モーツァルトのピュアな旋律に自然に溶け込むということは非常に難しい。K.334のメヌエットは耳に親しみやすい曲ですが、中間部の器楽的な音型には細かなポジション移動があって、技巧の安定を保つだけでもなかなか容易ではありません。
その旋律を、メニューインは豊かな美音でもって実に伸びやかに奏でます。ロマン派から二十世紀の大曲までを縦横に弾きこなす名手としてはさして大仕事ではないでしょうが、技巧家的な奢りが微塵もないところに奏者の誠実さが現れている。人間の品性でこそ作ることのできる清々しい音楽だと思います。
またこの録音では、ストラドの中でも超一級の銘器と言われる、メニューインの愛器の質感が上手く捉えられているのも嬉しいところです。

モーツァルト:メヌエット k.334

ユーディ・メニューイン(ヴァイオリン)
ジェラルド・ムーア(ピアノ)
録音:1945年、ロンドン