今回のお話はいつもと趣向を変えています。
お口に合わない方は引き返して忘れて下さい。
・・・・・、なにげにBLです。
(野久保さんのビジュアルは最新のものでなく、『弱虫サンタ』くらいでお願いします(T^T))
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直樹と雄輔の今を語る前に、二人が何時から意識し始めたか、を語らなくてはいけない。
出会いについてはもう充分だろう。
同じように先代に拾われてきた二人は、共通の趣味があったことと、実年齢も精神年齢も近かったことからすぐに打ち解けて、剛士を含めていつでも楽しそうにキャイキャイとふざけた話をしていた。
直樹に男性の恋人が現れても、彼らの関係は変わらずに『兄弟みたいな友達』のままだった。
「彼と別れたんだ」
直樹がポツン、とそう私たちに告げたのは彼の就職が間近に迫った早春の日のことだった。
花冷えが厳しくて、桜の蕾が凍りそうだと話していた夜だった。
別れた理由は知らないけれど、だいたいの想像はつく。
呆れるほど先入観と固定概念に捕らわれた、直樹の思い込みみたいな理由だってことくらいは。
良さそうな人だったんだけどな。
笑うと子供みたいで、だけど直樹が話しているときはじっと彼の眼を見て黙って聞いていてくれて。
包容力、というか、直樹の良いところだけじゃなくて、足りてないところや欠点も受け止めて適切なアドバイスをくれる、そんな懐の深さみたいなものを感じられる人だった。
・・・、私が見た限りでは。
その後も直樹には恋人が出来たようだったが、直接紹介されることはなかった。
最初のときに雄輔があまり良くない反応を見せたのを気にしてたのだろう。
元がノーマルな雄輔には触れたくない話題だった、と直樹は判断したようだがそれは間違いだ。
自分の仲良しさんにもっと仲良しな人がいるのが、ちょっと面白くなかっただけなのだから。
まあでも、大体分かるよ。
彼の雰囲気とか些細な行動とかを見ていれば、恋人がいるかどうかなんて・・・。
そして、あの出来事が起こったのは今から2年くらい前だろうか?
この店のバイトを卒業してもこまめに足を運んでくれた直樹の周りに、しばらく『恋人』の影を見ないなとぼんやり思っていたときだ。
その日はたまたま金曜で、店内は浮き足立った慌しさが押し寄せていた。
カウンター席に直樹も来てくれていたのだが、落ち着いて話せるような状況でもなく、アイコンタクトみたいなやりとりでしか相手をしてあげれなかった。
「ノク~、オイラちかれた(iДi)。フロア代わってよ~~」
その隙を突いて、直樹に背中から甘える不届き者もいたけどな!
(そんな暇があったら、出来上がったビールジョッキを各テーブルに運んでくれ!!)
随分と混んで盛り上がってきた店内。
一人の男性がすっと入って来て中の様子を伺う。
ああ、誰か行かせなくては、と思っているうちに彼はカウンター席の直樹の元にやって来た。
「すみません、隣の席、空いてますか?」
「ええ、どうぞ。ボクは一人ですから」
「良かった、僕も一人なんです。こんなに混んでいたから、どうしようかと思って・・・」
気が付いたフロアの女の子が慌ててメニューを男に持って行くと、彼はその場で注文していた。
入ってきたオーダーは『シャンディ・ガフ』
なるほど、そう来たかと私は冷蔵庫で冷やしてあるビールグラスを取り出した。
ファーストオーダーのドリンクが最優先されるので、まずは彼の注文されたドリンクに手を付ける。
2時間かけて煮込んで作った手製のジンジャー原液、を入れたグラスを斜めに構えてビールを注ぐ。
泡をこれ以上作らないようそっとステアしたら完成だ。
「お待たせしました。シャンディ・ガフです」
私がカクテルを作っている間に、彼はすでに直樹となにやら話し込んでいた。
(その様子をめざとく見つけた雄輔の、不機嫌な視線が何故だか私に向けられていた)
そんな裏事情を知らない男に気さくな笑顔でありがとう、と言われたが、なんだか妙に引っ掛かる。
彼はここ最近来くるようになった客だが、一人で来たのは始めてだった。
一人で来るくらい気に入ってもらえたのなら喜ばしいことなのだが、彼を見るたびに私はなんとも説明しがたい感情を覚えていた。
なんとなく似ているのだ、直樹の最初の恋人に。
そっと遠くを見てる訳知りの視線とか、落ち着いた感じの物腰とか。
顔自体よりも表情を作るときの筋肉の動かし方とかが。
ふとしたときに、あの人の面影を髣髴させる。
そのことを剛士に話したら、一笑された。
そりゃ、おーっきな括りで分けたら近いタイプだけどさ、全然似てないって。
考えすぎだよ、輝さんゝ (´∀`)カホゴナンダカラ
女性のほうが視覚に対しての遺伝子が多いと聞いた事があるが、男性視線と女性視線では違って感じてくるのだろうか?
『彼』を知っている当時のメンバーがあとは雄輔しかいないので、これ以上確認のしようがない。
ただ断言できることとして、この新規の顧客は以前から直樹の存在に気が付いていた。
何人かの仲間で訪れていながら、チラチラとカウンター席の直樹の背中を気にしていた。
こんな店に一人で来ている直樹が気になっただけだろうか?
妙に従業員と親しい男、何者なのかな?という好奇心?
それなら良いのだけど・・・。
私の根拠のない不安など全く解してない直樹は、親しげに話しかけてくれる人に無邪気な笑みを見せて答えている。
話も徐々に弾んできたようで、お互いに楽しそうだ。
そうだよ、冷静に考えてどこに不自然な事がある?
一人で寂しく酒を飲むより、同じ境遇の者で一緒に楽しんだほうが酒も美味しくなるってものだ。
頭では分かっている。だけど。
こんなときばっかり、『女の勘』ってのが警報を鳴らしてくれるんだ。
続く。