夜の国のクーパー/東京創元社



読書マラソン115冊目。

さすがに卒論生となると1ヶ月1冊ペースを崩せないでいる;

卒業までにあと5冊、厳しいかなぁ・・・

それはさておき、本題の書評へ。



人間という生き物はいつも自己の主張を押し付け合うばかりで、

結局平行線のまま終わってしまうことが多い。

今の世界情勢を見ても、戦争は絶えず未解決の問題は依然として

解決の糸口が見出せずにいたりする。

しかし、作中にも出てきたように、

「平行線もどちらかが寄り添おうとすればいずれは交錯する」

というのは明らかで、まさにその通りだと唸ってしまった。

その“寄り添う”という行為こそが本作の「猫」と「鼠」との

“話し合い”や駆け引きであり、誰にも知られずとも救おうとする

兵士の「思いやり」の心なのではないだろうか。

ただ、個人個人のやり取りであればまだしも、

国など大きなものを抱えるにつれてこういった行為や心は

なかなか難しいというのも理解できる。

複雑化した社会というものはこういった単純な解決策に欠ける。


また、事の真偽というものは実に曖昧であり、

「今まで当たり前だと思っていたものが本当は間違いである」

という儚さや危なさを秘めているということにゾッとした。

鵜呑みにせず、疑ってみることは大切である。その反面、

疑心暗鬼にならず、まずは信じてみることも大切である。

こういったジレンマはやはり難解で、いつも人を悩ませる。


そういった中で、自分を持つということは必要だと思う。

自らの意志で決定することの大切さを再認識しつつ、

帰れる場所が“当たり前”に存在することの幸せを噛み締めたい。

「出かけたら、ちゃんと帰る。」

書いてみれば簡単で普遍的なことだが、

これができない人たちのことを考えると

改めて自分たちの幸福さを呪いたくなる。


影丸の一言:
今年の読書マラソンコメント大賞のエントリーはこれで〆かなぁ。
しかし伊坂作品はいつも終盤が気持ち良いね。