注意!
これから先の文章は司さんのフィクションです。
現実に似た人がいても全く関係ないので、混同しないで下さい。
それを守れるという人だけ、妄想の世界へどうぞ・・・( ´艸`)ムププ
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もう完全に冬の外気だ。
この前まで海に逃げたいとか、紅葉が遅いとか、そんな話をしていたのに、一足飛びで冬の寒さがやってきた。
街の様子も、オレンジの陽気なカボチャが片付けられた途端、赤と緑のクリスマスカラーに染まり始めてる。
どうしてそんな急いで時間を進めようとするのだろう?
時間に追いかけられている雄輔の漏らしたため息は、真っ白に変わって辺りに解けていった。
見上げれば冴えた星がいくつも冷えた光を投げかけている。
あっという間に一年の終わりが近づいていた。
今年の夏からの記憶があいまいで、雄輔は首を傾げてしまう。
『来年の夏も、みんなで花火しよーね』
昨年、楽しい夏の宴の終盤で、優樹菜が泣きそうな顔をして呟いていた。
でっかいお祭りにしてやるから楽しみにしておけなんて言ったのに、結局は何もしてやれなかった。
個人的にお祭りはいくつか開催できたが、あのとき見えていたのは違うお祭りだ。
海に連れて行く、というスザンヌとの約束も反故にしたままである。
申し訳ないなぁと思ったので、今年の誕生日プレゼントは奮発した。
渡すことしか出来なかったけど、すっごく喜んでくれたことがわかるメールが帰ってきて、気分が良くなってつい、彼女の画像付きのブログをあげてしまった。
それが、まずかった。
あっちこっちからお叱りのメールと突っ込みが山のように来てしまった。
別に他意はなかったのに、どーみても“そーゆう関係”に見える、というのだ。
去年、直樹と一緒に楽屋でプレゼントを渡したのは微笑ましくて、一人でプライベートなパーティに入っていって渡すのはまずいらしい。
その差は、なんだと言うのか?
大事な仲間に、生まれてきてくれてありがとうって伝えたいだけなのに。
納得もいかなかったが、自分の不用意な行動で仲間を煩わせるのも悪いと思ったので、まいにサプライズプレゼントを渡したときは「俺からって言うな」と釘を刺した。
確かに、まいは雄輔から、とは言わなかった。
が、
そのブログの内容を読むと、どーしたって雄輔の影が見える。
わざとか?と疑うくらいだ。
案の定、コメントには『雄ちゃんからかな?』という書き込みが多くあった。
おい、バレてんじゃんかよ(-""-;)って思っていたら、向こうも(やっと)察してくれたみたいで、『プレゼントは事務所のスタッフさんから』と適当な言い訳を付けておいてくれた。
かなり、疑いの余地がある言い訳だが。
ふう・・・と息を吐き出す。
白く変化したそれは、顔の近くにまとわりながらゆっくりと消えていった。
俺は、ちゃんと守れているのか?
