新しく出た巨匠クライスラーの評伝。未読ですがタイトルのみご紹介しておきます。

音楽ファンの中には、演奏における芸術性と人間性(人としての深みや味)は別物だということを殊更に強調したがる人があります。演奏レベルが話にならないほどお粗末ならば一応これは尤もな話と言えるでしょうが、優れたアーティストであればあるほど、両者は楽曲を通じて分かちがたい一体の像として我々の眼前に現れるようになります。技術を精錬したからと言って、それに反比例して人間的な味が希薄になったりはしない。一流の大家になれば、芸の深さはすなわち奏者の生身の人間としての懐の深さを示す。クライスラーのヴァイオリン演奏はまさしく雄弁にその事を証しているように思われます。

 ヴァイオリンの真の王者はハイフェッツでなくクライスラー。価値観は色々あるにしても、古典音楽やヴァイオリンという楽器そのものの薫化の力を信じてレコードを聴く人には、この事は容易に理解されるだろうと思います。どちらも好きな奏者ではありますが、音に宿る人間としての器量や佇まい、そして品性、教養はやはり段違いと言うしかない。また私は、彼の書き遺した多くのヴァイオリンの小品についても、ほとんどの場合クライスラー本人の弾いた演奏を一番好む者です。

変幻自在、融通無碍・・贅言を尽くしてなお言い尽くせない魅力を秘めたヴァイオリニスト、クライスラーの生涯を詳しく辿った評伝。読むのが楽しみです。