『TENDER IS THE NIGHT』 | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

逢海司の「明日に向かって撃て!」

ご注意下さい!!私のブログは『愛』と『毒舌』と『突っ込み』と『妄想』で出来上がってます!!記事を読む前に覚悟を決めてくださいね(^^;。よろしくお願いします☆

以下の文面はフィクションです。

実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。

似てる人が居ても、それは偶然の一致です。

ですので、どっかに通報したりチクったりしないでください★

・・・、頼むよ、マジで (ToT)




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『あともう少し、今度の駅で君が居なくなる
二人の明日、それ以外なら分かり合えるのに…』




電車に乗ってみようと言い出したのはあいつだった。
たまにはオレだってそーゆー気分になるけど、危ないし騒ぎになってもマズい。
返事を言い淀むオレに、あいつは確信犯な笑顔で言い放った。

案外へーきだよ?
雄ちゃんも髪の毛短くしたばっかだし。
それに、二人で地下鉄なんて乗ったことないじゃん。


思い出したのは、こいつが始めたツイッターに添付されていた画像。
ツイッター登録してるスタッフが見せてくれたそこには、どっかの車両にこいつの投げ出した足と一緒に移動してる仲間が映ってた。

んじゃ、少しだけな!


オレのかなりヤケな返事に、あいつは満足そうに笑った。
選んだ地下鉄は都心から離れて行く路線。
3駅目であいつが乗り換えてるから、オレはそこで降りてタクシーを拾うことにした。
帰宅ラッシュを過ぎ終電まで間があるこの時間は、思ったよりも空いていてオレは胸を撫で下ろす。
ドアの近くに並んで立って外を見てたら、確かに気が付かれないかも知れない。

地下鉄ってこんな煩かったっけ?

こんなもんだよ。でも、ちょっと声が聞きにくいね。


姿よりも声でバレてしまう可能性もあるので、オレらは耳を寄せ合うようにしながら短い会話を繰り返した。
窓に反射して映る、少し無表情なあいつの顔。
話に集中しようとするとそんな顔になってしまうことはよく知っていた。
相変わらず綺麗な髪、鼻にくぐもる声も治ってないし、使っているコロンも変えてないようだ。
だけど。


あ、もう次だ。

行き先を告げる車内蛍光版が、容赦なく下車する駅名を照らしていた。

憎らしげにオレはその文字を見上げる。


早いな。

そりゃそうだよ。
でも雄ちゃんはこれくらいが限界でしょ?


クスっと笑った顔が知っているようで知らない人みたいで、オレはなんだか変な感覚に襲われた。

いや、きっとこれは地下鉄、なんて特殊な場所に居るからだ。

周りに気が付いて騒がれないか心配してるから、居心地悪く感じるだけだ。

ドアが開いて、一歩先に踏み出したあいつはオレが呆けて降りるのを忘れないように、そっと手を引いてホームの先まで案内した。
面倒見が良いのは昔から。余計なお節介の手前くらいに世話を焼きたがる。



ここの階段を上がればすぐに改札だよ。
ボクは乗り換えるからあっちに行くけど、さすがに迷わないよね。


完全にお子様扱い、というか、相当な世間知らずにされている。
まあ電車に乗るのも警戒するくらいだから、仕方ないかもしれないけど。
そんなことを考えて苦々しく笑ってるとあいつはタン、と軽くオレを振り返った。
真一文字の大きな口は何か言いたげで、なのに、どうしたって聞く前にあいつは被っていた帽子をオレの頭に乗っけてきた。


これ、あげるね。
ちゃんとタクシーを拾って帰るんだよ?


無理矢理目深に被らされた帽子の鍔に、視界が半分くらい持っていかれる。
オレのことがバレないようにしてくれたんだろうけど、これでは顔が見れない。
何を思っているのかが、判断できない。


ボクは大丈夫だから。


ふいの呟きに、何が?と問い返そうと顔をあげると、プラットホームに次の電車が滑り込んできた。
入れ替わる人の流れ、その波に抗わずにあいつはそっとオレから離れて行く。
いつもの癖で、長い前髪を人差し指で払い除けて。
変わってない後ろ姿。それがとても遠く感じて…。
ホームに人が増えて来て、オレは貰った帽子を改めて目深に被り、足早に改札をくぐって路地に出た。
流してるタクシーを止めて行き先を告げて、オレはほっと息をつく。


『ボクは大丈夫だから』


耳に蘇るあいつの言葉。
何が大丈夫なのか、聞けなかった。
帽子で隠さなくても平気?
俺達のところに帰ってこれなくても寂しくない?
周りにちゃんと気遣ってくれる仲間がいるから?
なにが大丈夫だって言いたかったんだ・・・?

