2025年11月24日

 

 日本は台湾を中国の一部だとは認めていないとの主張が散見される。

 その主張が根拠としているのは、1972年日中国交回復の際の日中共同声明第3項である。

 そこでは、台湾が中国の不可欠な領土の一部だと主張する中国政府の立場を、日本政府は「十分理解し、尊重する」としていて、「承認する」とはしていない。

 その意味は、「台湾が中国の一部であると承認はしないけど、あなた方がそのことを繰り返し言っていることについては理解していますよ、そして尊重しましょう」という意味であり、日本の立場としては、台湾を中国の一部だとは認めていないということになる、とその主張は言うのである。

 

 この主張のレトリックにだまされることなかれ!

 確かに「承認する」とは言っていない。しかし、「否認する」と言っているのではない。「十分理解し、尊重する」と言っているのである。

 しかし、この主張では強引にそれを「否認する」ということにしてしまっている。

 巧みに「否認する」という理解に国民を誘導している。

 (「(中国政府の立場を)十分理解し、尊重する」とは、台湾に中華人民共和国政府の施政権が現に及んでいないという事実を踏まえ、だからといって日本が台湾独立運動に加担するような中国政府の立場に反する行動はしない、ということを意味する。(注0))

 

 そして、この主張は、あたかも「領土の承認」という制度があるかのごとき立場に立って、「承認」でなければ「否認」との論を唱えているが、そもそも、国際法に「国家の承認」という制度は存在するが、「領土の承認」という制度は存在しない。

 侵略によって奪取された土地を領土として追認しないというような場合を除き、領土の帰属は当事国間(注1)で決定されればよく、第三国がこれを承認するとかしないとかいう問題ではなく、第三国を関与せしめる制度は不要という考え方によるものと考えられる。

 したがって、我が国においても、侵略によって領土と宣言された地域を侵略国の領土として認めないという例(クリミア、ウクライナ東部州に対するロシアの領土宣言、イスラエルの東エルサレム、ゴラン高原の併合など)はあるが、特定の地域を特定の国家の領土として「承認」した例は皆無である(「カイロ宣言」(1943)により指定された地域(注2)の中国(注3)への返還を「ポツダム宣言」(1945)受諾によって事実上承認した例を除く)。

 

 冒頭に掲げた主張は、国際法などには縁のない一般国民の無知につけこんで、我が国がこれまでとってきた基本的立場を誤解させ、いたずらに問題の解決を複雑化させることとなる犯罪的な主張である。

 仮に日本政府がこの主張を肯定するようなことがあれば、高市答弁に起因する一連の事態は一挙に爆発拡大し、日中間は断絶状態に陥ることになるであろう。

 この主張は外交に素人ではない一部自民党議員も主張しているようだが、国民を誤った方向に誘導する不誠実極まりなきものと考えられる。

 

(注0)       高市首相は首相就任後においてもこの点についての無頓着が見られる。

(注1)       台湾と中国の関係がこの「当事国間」に該当しないことは言うまでもな

     い。

(注2)       「満洲、台湾及び澎湖島のような日本国が清国人から盗取したすべての地

     域」とされている。

(注3)       「カイロ宣言」において「中華民国」とされているが、これが「中国」と

     いう国家を意味するものであり、特定の政府を意味するものではないこと

     は歴史的にも明らかである。