『HANE~second season~』③ | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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ご注意下さい!!私のブログは『愛』と『毒舌』と『突っ込み』と『妄想』で出来上がってます!!記事を読む前に覚悟を決めてくださいね(^^;。よろしくお願いします☆

翌朝のボクの第一使命は、母が起こしに来る前に目を覚ます、ということだった。

別に布団が敷いてあるのに、一つのベッドで抱き合って寝てるなんて怪しすぎる・・・。

(何も疚しいことはしてないですよ、お母さん!!)


妙な緊張があったせいか、それとも習慣ついてるのか、ボクは仕事があるときと同じ時間に目が覚めてしまった。

まだちょっと寝足りない気もするけど、このまま一応意識は保っておこう(^^;

隣では雄ちゃんが手足を小さく折り曲げた姿勢で、ボクにぴったりと寄り添っている。

本当に小さな子供が寝ているみたい。


雄ちゃんの寝息が頬に当ってくすぐったい。

こんなに密着して寝るほうが疲れるだろうと思うのだけど、雄ちゃんは体温を強請るようにボクに引っ付いて寝ている。


怖いのかな。


ふと、そんな考えが頭に浮かんだ。

理由は分からないけど、雄ちゃんは何かに脅えているようにも見えたのだ。


守ってあげたい、支えてあげたい。

出来る事がたとえ微力でしかなくても、可能なこと全てを彼に捧げたかった。

昨晩、雄ちゃんがボクにごめんといった真意は未だに分からない。

待たせるばかりで何も返せないから、と言う意味なのだろか。


「ボクのほうこそごめんね。待ってることしか出来なくて・・・」



起きている雄ちゃんには決して言えない言葉を、ボクの本心を、まだ夢の世界を彷徨っている彼の寝顔にそっと呟いた。

面と向かって謝れば彼を追い詰めてしまう。

だから今のうちに何も出来ない自分の不甲斐無さや口惜しさを、吐き出しておきたかった。

ただ笑顔で待つしかできない、自分への怒りや憤り。

雄ちゃんには知られたくない一面を、知らせてはいけない葛藤を、唇を強く噛み締めてやり過ごす。


神様、どうかお願いです。

夢の中では雄ちゃんが誰よりも幸せでありますように・・・・。











帰りは駅からの路線で分かれたほうが(主に雄ちゃんの)交通の便が良かったので、別々で帰路に着くことにした。

一人きりで遠路を旅することになるボクを心配して雄ちゃんは何度も大丈夫かと聞いてきたが、そのたびに、流石に帰るだけなら問題ないよ、とボクは笑いながら返事をする。

電車の時間ギリギリまでボクは思い出の場所を案内して、今までしなかった話も沢山した。

気が付くと手を繋いでる事が多くて、その度にボクらは照れながら手を離した。


別れるまでは出来るだけ近くにいたかったのかも知れない。



列車の時間の都合で、またもボクが雄ちゃんを見送ることになった。

あの時と同じだけど、今回は周りに人が多すぎる。

迂闊な行動は白い目で見られる結果になるだろう。


ボクらは最後まで下らない話をして、普通に笑って握手して、またなって言い合った。

ホームに入ってきた列車に雄ちゃんが乗り込む。


次はいつ会えるのだろう?会うことが出来るのだろう?


ボクのそんな弱気な考えが、雄ちゃんに伝わってしまったらしい。

彼は今日始めて、辛そうな顔をボクに見せた。

駄目だな、雄ちゃんの生きる意味になるって決めたのに、こんなふうに悲しませるなんて・・・。


「ノック」


だけど雄ちゃんは、もう笑顔に戻っていた。

プラットフォームに発車のベルが鳴り響く。

けたたましいはずの音に負けず、雄ちゃんの声はしっかりとボクの耳に届いた。


「覚えておいて。

オレは全部全部ノックのものだからっ。

髪の毛一本も、指の爪一枚も、血の一滴だって全部ノックのもんだから!

もう何にも残ってないかもしれないけど、いろいろ使い切っちゃったかも知んないけど、

ここに居る上地雄輔を、丸ごとお前にやるからな!」


突然の告白にボクが呆気に取られて固まっていると、雄ちゃんは列車から飛び降りて

硬直したボクの体と心をまとめてギュって、一瞬だけ抱き締めた。

そして雄ちゃんが慌てて列車に戻ったのと同じタイミングで、電動のドアが目の前で閉まっていった。


ボクと雄ちゃんを遮る無情な鉄の扉。

その向こう側で雄ちゃんは、とても満足げに笑っていた。

悪戯が成功した子供みたいに、無邪気に無垢に笑っていた。


「ずるい・・・」


ボクの呟きが聞こえるはずはない。

だけど雄ちゃんは全部分かったみたいに、ワリィって両手を合わせてウインクして見せた。

うそつき。

悪いなんて欠片も思ってないくせに。

してやったりって上機嫌でいるくせに。


列車は時刻表どおりに発車して、次第にスピードを増しながら小さくなっていく。

視界から列車の姿が完全に消えると、ボクの目からゆっくりゆっくりと涙が零れた。



離れたくないよ。



初めて、本気でそう思った。





続く。