以前は福村出版から出ていた安岡正篤先生の名著『百朝集』が、このたび装い新たにして致知出版社から発刊されました。私は福村出版の旧版をよくカバンに入れて持ち歩いていたのですが、新版の方はソフトカバーでかつコンパクトなので、携行には大変便利になります(内容の重さから言うなら、旧版のようなハードカバーの装丁が似合う著書ですが)。
安岡師は、独立独歩とも言うべき一生を通した在野の碩学。人物紹介では陽明学者とか東洋政治学者などと呼ばれますが、実際はその肩書きに収まり切らないほど知識と視野が広く、洋の東西にわたる先哲の優れた文献に精通していました。

下はこの一冊中、最も生活、人格の根本的改善に益のある項「朝の心」です。
There is only the morning in all things.
萬事要する所唯朝のみ。 朝こそすべて。
英国格言

今の季節は日の出が早く、曾國藩の言うように黎明即起とまでは行かない(笑)。
ですが、可能なだけ早起きして、直ぐにカーテンを開け、中村天風さんの作った誦句「今日一日、怒らず、怖れず、悲しまず」云々を口ずさむ。そして、屋外がまだ静かなうちにジョギングに繰り出す。
戻ったら軽くヨガをやり、なお時間に余裕のある時は少しだけ本を読む・・(安岡師は30分でよいから古典を読みなさいと言っている)。

たったこれだけで、一日の気分は前向きになり、下らない雑念や妄念が取り払われて良い仕事ができる。能率も上がる。言ってみれば、見るもの聴くもの全部に対する五感が冴えてくるわけで、例えば同じレコードをかけていても音楽の美質が精細に感じ取れるようになる。これは私の場合、楽器を扱う職務の上でも重要な問題になります。

昔の自分の経験から言うと、夜更かしをする時は人より一日を長く生きている気になり、其処にある種の優越感が生まれるものです。浅はかな話ですが、朝は時間ぎりぎりまで布団から出ないような毎日を送っていると、生き方、考え方が自己中心になりやすい。社会の一員として、何か善いおこないをしようという健全な意識はどうしても薄らいで行きます。
だから少々無理をしても、先ずは早起きから。今この瞬間に津波が押し寄せると聞けば、誰だって跳ね起きる力ぐらいはあるものです。身体のせいではない。とりわけ私のような怠け者は、意識的にこうした書を読み、併せて心身を鍛えることを続けた方がいいようですね。