以下の文面はフィクションです。
実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の一致です。
ですので、どっかに通報したりチクったりしないでください★
・・・、頼むよ、マジで (ToT)
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次の仕事までぽっかり空いた2時間弱。
ジャージは常備してるし、空模様もどうにか持ちそう。
タイマーを45分にセットする。
時間内に行けるトコまで行って、折り返してくれば丁度良いだろう。
iPodで音楽を聴きながら、オレは夜に街に駆け出した。
最近運動不足が気になっていたけど、一度動き出せば身体はきちんと付いて来る。
持久戦になれば尚更、昔に鍛えた基礎体力ってのがモノをいいそうだ。
淡々と走っていくうちに心と頭がどんどん冷静になる。
自分の足音と鼓動のリズムが、気持ちを落ち着け頭をクールダウンさせる。
そして、いろんなことが頭の中を駆け巡る。
まともにメールをくれたのはいつが最後だ?
年末にニューヨークに行くとか言ってきたのが最後だったか。
勉強のためだって、だからオレも『いってらっしゃいヽ(^▽^)ノ』って気楽に送り出したのに。
帰ってきたのがいつだか分からないまま、時間が過ぎて忙しそうに素っ気無くなって。
『野久保くん、本当にあの事務所を抜けちゃったのね』
『後のこととか発表無いけど大丈夫なの?』
『見たよ、野久保くん舞台のほうに行くんだ!』
『なんだか同年代の人たちに囲まれて楽しそうね~~』
『野久保くんのツイッター、私生活まるわかりで危ないよ。注意してあげないと!』
みんな、オレがとっくに知ってるって思ってる。
一番何も知らないのはオレなのに。
いつだって何かあったら、あいつよりも先に周りの人から教えてもらってる。
オレの知らないところで、あいつは自分の夢に向かって走っている。
これで、いいんだって、そう思った。
あいつが決めたこと、選んだことはこうゆうことだったんだって。
いつまでも過去に捕らわれてないで次に進まなくちゃいけないから、新しいものを手に入れるために何かを捨てなければ持ちきれないから。
それがあいつの望んだことなら、きっとそれも間違いじゃないって、自分に言い聞かせた。
隣にいるのがオレやつーのさんでなくても、あいつがちゃんと笑ってれるなら『過去』になっても良いって、自分に言い聞かせて諦めようとしていた。
… これ、懐かしい…
その言葉と一緒に添えられてた画像。
お兄と三人で一生懸命覚えた決め台詞。
あいつの中にまだオレたちがいるって、それが分かってすごく嬉しかった。
まだ繋がっているって思っていて良いんだって、それだけで充分だって思えた。
相変わらず連絡はくれないし、メールをしても返事は5割減でしか戻ってこない。
今年に入って一度も顔を合わせてない。
だけど、あの文面に篭められた想いがオレには嬉しくて仕方なかった。
アラームが鳴る。ここが折り返し地点。
すぐに引き返さないと次の撮影に影響が出る。
5分だけ、最初にそう決めてオレはメールを送った。
気が付かないかも知れない。
ううん、稽古中でそれどころではない可能性のほうが高い。
不利な条件で挑まなくては意味が無いような気もして、オレは祈るように電柱に寄りかかって息をついた。
チマチマした建物で遮られて、切れ端のような空しか見えない。
せっかくの七夕に星のひとつ、いや、月さえ見えない冴えない夜空。
いろんなものが吸い取られて、真っ黒に塗りつぶされそうだ。
でも、
勝てる気がしたのは、なんでだろう・・・?
疲れてるのにそのまま笑いが零れた。
最初から狙ってあいつの稽古場の近くまで来た。
ううん、前の仕事場と空き時間と距離と、いろんなものが丁度いい具合に噛み合った。
この日にちょっと神様が融通効かせてくれたって、ありえそうな話じゃないか。
「雄ちゃん!!」
少し鼻につまる、暖かくて柔らかい声。
あいつは、三人のときのイメージカラーのシャツを着ていた。
そんなささやかな偶然も嬉しくて。。。
珍しく抱きついてくるあいつを、そのまま丸ごと胸の中に収めた。
ノクだ。本物のノクだ。
すごく変わったってみんなに脅されたけど、あの時と変わんないノクのまんまだ。
「ちょーーーっ久し振りじゃん!!」
懐かしくて嬉しくて、オレは腕に力を込めてあいつを抱き寄せた。
夏の暑さも体温の熱さも全部忘れて抱き締めた。
「ごめん、雄ちゃん、ごめんね。
でもボクはまだ、雄ちゃんに会いに行けるような資格はないから・・・」
「めんどくせーヤツだな!!オレが会いたいって言ったんだから、かんけーねーよ!!」
まだこいつが余計な事を口走りそうだったから、オレはぎゅって頭ごと抱えて黙らせた。
少しだけ苦しそうにして、それから諦めてぺったりとくっついてくるあいつの頬。
「元気にやってるか?」
「うん、今ちょっとおなかの調子が悪いけど・・・」
「ぷっ!何ソレ!!オレにいつも食い物の注意するくせに」
ちらっと腕時計を見た。
マジで時間がない、そろそろ帰らないと汗まみれのままで撮影再開しなくちゃになりそうだ。
もっとこうしてたいのに。今までの分を取り返すくらい、こいつを感じてたいのに。
「呼び出しておいてわりぃんだけど、そろそろ戻んないと」
「そっか、そうだよね、相変わらず忙しそうだモンね」
名残惜しそうに身体を離した。
手を伸ばせば何時だって触れる事が出来たあいつが、こんなにも今は遠い。
でも心は近くにあるって、ちゃんと感じることが出来たから。
バイって手を振る。
気を付けてねって、稚い声が追いかけてくる。
また会えない時間が積み重なる。思い出す事が少なくなる。
忘れられた?って呟きたくなる瞬間が、きっとまたオレらを襲う。
でもそんな時は心の中にあいつを描けば良い。
気が抜けて目が細くして笑うあいつを、思い出せば信じる力が戻ってくる。
逢いって思うから。
あいつがどう思うとか、状況が揃わないとか、そんなの以前に逢いたいって願うオレがいるから。
だから、世界中が「もう諦めたら」って忠告してきても、オレはお前を諦めないって決めたんだ。
星の見えない七夕の夜。
きっと織姫さまや彦星様は、一年に一度の再会を雲の上で楽しんでいるだろう。
地上の人から見られなくて良かったねって、二人きりの甘い時間を楽しんでいるだろう。
「オレも負けねーかんなーー!!」
叫んだ声は果たして織姫さまたちに届いたのか。
いや、きっと地上からの声なんて無視してるだろうな。
行きよりも軽い足取りで、オレは次の仕事場を目指した。
頑張っているあいつに負けないで頑張るために。
と、久方ぶりの再会に妙に浮かれてしまったオレは、この日、もう一人のブルーから密かに宣戦布告されていたことにまったく気が付かなかったのであった。
終