コール、3回。
電話が掛かってきても最初のワンコールで出ちゃダメなんだって。
行き成り受けると、かけて来たほうが驚くから。
だからすぐに出れても、3回コールされるまで待つの。
昔、誰かに教わったルール。
それを忠実に実行したかのように、3回目のコールが終わった瞬間、そいつは電話に出た。
『もしもし?』
「あ、向井くん、上地だけど」
不審に思われたのか、ちょっとの沈黙。
『珍しいですね、何か用ですか?』
「うん、向井くんにお願いしたい事があってさ。
明日ね、朝から出動しなくちゃいけないんだけど、ノックが怪我して戦える状態じゃないの」
『ノッキー、怪我したんですか?』
怪我させたんですか?と心の声が副声音で聞こえる。
仕方ない、守るって公言したのはオレなんだから。
「うん、ごめん」
『謝る相手が違います。全国の羞恥心ブルーのファンに謝ってください』
ぶっ!そうくるか!
「そうか、じゃ、今度テレビのインタビューとかあったら全国に向って謝っておくよ。
でね、お願いなんだけど、明日さ、ノックが戦闘場所に来ないように見張っていて欲しいんだ」
『僕はお目付け役ですか?』
「他に頼める人居ないし、向井くんの言うことなら、ノックも聞くと思うから」
『・・・、無理でしょうね』
意外に弱気な返事が戻ってきて、少し驚いてしまう。
僕に出来ないことなんてないですよって、それくらい高飛車な答えが来ると思っていたのに。
『ノッキーは自分の怪我を押してでも、貴方たちのところへ行こうとするでしょう。
そういう人種だって、よく知ってるじゃないですか』
「だから、無茶させたくないから、向井くんにストッパーになってほしいんだ」
『お気持ちは分かりますが、一度思い込んだら僕の言うことなんて聞きませんよ。
仮に、ノッキーをベッドに括りつけて出動を阻止を試みたとしましょう。
無理矢理押さえ込めば、危ないところに出て行くことは防げます、ですが・・』
「え?なに?向井くんがノックを無理矢理ベッドに押さえつける??」
『どーゆー耳をしているんですかっ!
そんな卑猥な話をしているんじゃありません!!』
だって向井くん、話が回りくどいんだもん。。。
頭の良い人ってなんで余計な事を沢山言うんだろ?
『まったく、頭を整理して聞いてください。
ノッキーに、貴方たちと共に戦いたいから死んでもいいから行かせてくれと本気で懇願されたら、僕は余計な邪魔なんて出来ないです。
この件に関しては、悔しいけれど僕は常に部外者だ。
彼の真摯な思いを妨害する権利なんて持ってないのですよ』
「向井くん・・・」
『それに下手な事をしてノッキーに嫌われたくないですし』
「結局、オチはそこーーー!!?」
『そこもどこもないでしょう?
上地さんに聞きますけどね、逆の立場だったら頑固にノッキーを阻止できますか?
彼が望む事を力尽くで諦めさせるなんてコト、できるんですか?』
ノックが、自分の大切な人のために行きたいって言われたら。
ノックが危険な目に遭うって分かっていたとしても、彼の気持ちをねじ曲げるなんて、やっぱり。
「出来ない、と思う」
ほらね、と勝ち気なためいきが聞こえて、なんだか複雑な気分になる。
つまり彼の方がノックの性格を理解してるって事??
『僕の言うことなんてね、聞くはず無いんですよ。
彼にとってあなた方は命より大切な仲間なんですから。
まったく、毎度毎度焼かせてくれますね』
「やく?」
『はっきり言わせますか?
嫉妬してるってことです。とーっても仲の良いあなた達に僕はいっつも嫉妬してます』
「うっそっ!」
嫉妬なんて低次元なこと、絶対にしないと思っていた。
ううん、もしそうだとしても、自分から暴露なんてしないって、そう思っていた。
『ああもう、毎回悔しがってますよ。僕のノッキーはあんな危険な場所にいても楽しそうだって。
大好きな人たちと一緒にいるから、どんな状況でも笑っていられるんだって。
そんな姿を見せつけられて、嫉妬せずにいられますか?』
ん?冒頭ですごく引っかかることを言われた気がするけど、もう覚えてない(^^;
でもでも第三者から見ても、ノクがオレらと一緒にいても楽しそうって言って貰えるのは、やっぱりすっごく嬉しい♪
「ノックもよく向井くんのこと、話してるよー。なんでも出来る頼もしい友達だって^^」
『そんなフォロー、いりません。・・・、ちょっと長話が過ぎたようですね。
結論から言わせて頂ければ、僕はノッキーを止めませんし、止められると思ってません。
だからあなたが、ノッキーが自分の身を犠牲にしても守りたいと願うあなた達が、彼を守って下さい。
安全なところに隠れていて、なんて特別扱いに大人しく従う人間じゃないですから、もう諦めて一緒に危険な橋を渡って下さい。
それが、野久保くんの望むこと、なんです』
いつだって無理して、大丈夫だよって、笑顔を見せる。
それがたまに辛い。
でも、オレらと一緒に居るための無理だって知ってるから、だから無理するなって言えなくなる。
オレだって、ずっと一緒に笑っていたいって思っているから。
「分かった、あいつが来るって言うなら反対しない。
今度こそ絶対に守る。そんで一緒に帰って来る」
『それでこそ貴方らしい。
なんの確証のない未来を無謀に信じれる、その思い込みが貴方達の最大の力だ』
・・・。
『なにか?』
「褒められてるのか馬鹿にされてんのか、なんかすごく微妙なんだけど」
『そんなの受け止め方次第でしょう。お好きなように解釈してください』
最後にまた高飛車に笑われた。
オレよりそうとう年下のはずなのに、なんか常に上から目線なんだけど・・・。
ま、いっか。
これで腹が決まった。
無茶でも無謀でも、あいつと一緒に行く。
本当は、来てほしくない。安全なところで待っていて欲しい。
でもどうしてもあいつが来るって言うなら、笑って一緒に危険な橋を渡るだけだ。
何も恐くない。
仲間が居て、笑顔があれば何も恐がる必要はない。
笑って笑って、最後のときも一緒に笑っていよう。
いつか、みんなの記憶の中にしか残れない存在になっても、
あいつらは戦っている最中でも笑っていたなぁって思い出してもらえる正義の味方でいよう。
オレらは負けることを知らない『無敵艦隊 羞恥心』。
どんな危機的状況でも負けたって認めないうちは無敵でいられるはずだ。
『明日のニュース速報、楽しみにしてますよ』
「まーかせて!全国ネット使って勝利報告するから!」
そして君に必ず届けるよ。
あいつが笑顔でいる姿を、ね。
続く。