2023年10月23日

 

 今年度の文化勲章受章者に経済学者・岩井克人氏が選ばれた。

 岩井克人氏についての筆者の雑学的知識を提供したいと思う。

 

1. 岩井克人氏は、資本主義を「歴史的特殊性」をもった経済制度ととらえて、トー 

 タルに経済学の対象とする立場に立つ大経済学者である。

 

 筆者の見解では経済学者を大きく2つに分類することができる。

 その1つは、資本主義経済を疑問の生じる余地のない与件として考え、その与件の範囲内で経済を考える経済学者たちである。

 もう1つは、資本主義を歴史的に形成された一制度と考え、それを支える特別な条件のもとで成り立っている特別な経済制度と考える経済学者たちである。

 現実の経済問題に向き合うにあたり、当然のことながら、2つの立場によって、問題のとらえ方、また対処方針は異なってくる。

 前者の立場からは、資本主義の成立条件を超える対処方針が出てくることはない。

 後者の立場からは、資本主義の成立条件もまた、問題解決のために手を付ける対象となってくる。

 岩井克人氏は後者の立場にある経済学者である。

 

2. 岩井克人氏が攻撃対象としたのは、「新古典派経済学」であり、大いなる成果を

 あげている。

 

 「新古典派経済学」とは、市場経済メカニズムに対して、信仰的ともいうべき過剰な信頼をおく経済学である。

 現実に適用されて大きな影響を与えた象徴的な経済政策としては、レーガノミクス、サッチャリズムといわれる経済政策、そして中曽根元首相の経済政策がある。

 日本の経済学者としては、マスコミにも登場し、大臣にも就任した竹中平蔵が、本人は否定しているようだが、「新古典派」の経済学者である。

 「新古典派経済学」は、市場への政府介入の必要を主張するケインズ主義に反対し、「小さな政府」「民営化」「規制撤廃」等を主張する。

 ケインズ主義の流れを「不均衡動学派」と呼ぶこともある。

 「不均衡動学派」は、政府介入によって市場の動きを是正しなければ、資本主義はうまくいかないと主張する。

 岩井克人氏は「不均衡動学派」である。

 

3. 岩井克人氏は、マルクス主義経済学を、その「貨幣論」「恐慌論」によって、批

 判する。

 

 岩井克人氏のマルクス主義経済学批判は、岩井氏の政治的方向感覚がなさしめたものと考えられる。

 したがって、理論的には、その批判は成功していない。

 岩井氏の「貨幣論」から「投機論」にいたる資本主義アプローチは、素晴らしいものであり、資本主義の本質を見事にとらえている。

 そこにマルクス主義経済学批判を介在させたのは、無用であった。

 その誤りは、資本主義にとっての危機は、貨幣の信用が崩壊するハイパーインフレーションにあり、貨幣選好が極端に強まる恐慌には無いとするところに象徴的に現われている(危機としてはいずれも考えなければならない)。

 

4. 1968年東大の全学ストライキの時代、学外で開かれていた宇沢ゼミ(当時東

 大経済学部教授だった文化勲章受章者宇沢弘文によるゼミ)に岩井克人氏は参加し 

 ていた。

 

 岩井克人氏は、その経済にたいする基本的スタンスの形成を、宇沢弘文氏に負っていると思われる。

 経済学者の文化勲章受章者が師弟関係にあり、二人とも反新古典派であるのは偶然なのか、何かあるのか、興味あるところである。

 宇沢ゼミには、有名なところでは、その後保守論客として活躍した西部邁氏(当時、経済学部助手)も参加していた。

 

5.小説家水森美苗氏(『本格小説』『母の遺産』など)は岩井克人氏夫人である。