明日からまた、別々の世界で日常が始まる。
もう二度と二人の世界が交わることはないのだろうか。
あんなに濃密な時間を一気に駆け抜け『無敵』と呼び合っていた頃には・・・。
ふと思い出す、地下鉄の窓に映ったあいつの顔。
うまく説明はできないがどこか昔と違ってて、それが妙によそよそしく感じて、だけどあの時、オレの隣で同じ涙を流していたのは間違いなくあいつだった。

窓の外、たくさんの光と人が流れていく。
ただ過ぎ行くのが思い出だとしても、その欠片がいつまでもあいつの心に残っているとオレは信じてる。
どんなに遠く離れていたとしても。





『今日が明日に色褪せ、もし君が誰かの隣にいても
 震える背中を抱き寄せた思いは間違いじゃない』




さて、今日はどの駅で降りようか。
本当の最寄り駅を使うのは究極避けている。
ひと駅、場合によってはふた駅分も歩いて帰ることもあるくらいだった。
先ほどと同じようにドアの近くに立ってぼんやりしていると、まだ彼が隣にいるような錯覚に襲われる。
立ち去った後でも残るその強烈な存在感。
一緒にいすぎた時間が長すぎて、その特異性を知ったのは彼から離れてからだった。

指先が食い込むくらいに、しっかりと肩を抱かれていた。
離さない離れるな、そんな言葉が聞こえてきそうな大きくて熱い掌。
あの瞬間を、彼の熱を、苦しそうな呼吸を、涙を、忘れられるはずはない。
心の軸はいつだって、あの日を起点にしていたのだから。
でも。

ごめんね、出来ない約束はしたくないんだ。
もうこれ以上、雄ちゃんを悲しませたくないんだ。


忘れてくれても構わないと思う。
彼を想う人はたくさんいるのだから、自分のことなんて忘れて幸せになってくれって。
簡単にそんなことが出来る人ではないと知っているけど、いつまでも自分のことで心を痛めて欲しくなかった。



ボクのほうが、捕らわれたままなのかな。



何の他意もなく、大丈夫だと彼に伝えた。

心配しなくて良い、ちゃんと元気に楽しくやってるよ。

そのくらいの意味だった。

多分、彼はそれ以上の意味に受け止めている。

それでも、そんな誤解をしてくれてもいいとさえ、思えた。


顔つきが変わった、とよく言われる。

大人っぽくなった、精悍な顔になった、恥ぃ坊のときから随分成長したねって。

本当は逆なのだ。

もともとがこっちで、あの人たちが居たから恥ぃ坊の、末っ子の顔になってしまったのだ。

あの人たちがいないところで、昔の顔に戻れるはずはない。

可愛い三男坊は、あの人たちのところに置いて来た。もう彼らの前にしか現れなくて良い存在だ。


ふと、涙が零れた。

どうしたいか自分でも分からない。

『今』を精一杯生きたい。一時の流行に甘えたくない。共に戦ってくれた仲間を何よりも大切にしたい。

でも、切りたくない絆もある。

近づく事が許されなくても、それでもずっと見守っていたい人たちがいる。

弱い自分が嫌いだった、もっと強くなりたかった。

全てを振り切れたらもっと強くなれると思ったのに、振り切ろうと足掻けば足掻くほど露呈する、何も出来ない自分の姿に打ちのめされるばかりだ。

こんなはずじゃ、なかったのに・・・。


大きく息を吸い込んで、駅のホームに飛び出す。

人の肩の間を擦り抜けるように、混雑した駅前を抜け出して一駅長い帰路を急ぐ。

明日も稽古が詰まってる、早く帰って身体を休めなくては。

切り替えるために覆うような黒い空を見上げた。

星どころか月さえ見つけられない、全てを吸い上げるような闇の広がる空を。




『灯りの消えたホームで、思い出の置き場所探してるだけ。

 言ってしまった一言、言えなかった一言繰り返す』
















一つだけ、この空に願いをかけるなら、

いつでも君が笑顔であるように祈るよ、雄ちゃん。