岩肌を伝って吹き込んだ一陣の風が、大きくマントをはためかせた。
巻き上がる砂塵を避けて見上げれば、眼前の切り立った崖の上にいつの間にか6つの影が揃っている。
気持ちの切り替え時ってわけか。
直樹に縋るようにしていた崎本も、手元にノートパソコンを開き基地とシステム結合を始めたようだ。
現場からのリアルタイムな情報と、基地のデータベースに蓄えられた情報の相互交換が可能になれば敵の穴を見付けやすくなる。
無論、戦い方においてはいくつものシュミレーションと細かいレクチャーを繰り返したが、事前に立てた作戦など実際の現場でどの程度役に立つかなんて分かったもんじゃない。
覚悟を決めたように、剛士は身体に残る呼気を吐き出し、眼光鋭く敵を睨みつける。
「さて、怪我をしたくなかったら、大人しく解毒剤を渡してもらおうか!」
喉焼けした声が谷間に木霊するように響く。
それが切り替えの合図になり、『ヘキサレンジャー』たちの顔にも凛とした緊張感が現れた。
「そんなに解毒剤が欲しかったら、私たちを倒すことね!」
アッキーナが叫ぶと、崖の上に整列していた6つの影が一斉に動き出した。
攻撃力が最大と思われるヨシオンと戦い慣れしているFUJIWARAはまとめて雄輔と剛士が対戦する。
身軽なハタヨクとクリスは、動きが軽快なまいとスザンヌが任された。
そして。
アッキーナが陣取る崖の頂上まで、優樹菜が一気に駆け上る。
「ナオタンの解毒剤、早くこっちによこしな!」
「はんっ!力尽くで取り上げてみたら?」
睨み合う二人の遠景を、取り残された崎本が心細そうに見上げた。
大丈夫、ぜったいにサキモンを悲しませないから。ゆきを信じて。
彼女が明奈と対峙すると決まったとき、舌足らずに、それでも一生懸命に約束してくれた優樹菜。
気が短いときもある、粗野な言動が目立つときも。
だけど気持ちは優しい子だ。仲間を大事に思ってくれる子だ。
不思議と周りに人が増えるたびに、涙もろくなっていった少女。
もしかしたら、妹と重ねてしまっていたのかも知れないね。。。
いいんだ、優樹菜ちゃん。自分のコトと解毒剤を手に入れることに専念して。
キミは平和を守る戦士で、妹は、キミらに戦いを仕掛けた悪の一員なんだから。
そう呟くと、ばかっ!って怒鳴られた。
当たり前のことを言ってんじゃないよ、手に入れたいもの全部、欲張って取りに行くんだよ!って。
「サッキー、不安だろうけど今は信じよう。信じる強い心を持っていよう」
隣に立つ直樹がそっと手を差し伸べてくれた。
縋るようにその手を取る。
覚悟は出来ていた。みんなを信じる気持ちも固まっている。だけど、
目の前で仲間を妹が戦う場面を見るのは、やはり辛かった・・・。
続く。