小話3 | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

逢海司の「明日に向かって撃て!」

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☆本気にするなよ!(。+・`ω・´)キラーン



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「ひろみさん、かんべんして・・・(lll-ω-)」


ついさっきまでは、普通の身長でそこに座っていたはずだ。

畳の楽屋って良いな~、なんて呑気な感想を洩らしながら、ニコニコ笑っていたはずだ。

ほんの僅かに目を離した隙に、おーたんサイズまで縮むのは反則だと思う。


考えてみると、剛士は大海が小さくなるところを見た事がない。

気が付いたら小さくなって剛士に纏わり付いている。

こんだけ世話を焼いてるのに、途中経過が見れないってどうゆうことだ?


「あーあー、サッキー、ティッシュで遊ばないの」


目の前のボックスティッシュを次々と撒き散らすので、これ以上イタズラしないように抱き上げる。

もっと遊ぶって最初は抵抗してたけど、落ち着く位置で抱きなおすと、ぴたっと動きを止めた。

ぴとーっと身体を摺り寄せて、伺うみたいに胸元から大きな瞳で見上げてくる。


真っ黒い瞳。

怖いくらい、感情を本心を隠してしまおうとする瞳。




言えよ?

言いたい事があるんだろ?

だったら、全部吐き出して直接聞けば良いだろう?





ふぅ、と剛士はため息を漏らした。

こんな小さな子に何を本気で説こうとしたのだ?

大人の崎本に言えないからって、何も分からない子供のときにホンネをぶつけるのは卑怯だ。


「俺だって小さくなって誰かに甘えてーよ・・・」


誰となく洩らした、そのときだった。


「つーのさーん、おじゃっま~~!

あっ!!サッキーまた小さくなってる!!」


・・・今、来るな~~(T▽T;)


大きな足音を立てて乱入してくる雄輔が、今日は一段と憎憎しく思えたのは言うまでもないだろう。

そんな剛士の心情なんてお構いなしに、雄輔は大海を抱きかかえてる剛士の横に腰を降ろした。


「あれ?今日のサッキー、いつもより小さくない?」

「ん~~、そうだね~。いつもはうーたんサイズなんだけど、今回はおーたんまで縮んでるね~。

やっぱ、寂しかったりするとちっさくなっちまうのかな?」


よいしょ、と抱きかかえると、腕の中の大海はしっかりと剛士に抱きついてきた。

小さい手が必死に掴ろうと胸元で足掻いている。

こそばゆい感触が、なぜだか痛々しく心に突き刺さった。


「小さいほうが、遠慮しないで甘えられるもんなぁ」


零した言葉に、雄輔の顔が不可解に歪んだ。


新しい曲を渡されたとき、てっきりまたフレンズだと思った。

まだしばらくはこの二人で歌えると、そう思っていた。

無論、剛士に誰とやらせてくれ、なんて言える権限はないし、誰とやるにも文句はない。

所詮は番組内の企画物だ、趣旨に乗らない曲なら必要ないだろう。


だけど、どう?と聞かれて一瞬言い淀んでしまったのは、正直な反応だったのかも知れない。

気が付いたその人は、万全の笑みを浮かべて剛士にとっておきの情報を教えてくれた。


「大丈夫、崎本にもちゃんと別のを用意してるから」


そうゆう問題じゃないんだと、どうして言えなかったのだろう?

春先はあんなにちょっかいを出してきた大海が、最近、急に余所余所しくなったのも合点がいった。

勝手に、何かを勘違いして離れて行こうとしたのだ。


「ったく、どいつもこいつも、自分解釈で判断してくれて・・・!」

「つーのさん・・・?」

「かんけーねーよなぁ?ユニットとかグループとか、そんなのそんときだけの『枠』じゃん。

まとめた呼び名があろーがなかろーが、一緒に頑張ってきた時間は消えないだろう?

俺は、こいつが影でどんだけしんどい想いしてそれに耐えて頑張ってきたか知ってるよ。

そうゆうのもちゃんと見て、こいつのこと認めて一緒にいたんだよ。傍で一緒にって・・・!

