おさむちゃん、はい! | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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ご注意下さい!!私のブログは『愛』と『毒舌』と『突っ込み』と『妄想』で出来上がってます!!記事を読む前に覚悟を決めてくださいね(^^;。よろしくお願いします☆

以下の文面はフィクションです。

実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。

似てる人が居ても、それは偶然の一致です。

ですので、どっかに通報したりチクったりしないでください★

・・・、頼むよ、マジで (ToT)




って、実は一ヶ月くらい前に書いたまま放置されてた原文☆

タイトルを読むと分かるように、理ちゃんが出てくるお話なんですけど、

同時期にヘキサレンジャーで『その男、完璧につき』で理ちゃんが

オンパレードしてたから、公開を伸ばしてそのまま忘れてました。

すまん、おさむ。

微妙に時間が古いですが、気にせずに読んでくださ~い。



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つねにお小言ですね。


 向井のあっさりした返事に、剛士は答えに適した言葉を咄嗟に見つけられなかった。

 某局で偶然向井と出会って、時間があるならお茶でも、と先に誘ったのはどっちだったか。

 なんとなくの話の流れでそうなったような気がする。

 ドラマの共演話や近況報告みたいな世間話の後に、そういえば直樹とどんなこと話しているの?

と興味本位で聞いた答えが、さきほどの一刀両断の一言だ。

 思い出してみると「おさむちゃんにまた叱られちゃった(^▽^;)」とよく直樹も言っていた。


「基本的に、僕は怒っているんですよ」


 落ち着いた低い声でそう呟かれると、こっちが説教されてる気分になる。

 もしや、面倒な相手に間の悪い質問をしてしまったのだろうか?


「直樹って、そんなに頼りない?」


 当たり障り無いところに話題を持って行こうとしたら、あのクールな眼差しで睨まれてしまった。

 崎本の高飛車はキャラだが、こっちは本物の迫力がある。


「はぐらかさないでください。みなまで言わなくても、僕が言いたいことくらい分かるでしょう?」


 分かってるから、はぐらかそうとしたんですが。。。

 などと正直なことを言ったら、火に油を注ぐだけなのは目に見えていたので黙っていた。


「そうやってあなた達が甘やかすから、野久保くんが突っ走っちゃうんです。

 一度走り出したら結果に行き着くまで、頑固に押し通す性格なんですよ、彼は!」

「いや、そこらへんは俺らもよく知ってるけどね」

「じゃ、なんで止めなかったんですか?」


 痛いところを容赦なく突っ込んでくるなぁと、冷や汗をかきながら愛想笑いを浮かべた。

 淡々と語る分、秘めたものが背中ににじみ出てるみたいで尚更怖い。

 本気、なんだ。


「僕はきちんと最初に反対しましたからね。

 事務所と拗れてやっていけるほど甘い世界じゃないって、つるのさんならご存じでしょ?

 僕らの仕事は、人前に立ってやっと成立するんです。

 どんなに歯痒い思いをしても、その立場を守ることが第一だと思いますが」

「あの、確かに向井くんの言うことも正しいけど、あいつも相当いろんなことが・・・」


 口を挟んだ途端、あの刺すように冷たい視線が襲ってきた。

 この子、オレより年下なのに、この脅迫するような迫力はなんなんだ??


「自分ばっかりが何でも話してもらってるって自惚れないで下さい。僕だって彼から聞いてますよ。

 真面目なあいつですから、どんだけ傷付いて失望したか、ちゃんと見てます。

 だけど、こっちの望むようにして貰えないなら辞めますって、そんな簡単な事じゃないでしょう?」


 荒げた声のトーンが思わず大きくなってしまい、辺りの人間がちらっとこちらに視線を送る。

 同じ業界の者しかいない場所だが、聞き耳を立てられて嬉しい話をしているわけではないので、

向井はひとつ咳払いをしてから、声を潜めるようにして話しを続けた。


「あなたたちが歌ったんじゃないですか。『環境のせいにしない、オレが会社変えてやる』って。

 たった数ヶ月足掻いて抵抗して、それで駄目だったって諦めて辞めるんですか?

