2024年5月22日

 

 有名スターが活躍するスリルとサスペンスのアクション映画である。(チェン・アル(程耳)監督、主演トニー・レオン(梁朝偉)、ワン・イーボー(王一博))

 中国映画ゆえにこの映画を反日プロパガンダととらえる向きもあるようだが、無用のことだ。

 連合国側における、第2次世界大戦を舞台とする大衆向けの戦争映画で、反ナチ、反日は言わば当然の前提であって、それにいちいち目くじらを立てていたらキリがない。

 かつてのテレビ映画「コンバット」を反ナチ・プロパガンダ映画とみるのは過剰反応であろう。それと同じだ。

 

 しかし、この映画のスリルとサスペンスを堪能するためには、歴史的知識がなければならない。

 最近の我が国の歴史教育の状況を知らないが、近現代史をはしょるという教え方をされた我々の世代にとっては、この映画は難解ということになってしまうだろう。

 主人公たちは汪兆銘政権のスパイ組織に所属する。その主人公たちは決して単純に所属組織に忠実な者たちではなく、国民党のスパイ組織、帝国陸軍の特務機関、中国共産党とからみ、複雑な内通関係にある。

 帝国陸軍には石原派、東条派があることまでが描かれる。

前後に行きつ戻りつする時間設定の複雑さもあって、事前知識なくこの映画を見るのではまったくチンプンカンプンに終わってしまう可能性が高い。

 観る前に「ネタバレ」とされる情報をためらうべきではないだろう。

 

 一方、この映画は中国では第36回金鶏賞(中国、香港でのアカデミー賞に相当とされる。)8部門ノミネート、最優秀監督賞、最優秀主演男優、最優秀編集賞を受賞し、興行収入181億円を上回るヒットを記録したとされている。

 鑑賞のために必要な歴史的知識の上でのこの映画のヒットだとすると、中国一般大衆の対日戦争に関する知識は、単なる反日意識を超えて並々ならぬものがあると考えざるを得ない。