あの日、あの海辺で。
仲間たちと一緒に笑いあったときに誓ったはずだ。
こいつらは絶対に悲しませない。
何があってもこいつらの笑顔は守ってやる。
そう思ったはずなのに、あれから沢山泣いて泣かせて、無理な笑顔を作らせて。
小さな約束ひとつ、実行してあげれなかった。
俺は、こんな何も出来ない男だったのか。
吹き抜ける風に、首もとのマフラーを持っていかれそうになる。
寒い、頬が凍りつきそうだ。
まだ11月だってのに、意地悪みたいな寒さが手足に染みてくる。
いい加減にしてくれ、と寒さを紛らわすためにその場で足踏み、なんてはじめた。
「お待たせ、雄ちゃん」
あ、と思って振り返ると、しっかりコートを着込んだ直樹が立っていた。
彼の笑顔を見ただけで、ほっと暖かいものが溢れてくる。
「おーそーいー!!オレ、凍え死ぬかと思ったよっ」
「仕方ないじゃん、こんな時間しかみんな空いてないんだし。っていうか、雄ちゃんのスケジュールが一番悪いんだよ?言いだしっぺのくせに、駄目な日が多過ぎ」
「スケジュールのことは、しばんちょに言ってよ!オレだってもっとよゆーが欲しいよっ」
はいはいって直樹が肩に手を置いて笑った。
人の肩に手を置くくせ、まだ直ってない。
・・・・暖かいから、直さなくてもいいけど。
「あーー!のっくん、おひさしぃー」
「ユースケが時間前に来てる!明日は雨だっ!」
近所迷惑甚だしいキンキンの声とともに、女性陣が姿を現した。
よく見ると、いつもはばっちり決めてる化粧がなんだか手抜きで、なおさらあの夏の夜のことが思い出される。
あのときも合宿打ち上げの後に集まったから、かなり素顔に近い状態でいたんだっけ。
「おー、なんだ、オレで最後かぁ?」
そして約束した時間ぴったりに、剛士が現れて全員集合となった。
服装がずいぶんと重装備だけど、あんときとおんなじ顔。
崎本、も呼んであげようかと思ったけど、ごめんした。
約束のケリは、この面子だけでつけたかったから。
「じゃー、始めますか!秋の夜更けの花火大会~~!!」
「ちゅーか、もう冬じゃ!!」
剛士の突っ込みに笑いが起こる。
夏にできなかった花火。
年末に向けて忙しくなる前に、どうしても皆とやっておきたかった。
あのときよりも沢山用意した花火をみんなで好きなように持って、あっちこっちと綺麗な色の火花を散らした。
海からの風は予想以上に強くて冷たい。
だけどそんなものに負けないくらい、はしゃいで声を上げて笑った。
七色の光、燻る煙、飛び散る火花、その向こうに変わることの無い笑顔。
優樹菜が、去年なんで泣きそうな顔をしていたか分かった気がした。
いつまでこうして、一塊になって遊んでいられるのか不安になったからだ。
大事な仲間だ。
困っているときは助けてやりたい。
嬉しいことがあったら、一緒に喜んであげたい。
悩みがあったら傍に行って励ましたい。
絶対に絶対に一人じゃないって、いつでもどこでも伝えてあげたい。
そんな大層なことじゃなくても、ただこうやって笑いあって気楽に遊んだり出来れば、それで充分な気心知れた仲間だった。
だけど、こんなふうに集まって花火ひとつするのだって、いろんな障害と制約に邪魔される。
忙しいのは仕方ないけど、バレないようにこっそりしなくちゃいけないなんて、間違ってる。
ただ、大好きな人たちと一緒に居たいだけなのに。。。。
「雄輔」
小さく剛士に呼ばれて、何?って顔を上げると、そのまま頭を掴れてグイっと引き寄せられた。
なんの戯れだろうって思っているうちに、片腕でしっかりと抱きかかえられる。
目を合わせず、あっちの方向を向いた剛士が、軽くため息をついてから呟いた。
「お前が泣くな。唐突に泣かれると、こっちもどーして良いか分からん」
えっ?って驚いて頬を手の平で擦ると、何だか湿気たものに触れた。
やっぱり泣いてたんだと思うと、今度は恥ずかしくて顔が上げられなくなって、仕方ないから剛士の肩に額を当てたままで泣かせてもらった。
剛士があやすように髪を撫でてくれてる。
まいやスザンヌが、下から顔を覗き込んできた。(やめれー!)
直樹も優樹菜も、傍に居てよしよしって背中や肩を摩ってくれてて、守りたいって思ってた人たちは、俺のコトを守ろうって思ってくれてた人たちだった。
ごめんね、って声が聞こえた。
浜風に交じって微かだったけど、確かに聞こえた。
オレは聞こえないふりをして、みんなに囲まれて泣いていた。
あったかいよ。
本当だよ。
居てくれるだけで、オレには『ありがとう』なんだよ。
こんな単純な感情なのに、どうやって伝えたら良いか、よく分からない。
伝え方を選ばないと余計な騒動を起こすので、とっても難しい問題だ。
でもオレは声を大にして、心の底から叫びたいんだ。
みんなのことが、一人ひとり大事で大切で、大好きなんだよって。
生まれてきてくれて、俺を見つけてくれて、
ほんとにほんとに
ありがとう。