こいつもそんぐらい分かってると思ってたのに・・・・・あ。」


しまった、と珍しく黙っている雄輔のほうを振り返った。

大きく目を見開いて悲しそうに眉を歪めて、しっかりとした唇を噛み締めている、歳不相応な稚い表情。

これは、絶対に、マズイ。


「ゆ、雄輔!これは俺と崎本の話だからな!決して余計なふうに受け取るなよ???」

「つ、つーのさん、あの、ね。オレ、オレさ・・・」

「だーーー!!泣くな!

いや、泣いても良いけど、絶対に縮むなよ!!今日は直樹は稽古で来れないんだからなっ!」

「ノ、ノク、来れない、って・・」


うわ~~っ!禁句を言うてもうた~~!

どうにも手に負えなくなったら、大将か女性陣を呼び出そう。

剛士は片腕で大海を抱きかかえ、雄輔に顔を向けたままで手探りで携帯を探した。


「雄輔さん、気持ちは分かる。でももーすぐ本番なんだからな。分かってるな??」


念を押すように繰り返すと、雄輔は分かってるよ!と噛み付くような仕草で切り替えしてきた。

なんとかヤバイ状態は回避したらしい。

ここで雄輔にまで小さくトランスフォームされたら、問題が山積するばかりだ。


「オレだってさ、無理に帰って来いって言うほどヤボじゃないよ。

本音を言えば、そりゃ、一緒にまたいろんな事が出来るなら、たっくさんのことを一緒にしたい。

一緒にいろんなモンを見て触って経験して、そんで同じように驚いたり笑ったりしたい」


そんときは、お前も一緒だぞ。

そんな声にならない言葉を込めて、雄輔はその大きな手の平で大海の頭を撫でた。

感情を篭めすぎて、ちょっと力任せな撫で方だった。


「でもさ、お互いにジジョウってあんじゃん。

同じところに戻ってくるのだって簡単じゃないだろうし、あいつがそれを望んでなかったらソレまでの話なんだし、やりたいことに一生懸命ならって、オレだってそんぐらいの理解はあるよ、でも・・・」


