約束の一時間が経った。
これ以上遅れるようなら容赦なく解毒剤の入った瓶を叩き割ってしまうつもりだったが、どうやらその必要もなくなったようだ。
土煙の向こうから、轟音と共に二台のマシンがやって来る。
お台場戦隊の移動マシン、羞マッハ号とグリーンフラッシュ号だ。
「来たわね」
鋭い眼差しを向ける明奈の眼下で、お台場戦隊のメンバーが次々とマシンから降りてくる。
視力を奪ったはずの羞恥心ブルーまで来るとは思わなかったが、明奈の注意を一番引き付けたのは戦士でもない兄が居たことだった。
目の見えないブルーの手をとって付き添っているが、本当の役目は明奈を説得させることだろう。
「あきな・・・」
弱弱しく震えた瞳をこらして、生き別れになったままの妹の姿を探している。
馬鹿馬鹿しい、今さら情に流されることもないのに。
明奈は一瞥して岩陰に身を引いた。
ぎゅっ・・・、と知らぬ間に直樹を誘導して繋いでいた手に力が入る。
僅かに震えていることも分かったが、直樹は余計な事を、無意味な励ましや気休めの言葉を崎本に投げかけるようなことはしなかった。
マシンでの移動中も、崎本は直樹の手を取っていた。
目の見えない直樹のことを気遣っている、というよりも、誰かに縋っていなくては耐えられない必死さがそこから感じられた。
朝から、いや、昨晩から妙に甘えたり惚けてみたりしたのは、きっと不安の裏返しの行為だ。
こうして妹と敵味方として向き合う瞬間が恐いから、ずっとふざけて明るく振舞っていたのだ。
自分よりも華奢な崎本の手をしっかりと握る。
ここに来る前に剛士にこっそりと耳打ちされた。
崎本が暴走しないように、しっかりと手綱をとっていてくれ、と。
無茶をしないっていくら約束をしたところで、実の妹を目の前にしたら何をするか分からない。
だから直ちゃん、あいつのことをしっかり見張っていて。
直樹は、直樹に何かあったら俺らが悲しむって分かってくれてるじゃん。
だけどあいつは周りで見てる俺らの心配お構い無しに、自分のことを忘れて突っ走るから、だから、そんなことさせないようにしっかりと捕まえていてくれよ。
分かってるよ、剛にぃ。サッキーはボクにとっても大事な『弟』なんだからさ。
そして、ごめん、と直樹は心の中で呟いた。
剛士の言うように、直樹は自分の身を粗末に扱ったら剛士や雄輔が悲しむと充分理解してる。
だから今まで無理して笑ったりしても、絶対に無茶だけはしないでやって来た。
自分ひとりのことだったら、それで良かった。
意識を集中させる。
新しく付けたセンサーのおかげで、人の位置はだいたい掴める。
さらに博士たちが改良を加え、敵と味方では額に伝わる刺激が区別できるようになっていた。
聴覚の感度も一番反応が良いところにセットして、気持ちを落ち着ける。
新しい装置にはまだ慣れてない。ここまでしてもらっても、敵を倒すのは無理だろう。
でも。
崎本を守るくらいは出来る。身を挺して、彼の安全を確保するくらいは。
変わり果てた妹との再会に心を痛めてる崎本。
彼を守ってあげたい。彼の妹を取り返して、また一緒に居れるようにしてあげたい。
心の底からそう願った。その想いを叶えたかった。
・・・、たとえこの身と引き換えにするような事態になっても。
続く。