連れて行く覚悟は出来てる。本心は直樹だってそのことを願っているはずだ。
だけどこいつは世の中の杓子定規に捕らわれて、足手まといになるなら行くべきじゃないって決め付けてる。
その決断だって、すごく悩んで苦しんで出したものだろう。
どうしたら、良い?
なにが一番、彼の心を痛めない手段なのだろう。
「それじゃ、直樹はここで待つことを了承してくれるのね」
雄輔がジレンマに陥ってる間に、剛士は淡々と話題を結論に運ぼうとしてる。
どうしよう、このままじゃオレが言い負かされて終っちゃう。
「待ってます。みんなを信じてますから」
無理に笑顔を作ったとバレバレな切ない笑み。
言葉に嘘はない、みんなを信じてる。
でも、何も出来ずにただ待つって、本当に、辛い・・・。
「誰かさんと違って、直ちゃんは聞き分けが良くて本当に助かるよ。安静にして待ってなさい。
で、まあ、明日になって俺らが、もちろんPaboちゃんも一緒に出動する、と。
直樹は司令室のモニターで、サッキーや里香ちゃんと戦況を見守るって形になるかな?
そいで、敵が現れる。やっぱり手強い。俺らが窮地に追い込まれる。
それを見てた直樹が「ボクもやっぱり現場に行く!」って言い出して、サッキーが「分かりました、僕に考えがあります、一緒に現場に行きましょう」ってコトになる。
・・・、あっぶなっかしーよなー。
目の見えてない直樹と、戦い慣れしてないサッキーが緊張と興奮状態のままで来るんだぜ?
下手すりゃ、余計に向こうが有利な状態になっちまうかもしれない」
何の講釈だ、これは?
一同の頭の上に『?』が一個ずつ浮かんでいた。
不可思議な顔つきなる一同を、剛士は面白そうに見渡す。
やっぱりこの人は何か企んでる、と崎本が確信したときだった。
「どーせ危ない目に合うなら、直ちゃんもサッキーも最初から一緒に来なさい。
そのほうがこっちも心構えと対処の仕様があるからさ」
一瞬、部屋の中が静まり返った。
本当に刹那の瞬間だけだったが。
「マジで!つーのさん、本当にノックを連れて行って良いの!!」
突破口のように雄輔の甲高い声が部屋中に響き渡る。
「仕方ないでしょ。この人たちの性格を考えたら、絶対に後から来ちゃいそうだったんだもん。
そのかわし、ちゃんとみんなで守ってあげなさいよ。特に雄ちゃん!」
「わっかりやしたぁ!オイラがしっかり守りますであります!(`・ω・´)ヾビシ!」
「雄ちゃん、ねぇ・・・」
「心配すんなって!ぜってー大丈夫だから。オレラを信じるってノクも言ったべ?
オレラを信じて、一緒に付いて来いって!なっ?」
渋い顔をしていた直樹も、雄輔の意気込みに押されて、うん、と頷いた。
やっと来る気になった直樹に、雄輔は満面の笑みで抱きつく。
余計な心配ばかりする直樹に安心してもらうために、絶対に大丈夫だって肌で感じてもらうために。
力一杯、抱き締めた。
「本気ですか?つるのさん」
そんなラブい二人を尻目に、崎本は緊迫した顔で剛士を見上げる。
いつの間にか自分も巻き込んだ決定を下した人の顔を。
「本気だよ。直樹もお前も連れて行く。どうせサッキーだってそのつもりだったんだろ?」
「出来ればそうしたかったですが、でも・・・」
無理をしても出て行くつもりではあった。
だけど公認してもらって、みんなのお荷物みたいに行くのには躊躇いがあった。
「心配すんなって」
いつもの、自信に溢れたいやらしいくらいの笑みで口元を緩ませてる。
そんな剛士に頭をクシャッて撫でられた。
「お前のことはちゃんと俺が守る。だから大船に乗ったつもりで付いて来い」
でも、って、言いかけた言葉が上手く形にならない。
眩しいくらいに力強い彼の笑顔に、頭に思い付くいろんな事が掻き消されてしまう。
妹と直接話すためにも明日の現場にはどんなことをしても行きたい。
だけど、そのために誰かを煩わせるなんてしてはいけない事なんだ。
崎本の薄い、緋色の唇が何かを伝えようと不自然に動く。
自分の望むことの結末が掴らない崎本を、剛士は愛しさにも似た眼差しで眺めていた。
続く