない、ぼくらにとても似てると思わない?」
彼は晴れやかに笑っていた。
潔いほど美しく笑っていた。
確かに彼を見ていれば、桜と人が似ているというのも頷ける。
散り行く運命を知りながら、それでも懸命に咲いて春を知らせる桜たちに・・・。
もう老木と呼ばれても良いくらいの樹だろうか。
黒々とした枝を空に果てに伸ばす桜の大樹を、目を細めるように剛士は眺めていた。
節ごとに固まって咲く花たちは、まるで光を発しているように気高く美しかった。
日本人のDNAに組み込まれているのかと思うくらいの懐かしさが溢れて止まらない。
切なくて愛おしくて、全て残らず目に焼き付けておきたいほどに心を奪われる。
適わないと思うと同時に、どうしようもない感情が沸き立ってくる。
形にならないもどかしさに捕らわれたまま、いつしか剛士の声が歌になって響いていた。
何故その歌を選んだのか、自分でも分からない。
ただ自然と口から零れたのが、その歌だった。
さわ・・・と剛士の歌声に反応するように桜が枝をゆらす。
緩やかに一片一片舞う花びらが、彼の歌を讃えているように周囲を掠めていく。
桜の翁に受け入れられたような、そんな感覚に包まれながら剛士は静かにその歌を歌いきった。
朦朧としそうな意識を立て直そうと、一息大きく吐き出す。
歌に集中しすぎて、現実とは違う場所で歌っていた気分だ。
音もなく揺れ動く桜がそんな陽現実感を醸し出しているのだろうか?
「つるの、さん・・・?」
はっとして振り返ると、そこには奇怪な格好をした大海と、いかにも付き添いな親太郎がいた。
突然現れた大海の井出達があまりにもあまりだったので、本当に桜に幻でも見せられてるのかと己の正気を疑いそうになった。
ちょいと前に流行った『陰陽師』とかが着ていそうな古風ゆかしき風体と、暗闇に舞い散る桜の幻想的な風景が妙にマッチしていて、彼がこの世のものではないように思えたのだ。
「・・・なんちゅーカッコウしてるの??」
「あ、ボクのことは気にしないで下さい ゝ(´▽`*)ハハハッ
ここらへんの桜は機嫌が良さそうだな~と思ったら、つるのさんが唄を聞かせてあげてたんですね。
他にも浮かれた桜たちがあちこちで居たから、こっそりとした宴会や良いものを見れたんでしょう。
ボクがわざわざ出しゃばることもなかったかな?」
満足そうに語る大海だったが、尚更お前さんが理解できん、と剛士は混乱するばかりだった。
助けになるかどうか分からないが、隣で立ち尽くしてる親太郎に目線だけで説明を促す。
果たして、彼の言語を通訳なしで理解できるだろうか?
「あのね、大海は綺麗に咲いてくれた桜にお礼してるの。
舞いを躍ってお酒振舞って、一年間お疲れ様でしたって。すごいんだよ?」
ありがたいことに言ってる意味は分かった。
大海が『何故』そんなことをしているかの理由までは分からなかったが。
「でもボクもつーさんの唄を聞きたかったなぁ。
武道館は舞台の追加公演があって行けなかったし、福岡はボクがダウンしてたしぃ。
次のとこでは一緒に歌いましょうよ~~」
やたら猫目になった大海が甘ったるい声を出す。
暗くてすぐには分からなかったが、頬がほんのりと色付いているのに気が付いた。
自然と浮かんでくる笑いが止められない口元、これはもしかして・・・。
「お前、酔っ払ってるのか!??」
「うそん、酔ってないれふよぉぉ?」
「・・・、こいつ、お神酒撒くたんびに御裾分けとか言って日本酒飲んでたから・・・」
見てくれに騙されたーーー!!と剛士が思ったかどうかは別問題として。
何を意図してこんな格好でフラフラしているのか知らないが、このご時勢、芸能人がコスプレして桜見ながら酔っ払ってるのはヒジョーにまずい。
「親太郎、お前、車か?」
「オレ、運転手だから飲ませてくんねーんだ」
「分かった、今度代わりに俺が奢ってやるから、今日はこの酔っ払いを連れてもう帰れ」
「いやん、まだかえりましぇん☆ヽ(*´▽`)ノ」
「いいから!親太郎、車はどっちだ」
おずおずとしたままだったが、親太郎は誘導するように先になって歩き出した。
その後を、何やらテンションの上がってしまった大海を抱えるようにして付いて行く。
未練たらしく桜の樹に手を振っているようだったが、そんなのもう無視だ。
「ちゅるのさん、ランボー」
「うるせ、酔っ払い。まったく真面目なんだか気紛れなんだか・・・」
ようやっと辿り着いた車の後部座席に大海を無理矢理押し込んだ。
そのときに、ふいに鼻先を柔らかな空気が掠める。
この香り・・・、もしかして。
「つるのさん?」
「はい、今日はこれでバイバイね。お前も舞台近いんだから無理はすんなよ」
扉を閉めて、親太郎に車を出すように無言で指示した。
運転手役の彼は、一応剛士に一礼してから車を動かした。
気分良さそうに笑っている大海が子供みたいに手を振ってきたので、愛想笑いで手を振り返す。
次に正気で会ったときに、色々聞いてやらにゃならんと思いながら。
彼の身体からも、あの桜の香りがした。
いつか嗅いだ匂いだと思ったのは、彼が纏っていた香りだったのだ。
「それにしても、掴みどころがねーなー」
苦笑する剛士の周りを、一筋の風が吹き抜ける。
寒さはもうなく、柔らかな質量を伴っているかのような春の風だった。
肌触り良い風の流れに身を晒していた剛士だったが、目の前に展開される景色に絶句した。
あちこちの桜の樹から、風に揺られて淡い色合いの花びらが舞い躍っている。
その一陣は、まるで海を目指す川面のように整頓され、大海たちを乗せた車の去った方向に流れて行ってるのだ。
偶然なのか、それとも。
剛士の答えが出ぬままに、力尽きた桜の欠片は道の上に舞い落ちた。
後には月の冴え冴えとした光に輝く桜が残っただけである。
桜の戯れだと割り切って、剛士も踵を返した。
春の夜の、儚く美しい夢なのだと、そう割り切って。
たまには、人智を超えたものに騙されるのも悪くない。
彼の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
end
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ *:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ *:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆゚・*:.。..。.:*・゚
お久し振りのお話です。
羞恥心のデビュー日に何故だかフレンズ(+しんたろ)です。orz
夜桜を見たときに、巫女さんのような装束でサッキーが舞を踊っていたら絵になるな~と思って書き始めたので、とくにこれといったオチもストーリーもありません。
書きたいものが書けたから個人的に満足( ´艸`)ムププ
サッキーとしんちゃんが何者なのかは皆さんのご想像におまかせします。
ちなみに、ここのサッキーは小さくなりません、別の設定ですから、あしからず。
長文、お付き合い頂き、ありがとうございましたd(。ゝд・)サンキュウ