きゅっと下唇を噛み締める。

怒涛の祭りの最中から、雄輔は時折そんな切ない表情を浮かべていた。

不貞腐れているのか納得できない事があるのか、単に疲れているだけなのか。


そんな雄輔の横で、いつも直樹が笑っていた。

あどけない無邪気な顔で、ゆーちゃんも笑ってって言うように笑っていた。

あのときの風景はまるで夢の中のようにおぼろげで眩しくて、もうはっきりとした輪郭を伴って思い出せない。

焼き付けるほど何度も直視してきたはずなのに。


「あいつ、オレを見てくれない。

今のオレを見て、ちゃんと向き合ってくれない。

こんなまんまで『過ぎて終ったこと』に纏められるのだけは、オレは納得できねーよ!」


まだ、何も終ってない。

終らせたつもりなど、雄輔には微塵もない。

いつまでもずっと、友達で仲間で弟だって(いまや直樹のほうが年上っぽいが)、初めて会ったときと変わらないで大好きだって気持ちに変化はない。


なのに直樹は、まるで区切りでもあったかのように、雄輔との距離をとりはじめた。

大海や雄輔が幼児化する、なんて特殊事情がなかったら、直樹は今でもまともに連絡をくれかなったんじゃないかと思うくらい、普段は余所余所しい。


なんでって、思う、思ってしまう。

あんなに特別な『大好き』をぶつけ合っていたのに・・・。


「俺は直樹じゃないから、本当のコトなんて分からないけどさ」


胡坐をかいた中に大海を座らせながら、剛士がぽつん、と呟いた。

落ち着いた柔らかい眼差しに、胸をぎゅっとつかまれるようだと雄輔は思った。


「直樹は雄輔に会うのが怖かったんじゃないか。

お前に会って、こっちに帰って来て一緒に遊ぼうよって笑顔で誘われたら抗えなくなってしまう。

そんな自分に成り下がることに脅えて、お前と距離を置いてたんじゃないかな?」


誰もが。

思わず愛さずにはいられない存在。

かまってと強請られたら、許される最大限で相手をしたくなる、そんないとしい存在。


雄輔のすさまじいほどの人を魅了する力を、直樹は何度も目の当たりにしている。

いや、直樹だってその餌食になった一人だと言っても過言ではない。

その理屈を越えた求心力に触れないように、直樹はわざと距離を保っていたのではないだろうか。


「元の鞘に収まるのは簡単だよ。楽だしリスクも少ない。

でも直樹だってこの一年、自分なりの未来を描いて頑張ってきた。

それはお前だってそうだろう?『羞恥心』じゃなくて『上地雄輔』にしか出来ない事をいくつも具現化して、その先の自分だけが出来ることを見詰めて突っ走っている。

今更、あの楽しい時間を再現したい、なんて甘えた事を言ってたら、俺らが踏ん張ってきたこの一年が、いや、あの日からの1年半の月日がまったくの無駄になってしまう。違うか?」

「オレはそんなつもりは・・・」

「うん、そう。分かってる。雄輔が昔と同じ事をしたいなんて本気で思ってない。

今のは極端なたとえ話だ、気を悪くするなよ。

ただ俺的には、直樹はこのたとえ話にかなり近い事を考えているんじゃないかと推測するわけですよ」


変なところがストイックなヤツだから。

甘えてはいけない、甘えそうになる前に事態を回避しておかなくては。

そんな風に行動と感情に歯止めをかけているんじゃないかと思う。


「もう少し、直ちゃんが自分に自信を持てるまで待ってあげなさい。

揺るがない強さがあるって気が付いたら、また『ゆーちゃ~ん』ってちょっかい出しに来るから」

「そんな簡単なことかぁ?あいつ、けっこう思い込んだら一直線なんだけど」

「雄輔はボキたちの絆を信じて待ってればいーの!

なんたってボキたちは『奇跡の子』なんだから、そう簡単に離れるわけないじゃなーい」


ふふ~んとほくそ笑む剛士に、いつも解せない思いが募ってくる。

なんて剛士はこんなに余裕があるのだろう?自分だってあんなに直樹を心配してたのに。

なんだかムカついたので、ささやかながら反撃してみた。


「っのさ~、オレたちが『奇跡の子』なんて言ってたら、サッキーが焼かない?」

「それこそ余計なお世話です。

サッキーとボキの再会は『運命の必然』だったんですから、こりはこりで特別なのよん♪」


うわ、なんだこの余裕!

それとも余裕なふりをしているだけなのか??


小さな大海をあやしながら、訳知りな笑みを向けてくる剛士を苦々しく見詰めた。
やればどーにかなる、と、勝ち目の少ない橋を駆け抜けてくのは雄輔だ。

やる前から絶対に大丈夫、と、道なき道も怖がらずに行くのが剛士だった。


似てるようで、少し違う。そんな二人の未来の見据え方。


こんなオレラに付き合わされてたんだから、常識人の直樹は大変だったよな、と今更直樹の気苦労に思いを馳せた、そのときだった。

剛士の手の中で携帯が鳴った。


幼児の大海を気遣いながら応対する。

その顔に、高飛車な小憎らしい笑みが宿っていた。


「あ、どーしたの、直電なんて珍しいじゃん」


だれ?と目線で問いかけたけど、剛士は意地悪に笑ったままで教えてくれない。

腕の中の大海がじぃっと見つめてる。

電話の相手に剛士を取られた、とでも思っているのだろうか?


