2025年5月26日

 

 大相撲夏場所千秋楽、大の里は横綱豊昇龍に敗れて惜しくも全勝優勝を逸した。

 その敗因について私見を披露したい。

 キーワードは「後の先」である。

 「先手必勝」というのが何事についても基本だが、「後の先」とはその原則に反するものだ。

 相手に先手を取らせ、それに応じて自分の有利な対応を取るというのが「後の先」である。

 敢えて後手を取って、それを先手となすということである。

 「後の先」が成立するためには、相手との一定の力の差が前提となる。

 

 大の里は今場所前半で自分の力を知り、この「後の先」を体得したと思われる。

 その結果、安定した取り口で連勝を続けたのである。

 しかし、残念ながら千秋楽の対豊昇龍戦でそれを忘れ、先手を取りに行った。

 それで敗けたのである。

 

 先手には4つのリスクがある。

 その1は、腕を伸ばすことによって脇が甘くなる。

 その2は、相手に近づいていくことによって相手にまわしを許しやすい。

 その3は、重心が前に掛かる。かかとよりつま先に体重がかかりやすい。

 その4は、やや腰が浮く。

 

 一般の力士はやはり「先手必勝」なので、このリスクを負いながらそれを最小にするよう体を鍛え、練習を繰り返すのである。

 しかし、圧倒的な力を持つ大の里はこのリスクを負うことなしに「後の先」で行けば、どの相手でも倒すことができる。

 体格、パワー、スピードの卓越が大の里にそれを可能とするのだ。

 

 千秋楽、大の里は豊昇龍に対してそれだけの力の差があるという自信にまだ欠けていた。

 先手を取らなければ勝てないという焦りがあったのだ。

 そのため、立ち合いには勝って右差しに成功したものの、豊昇龍に左上手、右差しを許し、回り込んでの上手ひねりを食らうことになった。

 豊昇龍には「後の先」に徹しきれなかったということだ。

 

 大の里が大横綱となって長期政権を樹立するかどうか、それは大の里の「後の先」の貫徹いかんによる。