飛ぶスツーカ |  青行燈

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  本業絵描き。副業でモデルと役者をしております。
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先日、かたやままことさんの漫画『アニーズ・ぱんつぁー』のサイン本を頂戴しましたお話を致しましたが、一巻より続けて購入しておりました、『蒼空の魔王ルーデル』の四、五巻と併せまして購入しておりました。

発売当時に購入しておりましたが、感想がまだでありました。

 

『蒼空の魔王ルーデル』四巻。

スパイの彼の行動によりドイツ軍の行く末が決まってしまうような展開の中、様々な柵(しがらみ)によって本人の意思に違えるような方向へ進んでしまうのではないかと不安な前半。

編隊を組んで飛ぶスツーカの仲間たちの姿、飛行機や爆発の黒々とした煙、発火した瞬間の眩しさが緻密に描かれているからこそ、映画のような存在感と現実感。

不時着した仲間の機体に機首からオイル漏れの汚れが鋭い墨でさっと飛ばしてあるカットが御座いますが、この機体の向こう側へ今飛んできたルーデル機が描かれております。

このコマが本当に素晴らしくて私は息を呑んだのですが、不時着のスツーカは当然飛んではおらず、地面で静止しているのですよね。

しかし機首からの黒い汚れの線により、動線との読者の勘違いから普通なら飛んで動いているように見える筈なのです。

ところが、その奥へ汚れのないルーデル機が機体を斜めにして川上をさあっと入って来ている。

戦闘機ではないスツーカの重さのあるスピード。

その、深緑色のドイツスツーカが白く光って見えるように、活き活きと飛んでいる。

ルーデル機が飛んでいることで、手前の不時着スツーカが止まっているのです。

直線の多い無機物を活き活きと描くのは、本当に動いている様がお好きで、何度もそれを目にして描いていらしたからに他なりません。

かたやまさんの飛行機が私はとてもすきで、是非いつか零戦の物語も読みたいと思いました。

 

そして真坂の人の死。

ルーデルの悲痛な声を読者も共に発します。

私も思わず本に向かって声が出ました。

戦争の無慈悲な鉄槌がドイツ軍だけでなくあらゆる場所へ下されることを感じ、久し振りに漫画に喉が詰まりました。

 

ソ連軍にはかたやまさんお得意の、美女キャラクター登場。

日本人男性が好む、少し幼い雰囲気のキャラクターではなく、かたやまさんの大人女性のキャラクターが私は好きですねえ。

女性の乗る速い戦闘機側にカメラ視点が付き、ルーデルのドイツ十字の描かれたスツーカが腹を見せて飛びます。

海上に弾が食い込み水柱が次々に立つ。

傾注するシーンです。

史実通りに撤退許可の遅かった半島で半数近くの兵が撤収撤退出来ず残され、壊滅。

語るカットは僅か三コマですが、主人公たちの状況に被せ夕陽が落ちていくという演出も大変映画的で、正に漫画の真骨頂。

漫画はアニメーションのように動かず音も出ませんが、読者がそれらを自由に頭で創造出来るエンターテイメントですね。

想像力のある人間は映画以上に、漫画というエンターテイメントを作者と一緒にクリエイト出来るということです。

 

『蒼空の魔王ルーデル』五巻、最終巻です。

最終巻にて、私の好きな小さな伏線張りと、同じ言い回しが少し強い意味を以って繰り返して使われるという、視聴者や読者がにやりとしてしまう演出。

映画や漫画はこういった練りを感じたい為に観ているようなものだと言って良いくらい、好きな演出です。

ここでソ連軍新型機が登場し、その速さを画面上で実感致します。

その前に、最新兵器とヒトラーの狂信的命令によってルーデル機が飛ぶことになりますが、この辺りからのカメラ視点により、読者はルーデルに大きく感情移入出来ます。

一巻から、牛乳好きで戦争の最中飛びたいと言い切る変人として、読者はなかなかルーデルに感情移入出来ずに居りましたが、ルーデルの人を思う熱い心、死の影に怯える弱さなど、少しずつ自己投影が成され、いつの間にか最終巻、最後のシーンでは声を共に同じ台詞をルーデルと発します。

とても面白く、厚みがあり読後感の良い漫画であります。

 

ところで、なぜなにルーデルではベルリン焦土作戦についてやV2ロケットの後の説明がとても勉強になったのですが、私としては今も販売しているショカコーラが気になりまして、楽天カートに入れてしまいました。

また機会あれば食べてみたいです。