「なに?心配してくれたの?甘やかしちゃダメだよ、図に乗るから。

大丈夫だよ、大人サイズで頑張ってる。その分サッキーが小さくなっちゃったけど」


あっ!って思った、分かった。

直樹だ。雄輔が小さくなってないか心配して、直樹が電話をかけてくれたんだ。


「え?ちっちゃいサッキーと話したい?ちょっと待って、今、代わるから・・・」


剛士が面白がって大海に渡そうとした電話を、雄輔が横取りした。

ええ~~って大海の顔が渋るけど、今はそんな場合じゃない。


「もしもし?ノク!!」

『・・・あれ?雄ちゃん?どうして?』


てっきり大海の可愛らしい声が聞けると思ってのか、拍子抜けした声で直樹が問い返してきた。

オレだとなんでそんな冷たい反応なんだよ!って言いたいけど、ここは男らしくグッと我慢する。


「オレが居てもおかしくないでしょ?元気だった?全然連絡くれないじゃん」

『だって、雄ちゃんいつも忙しそうだから、ボクなんかのことで煩わせちゃいけないと思って・・・』

「そんなのかんけーねーし!今って舞台の稽古中?時間は平気なの?」

『休憩中だから、電話してても問題ないけど』

「けど?」

『すごい見世物になってる・・・』


地下の稽古場で一番携帯の電波の入りが良い休憩室からかけているのだが、そのガラス戸の向こうに共演者たちがわざとらしく顔をひっつけてニヤニヤしながら直樹を見守っているのだ。

これは冷やかし以外の何者でもない。


『大人のままなら良いや。収録頑張ってね。小さなサッキーを苛めちゃダメだよ?』

「なにそれ!」

『じゃ、切るから。剛にぃたちにもよろしく伝えて』

「ちょーーーっ!待て!!切るな!!」


見えてないけど、直樹の動きが止まったのが分かった。

それは分かったけど、この先のコトは無計画である。

話を長引かせる理由も、今伝えるべき事項も何も無い。


『用がないなら切るよ』

「いや、あの、ほら、あれ・・・!」


何か、あったはずだ。

こいつに言うべき言葉が何か。


「あ、そだ☆」


言わなくちゃいけないこと、一個あった。

不審な空気を醸し出しながら待っている直樹に、はっきりとした声で伝えた。

本当はずっと前から、真正面に言わなくてはいけなかった言葉を。




「愛してんぞ!(≧∇≦)」




なにか、電話の向こうで激しく崩れる音がした。

状況が分からずきょとん、とする雄輔を、剛士が呆れたような引き攣った顔で眺めてる。

やっぱりこいつには勝てない、と諦めの感情を噛み締めながら。


『ゆゆゆゆ、ゆ~~~ちゃん!?ボクのこと、からかってるのっ?』

「ちげーって、マジだし」

『もぉ、今度こそ本気で電話切るからね。バイバイッ』

「ノクも頑張ってね☆バイバイ」


結局、雄輔のペースである。

予想外で直樹の声を聞けたからなのか、先程とは打って変わってのご機嫌な顔で剛士に携帯を返す。

これが5分前までは、直樹がちゃんと向き合ってくれないと嘆いていた男とは思えない転身の速さだ。


「やっぱ、お前の底力はすごいよ・・・」

「なんのこと?それより早くサッキーを大人に戻さねーと!」


時計を見ると、雄輔のドタバタに付き合っていたせいか本番までの時間が迫っていた。

もうちょっと可愛いサッキーを抱っこしていたかったけど、仕方ない。

頼りない身体を抱き起こして、ポンポンって背中を叩いてあげる。

それが、帰っておいでの合図。

対等の相手に戻って、俺の前に帰って来いって。


ふわっと腕の中で、大海の身体の質量が増す。

夢の時間は終わり。もう現実と向き合う時間。

最後に力一杯抱き締めたあげた。


照れ屋でリアリストな彼に、どれだけ剛士が気持ちを注いでいるか覚えておいて貰うために。


「あ、あの・・・」

「おかえり、サッキー」


黙って俯いて、真っ赤になる。

まだまだ大人に戻ると素直に甘えてくれないな~~と、その変化を残念がりながら、このギャップが大海らしさなんだよな、と妙な納得をする剛士だった。


甘え下手の大海くんなので。

まだしばらくは小さな姿を拝めそうだな、とほくそ笑む剛士さんでであった。





終る。

(オチがグデグデですみません~~)