このお話はフィクションです。
似ている人がいても、それは貴方の気の迷いです。
ここから先は司さんの妄想を覗き見していると理解して進んでください。
間違っても現実世界と混同しないように、ね。('-^*)/
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どんよりと、重たい雲が空を覆っている。
天気予報は昨日から雨になる雨になると繰り返しているが、実際は憂鬱な空模様を残すだけで一向に雨なんて降ってこない。
いっそ振り出してくれたら、諦めもつくのにと苦々しく空を見上げるのだった。
太陽、が見れない。お日様が捕まえらんない。元気がチャージできない。
つまんないよ~と言いたげに、雄輔は机に突っ伏して不貞腐れていた。
押し迫る年の暮れ。
案の定忙しさは加速するばかりで、時間ばかりが過ぎていく。
そのくせこんな風に収録前の中途半端な空き時間とかが出来るのだから溜まったもんじゃない。
持て余した暇をどうするかと、携帯を手に取ってみる。
こんなときに限って何処からもメールが来ない。
楽屋のメンバーと一緒に居るところをブログにアップしても良いのだけれど、書きたいネタや話があるわけでもないのに無理に更新するもの違う気がして止めた。
「早いな、もう一年か」
同じようになんとなく手持ち無沙汰な剛士が呟いた。
彼の言う『一年』がどこにかかのか、判断に困る。
一年、いろんなコトがあった。
去年も同じようにいろんなコトがあったと言っていたけど、内容が全然違っていた。
「今年ももうすぐ終るんだよ~♪」
「そっちの一年じゃなくて、ほら、あんときからさ」
「あぁ(・∀・)
」
携帯のカレンダーを見る。
確かに丁度一年くらいだ。
羞恥心のファーストステージ終了を言い渡された日から。
何があんなに嫌で寂しかったのか、今になるとよく分からない。
解散でも撤収でもなくて『羞恥心』って名前も残って。
三人揃って一緒に番組も出るって決まってるのに、とにかく悲しかった。
よりによってそのとき歌っていた『弱虫サンタ』の歌詞がまた泣かせる。
「好きでも居れないトキがある」ってまさに俺たちじゃん!
なんてこっぱずかしいことを考えてたりした。
実際に、あの歌を歌うのが辛いくらいで。
身体がしんどくても、三人で居る時間がすごく大切だったんだと思い知らされた。
「あの衣装さ、ハンガーに掛けてあるのを見たときは雄輔に似合いそうだなって思ったんだけど、実際に着てみたらびみょう~だったな」
「あーた、人のコト言えないでしょ!」
「オレがあんな可愛い衣装似合ってどーすんだよ!結局あの衣装を着こなせてたのって、直樹だけだったなぁ」
懐かしむように、だけど変に気負いもせずに直樹の名前を口にする剛士を、雄輔は眩しそうに見上げて、うん、と小さく頷いた。
あの手術の前に、もう一度直樹に会っておきたかった。
だけどさすがに正規の面会時間に自由な時間は取れず、かと言ってまた時間外に押しかけるのは確実に病院に迷惑をかけてしまうので、泣く泣く雄輔は直樹に会いに行くのを諦めたのだ。
メール、だけは送った。
長く書くと直樹を惑わせそうだったので、一言、『待ってるから』とだけ打ち込んで。
それが少しでも彼の勇気になってくれたら、それ以上は望まなかった。
悔しいことに、剛士はちゃんと前から手術のことを知っていたらしい。
自分が会いに行った直後、彼も直樹の病室を訪れていた。
さらに付き添いと称して病室に泊り込んだこともあるそうだ。
どうやって?と聞いたら、提出書類の続柄に『兄』と書いたら受理してくれたらしい。
有り得ないとぼやく雄輔に、夜明けと共に病院に乱入するお前のほうが有り得ない、と返されてしまった。
病院側にしてみたら、どっちもどっちの迷惑な話だが。
「すみませ~ん、スタジオの準備ができました」
スタッフの声に話しが寸断されて、その楽屋にいた出演者がぞろぞろと移動を始めた。
お仕事、に気持ちを切り替える。
なのに、
深く息を吸い込んだ瞬間、脳裏に直樹の泣き顔がフラッシュバックした。
何時だって何かを耐えるように泣いていた直樹。
もっと感情を爆発させて泣いてくれたら、ずっと楽になるだろうに、彼にはそれが出来なかった。
そうさせてやれなかった自分の不甲斐無さが、情けなかった。
自分の荷物の隣に置き去りにした携帯に目を向ける。
相変わらず、誰からもメールが来ない。
こんな日に構ってもらえないのは、すごく寂しい。
年末に多くなる特番の余波で、レギュラー出演者とか収録の都合の調整とかが絡み、地獄の3本撮りの強行スケジュールが組まれていた。
入れ替わりで休める出演者もいたが、雄輔と剛士(と崎本)は番組の視聴率稼ぎに欠かせない存在なので、容赦無用で出ずっぱりである。
若い崎本はともかく、雄輔も剛士も最後は勘弁してくれという状況だったが、なんとか笑顔とヤケクソのハイテンションで乗り切った。
一年前は剛士のライバルみたいに登場した崎本も、どうにか剛士に慣れてきた。
剛士も子役時代を知っている崎本は『息子』みたいに可愛いらしい。
まだ緊張気味の彼に、気にしてるよ、とささやかな合図をいつも送ってあげていた。
少しずつ変わる。
でも変えられないモノもある。
自分は多分、剛士ほど器用ではない。
きっと、あの三人以外で他の誰かと歌うことは出来ない。
あの居場所は特別だったんだと、時間が過ぎるたびに実感する。
過去に捕らわれても意味がないと分かっていても、どうしてもソコに拘る自分が居る。
お前はそれで良いんじゃない?
剛士はそう言ってくれた。
気にしてない振りをして、彼もあの時を忘れられないことを雄輔は知っていた。
一年間、長かった。
いろんなものを失った気がする。
失う中で、何が大切なのか改めて気が付く、そんな一年だった。
夜も遅い時間になって、ようやく全収録が終わった。
肩や腰を解しながら楽屋に戻る姿に、もう若くねーなーと剛士と苦笑しながら言い合った。
年が明けたら、剛士ともしばらく会えなくなる。
会おうと思ったらいくらでも会えるのだろうけど、雄輔を取り巻く環境がそう簡単に軟化するとは思えない。
寂しくなる。
帰って来ると分かっているのに、こんなにも切ない。
たった二ヶ月って分かっているのに、寂しくて仕方ない。
そんな気持ちを誤魔化しながら楽屋に戻った。
出しっ放しだった携帯に、やっと誰かからメールが入った証が点滅してる。
嬉しくなって慌てて携帯を開いて受信箱を確認した。
動きが止まった。
一瞬、それ以上進めなくなった。
はやる気持ちを抑えながら、表示ボタンを押す。
件名:『ただいま (=^▽^=) 』
本文:『退院できる日、決まったよ♪クリスマスには間に合うから、お祝いしてね』
発信者は、直樹、だった。
自然と口角が上がって、目尻が下がってしまう。
だらしない笑い顔になっているだろうけど、そんなの関係なかった。
「お、直樹の退院、決まったんだ」
同じメールを受け取ったらしい剛士が呟いた。
振り返ってみたら、親父の顔して笑っていた。
『溺愛』って文字が浮かびそうな、甘ったれた笑顔だった。
また三人で向い合って笑える日が来る。
いや、ずっと待っていたやっと日が来たのだ。
一年は長かった。
でもこれからもっと長い時間を一緒に重ねていこう。
おれらはずっと、三人で無敵艦隊なんだから。
Fin.