『ラストソング』①(再) | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

逢海司の「明日に向かって撃て!」

ご注意下さい!!私のブログは『愛』と『毒舌』と『突っ込み』と『妄想』で出来上がってます!!記事を読む前に覚悟を決めてくださいね(^^;。よろしくお願いします☆



ボクらは息吹いたばかりの緑が敷き詰められた斜面に寝転んだ。

鼻先を掠める、土と湿気と、青臭い草の匂い。

空はとっくに明けていて、春色の空に薄い雲が流れていく。


なんて穏やかなんだろう。


草の合間を小さな虫が行きかい、草木たちは太陽に向って葉を翳している。

地面に落ちた雫は吸い込まれ暖められ、天上に帰ろうとしてボクらの背中を湿らす。

何千年も前から変わらない自然の営みが、淡々と続けられていた。


もうすぐその全てが終るなんて知らずに、ただ繰り返す日常を黙々と続けている。

ボクもそうありたかった。

最後まで何も知らず、当たり前の日常が明日も来るのだと勘違いしながら終りたかった。


もう一度、空を見上げる。

太陽と違った光の塊がそこで異様な輝きを放っている。


あれが、全てを奪っていく。

ボクらの、この地球の明日を壊していく。





その発表があったのは、どのくらい前だったろう。

誰もが最初はテレビ局の悪ふざけだと、たちの悪いドッキリだと思った。

だけどそれが次第に真実だと分かると、人々は混乱し失望し、自ら破滅へと向っていった。


それでもまだ日本はマシだったのかもしれない。

最後に画面で見た外国の様子は、まるで戦争でも起こっていたみたいだった。

それがどこの国だったかも伝えられずに通信は途切れてしまったけれど。





故郷に戻ろうと考えてもみたけれど、交通機関なんてとっくに止まっていたし、主要な幹線道路は逃げ場を探す人たちで溢れかえって、単独での長距離運転は危険そうだったので諦めた。

期限の決まった運命で何を危険と判断するのは愚かしいと思ったけど、これ以上の恐怖を上乗せするような状態で最後を迎えたくなかったのだ。


出来れば何も考えたくなくて、自分の部屋で好きな音楽でも聴いて終ろう。

気持ちの落ち着くような香りを焚いて、静かに眠っていよう。


そう覚悟を決めていたボクの元に、彼は駆け込むようにやって来た。

夜更けの、この地球の最後の夜明け前に、ともすれば一番危険な時間に彼はたった一人でやって来た。



「行くぞ」



その言葉に引き摺られ、当ても無いまま彼の車に乗り込んで走り出した。

時折、窓の外では目を覆いたくなるような情景が映し出された。

普段の彼なら、見捨てては置けないような人たちを何回も見送った。


止まってしまったら、ボクらに許された時間もそこで尽きてしまうから。

ボクらは、黙って何も見ないふりで走り続けた。





何をどうやってこの誰も居ない自然の中に逃げ込めたのか分からない。

もうこれは、彼の最強の運のよさと引きの強さがなす奇跡としか思えない。

あたまでっかちの学者達が割り出した最後の日。

ボクらはどんなときよりも穏やかな空気に包まれて寝転んでいた。


見上げた光の玉がドンドン大きくなっていく。

あれが目の前に迫ったら、ボクらの時間が全て終ってしまうのだ。

全部消えて、それっきりの何も生まれない世界が始まる。

まさか『無』に永遠を感じるとは、思っても居なかった。


もう一人、の『彼』がどうしているか、ふと気になった。

きっとあの浜辺の家で家族とひっそりと過ごしているのだろう。

小さな子供達を不安にさせないよう、何も知らせず。

ただいつものように父親の顔で最後のときまで子供達を抱き締めているのだろう。

不安や悲しみを振り切って、明るく笑っているのだろう。


その人を思って涙が零れた。

小さな子供達を守れない事は、未来に導いてやれない事は、どんなに辛いことだろう。

あんなに愛して止まなかった人たちを守れない事が、どれほど歯痒いことか・・・。




「恐いか?」




ボクが泣き出したことに気が付いた彼が、眉を八の字に歪めてボクを眺めていた。

泣き虫の彼が、こうゆうときは泣かないのが不思議だった。



「恐いけど泣いてるのは違う。剛にぃのことを考えてて、それで・・・」



彼の眦が悲しそうに辛そうにゆらむ。

切なさを孕んだ瞳に、ボクの顔が映っていた。



「わりぃ、オレ、お前が何したいか聞かずにこんなトコに連れてきちまった。

間に合うか分かんねーけど、つーのさんトコに行くか?」


「あ、違う、そうじゃないよ。剛にぃに会いたくて泣いたわけじゃないから。

ただ、何も知らない小さな子供達のことを考えたら、なんか、苦しくて」


「・・・、そっか。あいつらのこと考えてたのか」



ふわっとした笑みが彼の頬に浮かぶ。

優しいんだなって言われてるみたいな、そんな笑顔だった。



「向こうで沢山遊んでやれよ。きっと喜ぶって」



向こう・・・。


そうだね、もう、『こっち』では会えないんだものね・・・。

ボクは知らずに彼の手をしっかりと握っていた。

そして彼も、僕の手を力強く握り返してくれた。





続く




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はいはい、ネタが尽きたときの再放送です。

今年の3月に書いてた話だから、ノックが活動再開する直前の頃ですね。

ちと暗いんですが、けっこうお気に入りという・・・。


一応『オレンジ』にチャレンジしてるんですが、まとまりません(^^;

一番書きやすいパターンは『はじめての・・・』のユウスケ後日談だよな、と思ったのですが、それを書いてはあまりにもユウスケが報われないので構想を練り直してます。

お話を作るって、難しいなぁ・・・。

(いまさらそれを言うか!Σ┓( ̄口 ̄ ))