もうすぐ約束の時間だ。
明奈は崖の上から今日の戦場になるであろう広場を見下ろした。
何の小細工もしていない、ただの岩場を切り開いただけの空間。
ここで正真正銘ヘキサレンジャーと決着を付ける。
『明奈、僕だよ。大海だ。分かる?お兄ちゃんだよ!!』
突然頭の中に響く兄の声。
声変わりもして顔も大人になっていたけれど、間違いなくあれは兄の大海だった。
ずっと傍で守ってくれるって言ってくれた。寂しい思いなんてさせないって。
親は私たちをほっぽりぱなしだったけど、お兄ちゃんだけはずっと一緒に居てくれた。
一緒に居てくれるって、信じていたのに・・・!
明奈は薄い、紅色をした唇を噛み締めた。
結局みんな、自分のことが一番なんだ、私のコトなんて見てくれないんだ。
だったら後悔させてあげる。私はみんなの大事な物を奪ってやる。
「アッキーナ」
声をかけたのは黄色のバンダナをしたハタヨクだった。
気弱そうな顔をしてるけど、絶対にへこたれない人。
打たれたらしなやかに相手の力を吸収して、自分へのダメージを回避出来る人。
「なぁに。何か用?」
「いや、昨日ヘキサレンジャーの基地に映像を送っただろう?
あいつら独自に解析して発信元を割り出してきたらしい」
「えっ?こっちのアジトがばれたってコト!?」
「そうじゃないんだけど、その・・・」
歯切れの悪い口調に、さすがの明奈もイラッとする。
大事な戦いの前なのだから、用件は要約して伝えてくれれば良いのに。
「はっきり言ってよ」
「そのぉ、さっき向こうから連絡が入ったんだって。
寝坊したからこっちに着くのが一時間くらい遅れるって・・・」
「なっ、なによ、それ!!」
「あいつららしいっちゃー、あいつららしいよ(^^;
アッキーナも少し休んでなよ、昨日からずっと気が張りっぱなしだろ?」
「・・・・・、本当にヤル気をなくさせるのが上手いわよね」
明奈はわざとらしく、おどけたため息をついた。
まさかこれも、遅れてこちらの気を焦らすつもりの作戦なのかしら?
それとも本当に天然?
兄はあんなに真面目で、約束の時間に遅れたことなんてなかったのに。
はっとして明奈は首を振った。
つい兄の事を思い出してしまった、情けない。
たとえコレが作戦だろうが何だろうが、油断なんかしないんだから。
そんな強がりを唱える明奈だったが、頭から幼い日の兄の笑顔が離れなずにいたのだった。
「遅い
」
腕組みした優樹菜が低い声で呟いた。
怒られて当然である。
明日は早いからさっさと寝ろ、と言いつけた剛士を筆頭に男性陣が揃って寝坊してくれたのだ。
(夜中にあれだけ騒いだのだから当然っちゃー当然なのだが)
「だってさー、つーのさん、夜中に奇声出すんだもん。落ち着いて寝れないよ (-з-)ブー」
「それは雄ちゃんの寝相悪いからでしょ!第一雄輔が一人で寝たくないって我が侭いうから、付き合ってあーたのお部屋に泊まったんだからね。文句を言われる筋合いじゃーありません」
「だけどさぁ、変なタイミングで飛び起きたりしてなかった?」
雄輔の他意のない突っ込みに、ドキ!と剛士の心臓が大きく跳ねる。
実を言うと寝つきが悪かったのは雄輔が悪いわけじゃない。
眠りにおちそうになると、とんでもない幻が浮かんできたのだ。
闇よりも黒い瞳を涙で潤ませて、頬を紅潮させた崎本がじぃっと剛士を見詰めてる。
肌蹴た胸元を両手で覆い隠しながら、それでも微動だにせずに熱視線を送ってくる。
そんな姿が目の前に浮かんでくるのだ、これが叫ばずにいられるだろうか?
「しかも2割増しで美少女化してんだよな・・・」
「え?なに?なんか言った?」
「なんでもねーよ、独り言!」
その崎本はといえば、昨晩のコトなんて気にも留めてない様子で直樹の面倒を見てる。
強がってるのかどうかしらないが、とにかく元気そうな姿を見せてくれて助かった。
「はい、これで準備万端ですね」
直樹の着替えを手伝ってあげてる崎本は、普段と変わらない笑顔を見せている。
雄輔と剛士が部屋を出た後、直樹が上手に緊張を解してあげたのだろう。
感謝(-人-;)、と直樹に手を合わせて拝んでいたときだった。
「あ、野久保さん、口元になにか付いてますよ?」
「え?どこ?どのへん??」
慌てて口元を拭う直樹を、崎本は楽しそうに笑いながら眺めてる。
「そっちじゃありません。ちょっと動かないでくださいね」
そう言うと崎本は。
少しばかり背の高い直樹の肩に手をかけて身を乗り出し、直樹の柔らかそうな唇ギリギリに付いていた汚れを、ペロっと舐め取ったのだった。
「?」
「・・・、あまい。野久保さんチョコ食べたでしょ♪」
「あー、ばれちゃった。元気が出るようにってこっそり食べてたのに」
などど軽やかに笑う直樹とは正反対に、衝撃の場面を目の当たりにした兄二人は卒倒しかけていた。
「ささささささっ、崎本ーー!!」
「おめーら、なにしてんだよっ!」
動揺(動顚?)しまくる雄輔と剛士を尻目に、直樹も崎本も平然としていた。
むしろ、なんで二人が騒いでいるのか合点がいかないくらいの呑気さである。
「二人ともそんなに騒がなくても・・・」
「イヤらしい目で見ないでくださいよ。この方が汚れが取れるだろうなって思っただけです」
「まぁったく、すぐにそーゆー目でみるんだからっ」
いやいやいや、端から見てたら誰の目にも大問題なシーンでしたから!
兄の心の突っ込みなど、お花ちゃんズの直樹と崎本には届きそうに無かった。
「で?あいつらは本当にこれから戦いに行く気があんの!!
」
黙って事の成行きを見守っていた優樹菜の怒りゲージは、密かにMAXまで溜まっていた。
優樹菜がヤンキーに先祖がえりをする前に、出動する事を心からお勧めする。
なんかいろいろと引っかかってしまったが、
本当の戦いはこれからだ!
行くぞ、我らの『お台場戦隊、ヘキサレンジャー』!!
続く。