以下の文面はフィクションです。実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の一致です。もしくは気の迷いです。
そこらへんをジュウジュウ承知して読み進めてくださいね!って何度この文を書いたろう・・・。
(そしていつまで書き続けるのだろう?)
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襟をしっかり立て肩をすくめ、耳を帽子の中にしっかりと入れる。
露出したままの頬が挿すように痛い。
あまりの寒気に、吸い込む呼気の量すら加減したくなる。
その僅かに吐き出した息が、白く浮き上がっては真っ暗な夜に紛れて消えていった。
今年一番の冷え込みといわれた夜。
昨日までの寒さとは質が違う。
まるでNYに戻ったような、身体の芯に染み込むような寒さだ。
ため息は真綿のように広がり、見上げた空には氷のように冴えた色をした星々が煌いている。
こんな夜中に、わざわざ用も無いのに外出なんてしなくても良いようなものだけど。
でも、家でじっとなんてしていられなかった。
『直樹、賭けをしようよ。
俺が負けたら直樹にオーダーメイドのボードをプレゼントしてやる。
その代わり、俺が勝ったら・・・』
絶対の自信に溢れたあの人の笑顔を思い出す。
ズルイ人だ。
決して分が悪い勝負を仕掛けたりはしない。
相手を自分の領域に誘い込んで、その上で正々堂々と挑んでくる。
その絶妙な駆け引きの狡猾さ、下準備の抜かりなさには脱帽するしかない。
「グローブの右と左も分からなかった人なのになぁ・・・」
ぽつんと呟いた言葉は心許なく立ち上り、透明度の増した空気に霞んで消えた。
勝つための用意を整えてから持ち出されたゲームだったのだろう。
それだって、自分のことを思い遣ってくれた彼の、影の努力が成したことだ。
身の置き所が無くて、手近なガードレールに腰を落とした。
血管一筋まで凍りそうな冷気に包まれながら、こうやって凍えてることが心地よくも思える。
寒さに凍った星の結晶が、また一つ頭上に増えたみたいだった。
あの空を越えて、南の島から帰って来る人が居る。
ずっと暖かい気候の下でバカンスを楽しんでいたから、日本の寒さに驚くだろう。
その驚異的な寒さにすら、喜びの笑みを浮かべる人なのだ。
この空の下、長年の夢を目前に眠りに就いてる人が居る。
叶えたかった夢、でも全部は叶えられなかった。
それでも幸せだと、遣り遂げれたと、心の底から笑える人なのだ。
ボクは・・・。
そっと瞼を閉じる。
一番に浮かんだものは、今まで見上げていた星のまばらな夜空だった。
数えるくらいしか見えなくて、でも、一つ一つの輝きは目に刺さるほど鮮烈で。
ずっとずっと、この静かな夜が終らなければ良いと、そう願いたくなるような星空だった。
静かに、だけどしっかりとした足取りで歩き出す。
もうこれ以上、逃げ迷うことが許される立場ではない。
何が正解なのか分からなくても、とにかく前に進まなければならないのだ。
襟をしっかり立て肩を竦め、両手をコートのポケットに突っ込んだ。
露出したままの頬が挿すように痛い。
あまりの寒さに、吸い込む呼気の量すら加減したくなる。
口元では僅かに吐き出した息が、白く浮き上がって真っ暗な夜に紛れて消えていった。
寒い。寒くて何もかもが凍りそうだ。
だけど心に疼く熱が、このくらいで勢いを失うことはなかった。
爛とした輝きを宿した瞳が前を見据える。
その瞳には行くべき場所がはっきりと映し出されていた。
終わり