2023年7月1日
悪人が悪をなすのではない。
ふつうの、常識的なあなた、そして私が、悪意のないまま、「悪人」「弾圧者」になるのだ。
世間的な、気のいいおじさん、やさしいおばさん、が「加害者」になるのだ。
2020年3月の警視庁公安部による外国為替及び外国貿易法違反(軍事転用可能な機器の中国への無許可輸出)の容疑による会社社長ほか3人の逮捕、起訴(その後起訴取消し)が「捏造」「でっち上げ」だったことが捜査を担当した警察官の法廷証言により明らかになった。
警察官の法廷証言では、この「捏造」は「捜査幹部の個人的な欲」によるものであり、「定年近くでの昇進、退職後の処遇を考えた業績作り」との推測が語られている。
法廷証言をした警察官の上司にあたる「捜査幹部」、この人物を特別な人ととらえるべきではない。
この「捜査幹部」は決して特別な人ではない、「ふつうのおじさん」だろう。
職場では部下の面倒見もいい、一緒に居酒屋で酒を飲む、「気のいい上司」だろう。そうでなければ大組織の中で幹部にはなれなかったはずだ。
家に帰っては、子どもたちとも遊ぶ「いいお父さん」であり、近所とは気さくに挨拶を交わし、町内の世話までするような人であったかもしれない。
その「ふつうのおじさん」が「定年近くでの昇進、退職後の処遇を考えた業績作り」のためにありもしない事件をでっち上げて、無実の人間を平気で罪に陥れるようなことをしでかしたのだ。
そして、彼の「常識」「世間知」は、「軍事転用可能な機器の中国への無許可輸出」の摘発は業績として評価されるというものだった。
世の中の対中警戒感の強まりという大きな流れを、彼は悲しい、わびしい、みじめったらしい小役人根性で忖度したのだった。
だれもがふつうにもっている、役人でなくてももっている小役人根性、すなわち自分不在の忖度精神、それが今回の事件を生んだのだ。
ユダヤ人ホロコーストの責任を問うアイヒマン裁判で哲学者ハンナ・アーレントを驚かせたアイヒマンの小役人根性、事件の規模こそ違え、今回の事件を生んだものと同じものだ。
また、逮捕起訴の元となった「軍事転用可能な機器」の要件については、経産省の省令で決められており、その要件があいまい、経産省が解釈を決めていないという問題の指摘が逮捕起訴された被害者側からなされている。
外交に重大な影響のあるこのようなルール上の欠陥が、経産省においても、外務省においても、放置されていたということには、世の中の対中警戒感を忖度して規制強化を急ぎ、かつ世の中に甘える両省の役人的姿勢が垣間見えるような気がする。
そしてさらに、フェイク乱れ飛ぶ世間にいながら、警戒感不足のままで、そのフェイクに浸りきって、安易に世論の一角となり、多数派という立場にあぐらをかいている我々こそが、もっともらしい世間相場というものに忖度をする、自己喪失の存在だと考えておかなければならない。
今回の事件の基層はこういう我々が作り上げたものだ。
今回の事件で反省を迫られているのは我々なのだ。