 何十社も受けた中から、唯一拾ってくれた事務所を」


 まったく、とでも言いたげに、彼は髪をかき上げた。

 短く切りそろえられた、清潔そうな黒い髪。

 彼だって直樹に負けず、潔癖な性格をしているように見えた。

 

「何が一番腹立たしいって、自分の信念を貫くために、彼を支えてくれた多くの人を

 彼自身が悲しませ傷つける結果になったってことですよ」


 何かに想いを馳せるように、目を伏せる。

 向井も分かっていたはずだ。

 そうでもしなければ、直樹は直樹で居られなくなっていた。

 周りには「もっと利口に生きろよ」と軽々しく言えて実行出来る人間が沢山居るだろう。

 だけど、不器用に愚直にしか生きれないのが、直樹なのだ。


「見えてなくちゃいけないんです。自分の些細な行動やたった一言の言葉が、

 どれだけ多くの人を巻き込んで煩わせてしまうかってことを・・・」


 そして彼も、巻き込まれた人間の一人だ。

 どうしてもファミリーと呼ばれた人のほうが目立ってしまうが、彼のように昔馴染みの人間が

人知れずに心を痛めていることを知っている者は少ないだろう。


「そんだけ、本気で怒ってて」


 話し始めた途端に苦笑が零れてしまって、苛立たしい顔の向井にまたも睨まれてしまった。

 きっと彼は直樹のことを思い出すたびに頭をカッカとさせているのだろう。

 何をやってくれたんだって、愚痴と怒りを口の中で繰り返して。


「誰よりも早くに、直樹は元気ですってブログに書いちゃったんだ」


 うっ、と向井は初めて返事に詰まった。

 軽はずみのような直樹の行動を、認めることも許すことも出来ないくせに、

放り出して見捨てることなんてとても出来なかった向井。

 いや、本気で直樹を心配し気遣っているからこそ、同じ分だけの怒りの感情が生まれるのだろう。


「ぼくは『ノッキー』って書いただけで、『野久保直樹』なんて書いてませんから。

 のぎさんとかのぶゆきさんとか、別の人のことを指してるかもしれないでしょ」


 それはそうだが、その後ろにご丁寧に(羞恥心)って付けといて、他に誰を連想しろと言うのだろうか。


「この話題自体が【薮蛇】だから深く聞かないけど、キミの英断のおかげで雄輔がえらく凹んでたよ。

 先越されたー!って。あいつもみんなに報告したかったのを、いろいろ我慢してたからね」


 その結果、負けじと『青』と分かりやすく、自分達共有のニックネームで書いたのだ。

 まったく、愛されてるよ、直ちゃんは。


「まあ、大事にするばっかが優しさじゃないし?

 直樹みたいなタイプにはお目付け役というか、叱ってあげる人間も必要だと思うよ」


 にやにやと不適に笑う剛士は、まるでオニの首でも取ったようだ。

 はあ~と深くため息をついてから、向井は天を仰いだ。

 天井に遮られている空と、そこに泳ぐ雲を探しているような眼差しだった。


「1つの出来事に含まれている意味なんて、見方や解釈の仕方で無限に広がるんです。

 どこかのお子様探偵は『真実はいつも1つ』なんて言ってますが、僕に言わせれば

 『事実は1つでも真実は1つじゃない』ってとこですね。

 見えないなら、彼の目に映らない真実を僕が教えてあげますよ、叱咤激励込みで」


 そしてチラッと、剛士に目配せをした。

 含みの多そうな、いやらしー目線で。


「なんならつるのさんにもご指導いたしましょうか?」

「じょーだん!オレは自分で見つけるからほっといてくれよ!」


 慌てて首を振る剛士に、残念だなーとだけ向井は呟いた。

 この顔合わせの勝敗はどうやらドローで終わりそうだ。

 噂に違わず一筋縄ではいかないヤツだ、と思ったのはお互い様。

 

 そして二人は、申し合わせたように冷めた珈琲を一口すすり、

 来たときと同じようにどちらともなく席を立った。

 次に逢うときは、きっと直樹がまんなかで仲裁役になっているだろう。

 そのときの再会を楽しみに、二人は意味ありげな視線を交わして、

 別々の方向へと別れて歩いて行った。

 

 直樹、今度はお前も一緒に居ろよ。

 お前の目の前ではあの人がどんな顔をするのか、すっごく興味が沸いたんだ。

 きっといつのもポーカーフェイスで、だけど瞳だけは優しい温度を滲ませて、

そんなふうにお前を見ているんだろうな。


 いつか訪れるだろう場面を想像してにやける剛士だったが、

自分だって直樹の前では相当甘い顔をしている事実を知らなかった。





終る。